チップヒューズとは
チップヒューズとは、基板上に実装するチップ部品の1種です。
回路の異常により過電流が流れて発熱しても、溶断による事故を防ぐ役割があります。構造はチップ抵抗器とほぼ同じですが、抵抗体の代わりに融点が低い金属である溶断エレメントとして使われています。
チップヒューズの使用用途
チップヒューズは、基板上に実装されています。具体的な採用例として、スマートホンや携帯電話などのバッテリ駆動の通信機器、ポータブルタイプのオーディオ機器、カメラなどの撮影機材の電子回路が挙げられます。
基板上の素子の異常などにより、過電流が流れた場合の事故防止を目的としています。ただし、通常のヒューズのように商用電源が接続される電源回路に使うものではありません。
なぜなら、チップヒューズは部品寸法が小さく、絶縁距離を十分確保できない上、大きな電流を流すこともできないためです。あくまでも一部の回路や基板の保護用に使うものです。
チップヒューズの原理
チップヒューズは、単層もしくは多層のセラミック基板に電流が流れる溶断エレメントを形成したものです。溶断エレメントは、銅、金、または銅錫や銀パラジウム合金等、導電性が比較的高い材料がベースで、それ故にヒューズの抵抗値は小さなものになります。
また、溶断エレメントは、レーザトリミングした厚膜デポジットやエッチング加工した金属層を用いて、求められる特性を実現します。つまり、チップヒューズに流れる電流が定格を超えた過負荷の下で一定時間が経過すると、溶断エレメントが溶融するように形状と厚さが設定されています。
加えてチップヒューズが確実に動作するためには、溶断エレメントをさまざまな周囲環境から保護する必要があります。多層のチップヒューズはセラミック基板層で周囲を覆われているので、溶断エレメントに特別な保護膜は不要です。一方、単層のチップヒューズでは、通常エレメントはラッカーまたはエポキシを保護膜として塗布して特性の変化を防止しています。
また、ヒューズには速断型やラッシュ電流では溶断しにくい耐インラッシュなどのさまざまなタイプが存在しており、タイプによって溶断特性が異なります。溶断特性を考慮しないと、正常作動時にもヒューズが切れる可能性がある一方、万一の際に回路保護が機能しない等の問題が起こるため、使用する回路に合わせて最適な溶断特性を備えたヒューズを選定することが大切です。
チップヒューズの選び方
回路を流れる電流が一定である場合、ヒューズの選定は容易です。短絡などの異常時は、通常より遥かに大きな電流が流れるため、回路の動作電流を超えた直ちに溶断するものを選べば問題ありません。したがって、ほぼ一定の電流が流れる回路では「速断型」と呼ばれるタイプのヒューズを選定します。
しかし、実際に回路に流れる電流は、多くの場合一定ではなく、動作状態によって複雑に変化するものです。例えば、電源回路に静電容量の大きなコンデンサが接続されていると、電源投入時は定常時の何倍もの突入電流が流れます。モータなどでも、起動時 (電源が投入されてから回転が安定するまで) に大きな電流が流れることは避けられません。
こうしたラッシュ電流は正常な動作ですが、ヒューズの選定によってはそのラッシュ電流で切れてしまう恐れがあります。一方、ヒューズの定格電流を余裕をもって大きめに設定すると、安全性が薄れてしまうので望ましくありません。このような場合は、短時間のラッシュ電流では溶断しない特性を有する「耐インラッシュ型ヒューズ」を用いることが1つの対策です。
1. ラッシュ電流
回路のラッシュ電流とヒューズの溶断との関係を見極めることは難しいもので、電流の波形や時間とヒューズの溶断特性とをよく検討しなければなりません。
ヒューズで発生する熱の経時変化を踏まえ、これに適した溶断特性をもったものを選定する必要があります。ヒューズメーカからはそのための資料が多数提供されているので、それらを活用することをおすすめします。
2. 定格電圧
ヒューズは回路設計上は電線と同じに扱いますが、実際には小さな抵抗値を持つため、多少の電圧降下は避けられません。特に最近の電子回路は動作電圧が低くなっているので、その電圧降下の影響を確認しておくことが必要です。
また、ヒューズにも定格電圧があり、必ずその電圧以下で使用して下さい。チップヒューズの定格電圧を超えて使用すると、溶断後にアーク放電を起こして再度導通してしまう恐れがあります。
3. 定格電流とディレーティング
定格電流で考慮すべきことは、ディレーティングです。ヒューズの場合は、2種類のディレーティングがあります。1つは一般的なディレーティングで、回路の定常電流がヒューズの定格電流の70%以下となるようにヒューズを選択することです (ヒューズメーカにより多少異なります) 。
もう一方は、温度に対するディレーティングです。ヒューズが実装された基板の周囲温度に対応したディレーティングを設定する必要があります。一般にディレーティングの量はヒューズメーカのカタログやデータシートに記載されているため、確認が必要です。
4. その他
ガラス管ヒューズなどは過大電流により溶断した場合でも、故障個所を修理した後にヒューズを交換して導通を復旧させることができます。しかしながら、チップヒューズでは基本的に交換することは想定していません。即ち、チップヒューズが溶断した場合は、ヒューズ交換ではなく基板全体を修理交換することになります。
また、チップヒューズでは「溶断したかどうか」を目視で確認することは困難です。テスターなどを使用すれば電気的に溶断を確認することが可能ですが、ガラス管ヒューズのように外観から判断することはできません。
参考文献
https://www.koaglobal.com/product/category/fuse
http://www.rs-components.jp/techinfo/techmame/mame_200612.html