GaNパワーデバイスとは
GaNパワーデバイスとは、窒化ガリウム結晶上に形成した次世代半導体パワーデバイスです。
従来のシリコン上に半導体プロセスで作成したパワーデバイスよりも大きい電力を少ない損失で扱えることから、近年非常に注目されています。GaNパワーデバイスはその構造上、信頼性や安全性がシリコン系パワーデバイスに比較すると実用化に向けての課題でした。しかし、近年の化合物半導体関連の技術革新により、このような問題は解決されつつあります。
GaNパワーデバイスでの高効率化によって、排熱機構の簡素化なども可能であり、製品の大幅な小型化や低消費電力化に貢献できます。
GaNパワーデバイスの使用用途
GaNパワーデバイスは、スマートフォンやパソコンの急速充電を可能にする充電器や、携帯電話の基地局用アンプに広く用いられています。シリコン系パワーデバイスよりも大きな電力を扱えるため、その置き換え用途としてパソコンの充電器や基地局向けアンプなどに使用される場合も多いです。
また、太陽光発電システムなどのパワーコンディショナーでは極めて高い変換効率を要求されるため、高効率なGaNパワーデバイスが採用され始めています。さらに、高速スイッチング動作も可能なことから、電源の安定性が要求されるサーバー機器などのスイッチング電源としても使用されています。
GaNパワーデバイスの原理
GaNパワーデバイスの原理は、バンドギャップと呼ばれる半導体物性値がGaNはSiに比較して約3倍と高電界に耐えるデバイスであるため、デバイスの単位面積当たりの動作可能なパワー (電力) 密度を非常に大きく確保できる点にあります。
一般にGaNパワーデバイスは、HEMT構造と呼ばれる高電子移動度トランジスタ回路で構成されます。このHEMT構造は常に電流が流れるノーマリーONの状態であり、ゲートに負電圧を印加することでOFFにします。そのため、なんらかの不具合でゲート電極への負電圧印加ができなくなると、OFFにできず非常に不安定な状態になります。
GaNパワーデバイスは、このような信頼性の問題があり、安定したノーマリーOFFの実現が使いこなしの観点で課題でした。そこで、ゲート電極にノーマリーOFFのSi-MOSFETを組み込むことで、ノーマリーOFFを実現しています。
また、もう一つの課題として、電流コラプスと呼ばれる物理現象が挙げられます。これは高電圧のスイッチングにおいて、ON抵抗が増大し電流集中が発生する現象で、GaN結晶の作製過程の欠陥によるものです。GaNパワーデバイスは、SiやSiCウェハ上にGaN膜を形成させる必要がありますが、結晶薄膜の成膜技術の革新によって、現在は高品質の成膜が可能になっています。
GaNパワーデバイスのその他情報
1. GaNとSiCとの棲み分け
GaNやSiCは、バンドギャップが大きいことに起因してその絶縁破壊強度は大きく、デバイス耐圧を上げることが容易です。そのために大電流、高電圧なアプリケーションに向いています。特にSiCは、デバイスの耐圧面からEV自動車や発電システム等、モーター駆動用途などの大電流用アプリケーションに使用されることが多く、近将来のIGBTの置き換えデバイスとして、非常に期待されています。
一方で、GaNパワーデバイスはSiC程の耐圧は確保困難であるものの、特に高周波特性を示すCut off周波数 (fT) が高く、電子の移動度も大きくとれるために、高速のスイッチング速度や高周波数動作が要求されるアプリケーションに広く用いられています。
すなわち、GaNとSiCの棲み分けは高速スイッチング充電や高周波数用途向けの5G基地局向けにはGaNデバイスを、さらに高耐圧、大電流用途には、SiCデバイスを使い分けていると言えます。
2. GaNを用いたパワー半導体のトレンド
GaNパワー半導体は大きく分けて、現在では比較的高い650V以上の電気自動車のオンボード充電を対象としているものと、ハイブリッド電気自動車の48Vから12VへのDC-DCコンバータでの電圧変換を対象としているアプリケーションの2つがあります。いずれもGaNパワー半導体として、SiCデバイスと並んで、今後のワイドバンドギャップ (WBG) デバイス市場を牽引していくものと思われます。
これらの新規アプリケーション用途に向けた実用化への課題は、信頼度や製造歩留まり、コストですが、世界中のセミコンダクター関連企業の努力もあり、実用化への可能性は大きく前進を遂げています。
3. GaNデバイスの応用について
そのほかのGaNデバイスの応用分野としては、光源用アプリケーションが挙げられます。GaNは化合物半導体の中でも直接遷移型半導体であるため、発光効率の大きなLED光源やレーザーダイオード用材料としての期待が大きいです。
電子デバイスとしても高出力かつ、ミリ波やサブTHz向け高周波数用のアンプトランジスタとしての応用が期待されます。
参考文献
https://eetimes.jp/ee/articles/1604/04/news004.html
https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2016-pp-08.pdf
https://eetimes.jp/ee/articles/2006/17/news029.html
https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2018-pp-14.pdf