半導体露光装置とは
半導体露光装置は、半導体製造工程の内、シリコンウェーハに回路パターンを描写するための装置になります。回路パターンの原型となるフォトマスクに強力な紫外光を透過させ、フォトレジストを塗布したシリコンウェーハに回路パターンを転写します。近年では、細かい回路パターンを微細化するためにEUVと呼ばれる波長が13nmのレーザーを使用する装置もあります。位置決めなどが非常に高精度で要求されるため、装置の値段が高価です。
半導体露光装置の使用用途
半導体露光装置は、MOS(金属酸化物半導体)-FET(電界効果トランジスタ)などの半導体素子を含むIC(集積回路)の製造工程における露光工程で使用されます。
ICの製造工程では、シリコンウェーハ上においてフォトリソグラフィおよびエッチングのサイクルを順次回繰り返し、シリコン酸化物や金属などのレイヤ(層)を所定のパターンに積層および加工する過程で、半導体素子として必要な特性を持つような処理が行われます。一例としてn型MOS(NMOS)の場合、p型のシリコン基板上のゲート領域にシリコンの酸化膜とその上にゲート金属を形成し、ドレインおよびソース領域には高濃度の不純物をイオン注入することで、n型(n+型)のMOSを形成します。このような一連のプロセスにおけるフォトリソグラフィおよびエッチングの各工程は、図のように構成されます(成膜工程S1~レジスト剥離工程S6)。
このうち、露光工程(S3)が、半導体露光装置を用いて行われる工程です。回路パターンの寸法や半導体素子の精度によって、露光装置の波長が使い分けられています。
半導体露光装置の原理
半導体露光装置は、光源、コンデンサレンズ、フォトマスク、投影レンズ、ステージで構成されています。光源から発生した紫外光がコンデンサレンズによって、同じ方向を向くように調整されます。その後、回路パターンを構成する1つのレイヤの原型となるフォトマスクを紫外光が通過して、投影レンズで光が縮小され、シリコンウェーハ上に半導体素子の回路パターン(の1つのレイヤ)を転写します。ステッパのような露光装置では、1回転写が終われば、ステージによってシリコンウェーハが移動し、シリコンウェーハ上の別の位置に同じ回路パターンを転写します。フォトマスクを取り換えることで、半導体素子の回路パターンの別のレイヤの転写が可能になります。
光源には、248nmの波長のKrFエキシマレーザーや、193nmの波長のArFエキシマレーザー、13nmの波長のEUV光源などが使用されます。
最新の半導体製造工程のデザインルール(最小加工寸法)は、3~5nm程度まで微細化が進んでいるので、コンデンサレンズやフォトマスク、投影レンズ、ステージすべてに、ナノ単位の高精度が要求されています。また、積層化も進んでいるので、露光は回路パターンを変えて1つの半導体ができるまでに何回も行われます。
半導体露光装置の市場規模とシェア
世界の電子機器市場は拡大を継続しており、それを支える半導体産業の重要性はますます重要になっています。世界の半導体市場は2019年にマイナス成長になりましたが、過去もリーマンショックなどを経験しながらも拡大を継続しています。近年メモリは微細化から3D化へ技術開発が変化しておりエッチング技術の重要性が高くなってきています。
半導体露光装置の市場規模は、2018年時点で1兆852億円です。
消費地域別のシェアは、1位韓国36%、2位台湾19%、3位中国18%、4位米国14%、5位日本7%と続きます。半導体露光装置のベンダ国籍別シェア(2018年)は、欧州(84%)、日本(14%)、米国(2%)で、欧州・日本でほぼ寡占されています。
EUV露光装置について
EUV(Extreme Ultravioletの略)露光装置とは、極端紫外線と呼ばれる非常に短い波長の光を用いた半導体露光装置です。従来のArFエキシマレーザ光を用いた露光装置では加工が難しいより微細な寸法の加工が可能となります。
半導体の微細化は、ムーアの法則(半導体集積回路は3年で4倍の高集積化,高機能化が実現される)に従い微細化されてきています。これまでにもステッパーと呼ばれる縮小投影露光技術や露光波長の短波長化や液浸露光技術の開発により、解像度を飛躍的に向上させてきています。
微細化はウェーハに焼き付けることのできる最小加工寸法が小さくなることであり、その最小加工寸法Rは以下のレイリーの式で表されます。
R=k・λ/NA ※kは比例定数,λは露光波長,N.A.は露光光学系の開口数
これまでも様々な技術開発により、kを小さくしたりλを小さくしたりNAを大きくすることで、微細化を実現してきています。
EUV露光装置は、露光波長の短波長化によりこれまでの限界を突破できる技術とされ、近年量産化がされています。
半導体露光装置の価格について
半導体露光装置は、現在半導体を効率的に量産するのに欠かすことのできない装置ですが、史上最も精密な機械といわれており、価格は高価になります。
半導体露光装置で利用する光源波長が短いほど、微細なパターンが形成できる上、露光装置の価格も高くなるとされています。波長ごとに、i線が約4億円、KrFが約13億円、ArFドライが約20億円、ArF液浸が約60億円、EUVが約200憶円規模といわれています。
回路が微細になればなるほど信号伝達の高速化や省エネ化などを図ることができますが、近年半導体露光装置の価格も含め微細化によるプロセスコストの増大が無視できなくなってきています。
また半導体露光装置に求められる性能として、半導体製造するコスト面から半導体露光装置のスループットも重要な指標になります。スループットとは、どれだけ高速に回路パターンを露光できるかを示す性能で、スループットが上昇するとシリコンダイ1枚当たりの製造コスト(ランニングコスト)は低下します。半導体チップの量産時に重要視されます。
参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl1962/41/1/41_1_8/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe1986/57/4/57_4_615/_pdf
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000182.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspf/79/3/79_3_221/_pdf
http://koueki.jiii.or.jp/innovation100/innovation_detail.php?eid=00064&test=open&age=