CO2インキュベータとは
CO2インキュベータとは、細胞を生理的な条件で培養するための培養装置です。
細胞培養には温度や湿度、pHの制御が極めて重要で、これらが適切でないと細胞の機能に影響を及ぼすだけでなく、最悪の場合死滅してしまいます。
CO2インキュベータはこうしたパラメータを正確にコントロールすることで細胞機能を正常に保ち、細胞を用いた実験をサポートする装置です。特に炭酸塩でバッファされた培地のpHを一定に保つために炭酸ガス (CO2) を供給できることが特徴です。
CO2インキュベータの使用用途
CO2インキュベータは、細胞の機能や健康状態をできるだけ生体に近い状況で培養するために用いられます。新規薬剤のスクリーニングなどを行う際は、候補薬剤を培養細胞に添加することでその効果を検証します。薬剤の効果を正しく評価するには、培養細胞が生理的条件に近い状態にあることが前提です。
その他、基礎生物学的な研究で細胞の機能を評価する際や遺伝子導入実験を行う際も、適切な条件で細胞を培養・維持することが実験の成否につながります。
CO2インキュベータの原理
CO2インキュベータは、庫内のCO2濃度を5%と高濃度に調整することで、培地中の炭酸イオンと庫内CO2ガスとの平衡を維持するため、培地の炭酸イオンが一定濃度に保たれます。これによって、培地のpHを生理的条件に近い7.4近傍に維持することが可能です。
培養を細胞するための培地の多くは弱アルカリ性ですが、pHを7.4近傍に調整するために炭酸水素ナトリウム (NaHCO3) などの炭酸塩が添加されています。通常の大気中ではCO2濃度は0.05%以下のため、培地中に含まれる炭酸イオンの平衡状態が崩れ、培地から大気中へ炭酸ガス (CO2) として放出されてしまい、培地のpHは上がり (アルカリ性に偏り) ます。
CO2インキュベータは、パラメータを各種センサーでモニターしながら、設定した値に保たれるようにフィードバックをかけるのが役割です。培養温度は哺乳類細胞であれば37℃、湿度は95%以上に保たれます。湿度の低下は培地から水の蒸発を促進し、培地成分の濃度上昇や浸透圧の変化を引き起こしてしまいます。
CO2インキュベータのその他情報
1. CO2インキュベータの酸素濃度
CO2濃度は多くの場合5%程度に設定されます。このとき、庫内の酸素濃度は大気と同じ約20%です。CO2インキュベータは、CO2の濃度をコントロールする装置であり、酸素濃度の調節機能はついていないためです。
ただし、培養装置の中にはマルチガスインキュベータという酸素濃度を調節できるものがあります。また、CO2インキュベータに後付けできる酸素コントローラーと呼ばれる装置も存在します。これらを使用し酸素濃度を低濃度にコントロールすることで、生体内に近い条件で培養した細胞の応答を見ることができます。
2. CO2インキュベータの掃除方法
CO2インキュベータでは細胞の培養に適した環境であると同時に、汚染菌にとっても繁殖しやすい温度や湿度となっています。インキュベータ内の定期的な清掃は、汚染菌の繁殖やコンタミネーションを防ぐために重要です。清掃頻度は2週間から1か月に1回が目安です。
庫内の掃除
庫内表面や棚は、絞ったアルコール綿で拭き取ります。扉の解放時間が長くなるとCO2濃度や温度、湿度が低下してしまうため、手早く清掃を行います。棚を取り外せる場合は、洗剤と水で洗浄し乾燥させた後に再度取り付けます。
インキュベータ用の清掃薬剤を使用する方法も効果的です。培養物を庫内に入れたまま庫内表面をスプレー清掃できるタイプもあります。
加湿バットの掃除
湿度を保つためにバットへ補給している水には通常不純物の少ない蒸留水が用いられますが、水カビやバクテリアが繁殖する場合もあります。水の中に防腐剤を添加しておくと尚良いです。防腐剤には、濃度0.2~0.3%のオキシペンMや0.5%のS.D.S、0.02%のヒビテン液、0.1%のEDTAを使用します。
加湿バットは水の交換時に清掃を行います。洗剤と水で洗浄し、滅菌水をかけて水気を拭き取ります。汚れが見られない場合には、洗剤を使用せず水洗いだけでも問題ありません。
参考文献
https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/cell-culture-environment/
https://cellbank.nibiohn.go.jp/legacy/information/history/takaoka/documents/co2comment.htm
http://www.geochem.jp/qanda/answer/015.html
https://www.cosmobio.co.jp/product/detail/disinfecting-waterbaths-incubators-blg.asp?entry_id=15286
https://files.yamato-net.co.jp/support/y-wins/pdf_manual/ip400.pdf