パワーオーバーイーサネットとは
パワーオーバーイーサネット (英: Power over Ethernet、PoE) とは、一般的にEthernetケーブルを通じてデータ通信と電力供給を同時に行う技術のことです。
これにより、データ通信と電力供給を分けて行っていた従来の方法から、1つのケーブルで双方を実現できるようになり、インフラ設備の簡素化やコスト削減が可能となりました。また、電源供給装置から離れた場所にも簡単にネットワークデバイスを配置できるなど、設置の自由度も向上します。PoEは監視カメラや無線LANアクセスポイント、VoIP電話など、さまざまなデバイスで利用されています。
パワーオーバーイーサネットの使用用途
パワーオーバーイーサネット (PoE) の代表的な使用用途は、IPベースの監視カメラシステムです。電力とデータ通信を1つのケーブルで行うため、カメラを設置する場所に電源がなくても問題ありません。
これにより、監視範囲を広げやすく、セキュリティの強化に寄与しています。そのほか、以下のような用途もあります。
1. 無線ネットワーク設備
無線LANアクセスポイントも、PoEの重要な使用例です。建物全体にワイヤレス接続を提供する際、PoEを用いることで柔軟にデバイスを配置できます。電源供給が必要な場所に制限されず、最適な場所にアクセスポイントの設置が可能となります。
2. VoIP電話
電話とデータを同一のケーブルで送信するため、電話の設置や移動が容易になります。また、電源の停止時でも電話が利用可能であり、非常時のコミュニケーション手段としても優れています。
3. IoTデバイス
IoTデバイス、特にスマートビルディングやスマートホームで使用されるセンサーやアクチュエーターの電力供給にPoEが利用されます。これによって電源供給とデータ通信が1つのケーブルで可能となり、設置と管理が大幅に容易になります。
4. ネットワークスイッチ
PoE対応のネットワークスイッチを使用すると、スイッチ経由で電力を供給できるデバイスが増えます。これにより、ケーブル管理が一層容易になり、効率的なネットワーク構築が可能となります。
パワーオーバーイーサネットの原理
Ethernetケーブルは通常、8本の銅線が束ねられたもので、これらの銅線がデータ通信と電力供給を担当します。PoEの基本的な原理は、これらの銅線を使ってデータと電力を同時に送信可能にあります。
この際に、電力を供給する方法として、PoEではオルタナティブAとオルタナティブBの2つのモードが存在します。
1. オルタナティブA
オルタナティブAは、データ通信と電力供給が同じペアのケーブル (1,2ペアまたは3,6ペア) を使用して行われます。これは「エンドスパン」とも呼ばれます。
2. オルタナティブB
オルタナティブBは、電力供給とデータ通信が異なるペアのケーブルを使用します (4,5ペアと7,8ペアが電力供給に使用されます) 。これは「ミッドスパン」または「インジェクター」方式とも呼ばれます。
3. PSEとPD
PoEシステムには、PSE (Power Sourcing Equipment) とPD (Powered Device) の2つの主要なコンポーネントがあります。PSEは電力を供給する装置 (ネットワークスイッチやインジェクターなど) で、PDは電力を受け取るデバイス (IPカメラや無線LANアクセスポイントなど) を指します。
PSEはPoE対応のデバイスが接続されているかどうかを検出し、適切な電力を供給するものです。これにより、非PoEデバイスが誤って接続されても安全に保護ができます。また、PDが必要とする電力量を正確に計測し、過剰または不足なく供給する機能も持っています。
パワーオーバーイーサネットの種類
パワーオーバーイーサネット (PoE) にはいくつかの異なる規格があり、それぞれが異なる電力レベルをサポートしています。PoE、PoE+、PoE++の違いは以下の通りです。
1. PoE (IEEE 802.3af)
この規格は最初のPoE規格で、最大15.4ワットの電力を供給する能力があります。これは、IPカメラ、VoIP電話、一部の無線アクセスポイントなど、低電力のデバイスに適しています。
2. PoE+ (IEEE 802.3at)
この規格はPoEの強化版で、最大30ワットの電力を供給する能力があります。これにより、高電力のデバイス、例えば、パノラマIPカメラやWi-Fi 6のような高性能な無線アクセスポイントなどに対応可能です。
3. PoE++ (IEEE 802.3bt)
この規格はさらに強化されたもので、最大60ワット (Type3) または99ワット (Type4) の電力を供給できます。これにより、パワーオーバーイーサネット経由で電力を供給する必要がある最も電力を消費するデバイスに対応可能です。例えば、デジタルサイネージ、高性能Wi-Fiアクセスポイント、一部のラップトップなどが対象となります。