黒体炉とは
黒体炉とは、赤外線を利用した装置の検査や校正に用いる機器のことです。
全ての波長を吸収する黒体を模した炉の中に検査対象の機器を入れ、基準光源から光を照射することによって、外部環境の影響を除いた環境において検査機器の検査や校正を行います。
物質が周囲の光源から光を受けると、ある波長の光は吸収され、ある波長の光は反射します。私たちが目に見えるのは反射された光ですが、光源からの多くの波長の光が物質によって吸収されると、その物質は黒く見えます。逆に多くの波長の光が反射されれば、光源に近い色で見えます。例えば光源が太陽光で、物質でほとんどの波長の光が反射されれば、物質は白く見えます。
世の中には全ての波長の光を吸収する理想黒体は存在しませんが、黒体炉では近似的に黒体を再現した空間を設けることによって、赤外線を利用した検査装置の検査・校正を行う装置です。
黒体炉の使用用途
黒体炉は大きく次の4つの目的で使われています。
1. 物質の熱放射の研究
黒体炉は、物質が放射する熱エネルギーを研究するために使用されます。特定の温度での物質の放射スペクトルを調べることが可能です。
2. 赤外線センサーのキャリブレーション
赤外線センサーのキャリブレーションに使用されます。赤外線センサーは非接触の温度計に使われていますが、他には自動ドア、自動点灯/消灯する照明機器、防犯装置、車の自動運転装置などにも利用されているものです。
3. 熱画像測定
熱画像測定装置に使われる赤外線カメラのキャリブレーションも、黒体炉の使用用途の一つです。熱画像測定装置によって、物体の表面温度を非接触で測定することができます。
4. 材料の熱物性の評価
材料の熱伝導率や熱容量などの熱物性を評価も、黒体炉の使用用途の一つです。特定の温度で材料に熱エネルギーを供給し、その応答を測定することで、材料の熱物性を調べることができます。
黒体炉の種類
黒体炉には大きく2つの種類があります。1つ目は、空洞構造の光源部を有し高温の測定に向いたキャビティ黒体炉です。2つ目は平面黒体炉で、放射率の高い塗料を塗布した金属を光源部とし、低温や大きなものの測定に向いています。
黒体炉の原理
非接触式温度計は対象から発生する赤外領域の黒体放射エネルギーを計測する事により温度を求めていますが、校正の際に、完全黒体 (放射率1) からの放射強度と温度の関係性を示した理論であるプランク分布との照らし合わせが必要です。
黒体炉の種類のうちキャビティ黒体炉では、炉内に黒鉛やカーボンナノチューブ等の光を吸収する物質を用い、装置内部の温度を均一化し、また形状や表面の仕上げを反射されやすい構造とすることにより、放射エネルギーを多重反射させ、放射率0.99程度の模擬的な黒体放射を実現しています。この環境下で放射率に応じた補正を掛けて試験を行うことにより、非接触温度計の数値をプランク分布から導かれる理論値と比較し、校正することができます。
また、平面黒体炉の場合は、光を多重反射させることができず、塗料の制約上放射率が最大でも0.95程度となるため、使用時にキャビティ黒体炉で校正を行った非接触式温度計を用いた補正作業が必要です。
黒体炉の構造
黒体炉は、特定の温度で黒体放射を模倣する装置であり、大きく以下の4つの構造を持っています。
1. 加熱源
黒体炉では特定の温度で測定することから、加熱源があります。これは電気ヒーターやガスバーナーなどの方法で炉内の温度を上昇させるための装置です。
2. 炉 (黒体)
黒体炉の内部は、高温で黒体放射を行うよう設計されています。一般的には、黒い塗料や黒い表面コーティングが施された金属やセラミックスなどの材料が使用されます。これにより、入射された光が完全に吸収され、黒体放射が再現されています。
3. 温度制御部
黒体炉は、特定の温度に保つための温度制御装置を備えています。加熱源の出力を調整して、黒体の温度を設定された値に維持しすることによって、黒体放射の特性を正確に再現することが可能です。
4. 出力測定部
黒体炉から放射される光の強度やスペクトルを測定するためのセンサーや検出器が設置されています。これにより、黒体放射の特性を評価し、必要に応じて調整することができます。
参考文献
https://www.irsystem.com/technical/%E9%BB%92%E4%BD%93%E7%82%89%E3%82%BB%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89/
https://www.japansensor.co.jp/manage/wp-content/uploads/2015/03/IR10110_infrared_source.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tetsutohagane1955/59/5/59_5_668/_pdf
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https://www.ushio.co.jp/jp/technology/glossary/glossary_ka/full_radiator.html