超合金とは
超合金 (英: Superalloy)とは、高温での耐食性や耐酸化性に優れ、高い強度を備えた耐熱合金の総称です。
その特性を実現させるために、ベースとなる金属にクロムやモリブデン、タングステン、チタンなど、さまざまな元素が添加されています。
現在も研究が続けられ、さまざまな優れた超合金が新たに開発されています。こうした特性を有する超合金のさらなる研究開発は、航空機や宇宙産業だけでなく、エネルギー分野や自動車産業などの幅広い分野に大きな影響を与え、機器の運転効率を上げるなど、環境負荷を低減できる可能性があります。
超合金の使用用途
Fe基合金は、超合金の中でも高温強度、耐腐食性、耐酸化性、耐クリープ性に優れているうえ、コストパフォーマンスが高いため、排気バルブやターボチャージャーなどの自動車部品などに使用されています。またNi基超合金は、とくに超高温での強度が優れているため、航空機エンジン部品やガスタービンなどに使用されています。そのほか、Co基合金は耐摩耗性や耐衝撃性に優れており、切削工具や耐熱コーティングなどに使用されます。ただし超合金は高い硬度や耐熱性をもつ一方で、製造コストや加工の難しさといったデメリットも伴います。
超合金の性質
代表的な超合金は、鉄をベースにしたFe基超合金、ニッケルをベースにしたNi基超合金、コバルトがベースのCo超基合金の3種類です。
1. Fe基超合金
主成分の鉄に、炭化物を分散させることで高温強度を高めています。比較的安価でありながら高い耐熱性と強度を兼ね備えているため、幅広い分野で利用されています。
2. Ni基超合金
主成分のニッケルにγ’相と呼ばれる金属間化合物を析出させることで、高温強度を実現しています。そのため、特に極限的な高温環境で高い性能が要求される用途に多く用いられます。
3. Co基超合金
主成分のコバルトに元素を添加して、強度と耐酸化性を向上させています。したがって、高温での摺動部や酸化雰囲気下での使用に適しています。
これらの他にも、タンタル基やチタン基など、特殊な用途に特化した超合金もあります。タンタル基超合金は、耐食性と耐熱性に優れており、化学プラントの部品などに使用されます。一方チタン基超合金は、比強度が高く耐食性にも優れているため、航空機や宇宙産業などで用いられています。
超合金の構造
微細構造とは、材料を拡大して観察した際の結晶粒径、配列、形状、そして析出物などの特徴を指し、超合金の優れた特性はその微細な組織に依存しています。
1. 結晶粒の微細化
超合金は、その優れた特性を支える微細な結晶粒構造を特徴とします。微細化された結晶粒は転位運動を阻害することで変形抵抗を高め、割れを抑制し、これにより高温におけるクリープ強度が大幅に向上します。
また析出物の種類と量を制御し最適な熱処理条件を設定することで、結晶粒成長を抑制し、安定な微細組織を得ることができます。
2. 析出物の分布
超合金の特性は、合金に添加された元素によって形成される析出物と呼ばれる微細な粒子の存在とも深く関わっています。最も代表的な析出物として、γ’ (ガンマプライム) 相が挙げられます。γ’相は合金元素が規則的に配列した構造を持ち、母相であるγ相の結晶粒界や粒内において微細な粒子として析出します。このγ’相が規則的に配列すると、材料内部を移動する転位が動きにくくなり、結果として材料の高温強度が上がります。
またγ’相以外にも、ニオブカーバイドなどの炭化物が添加されることがあります。これらの析出物はγ’相とは異なる形状や大きさで析出し、材料の強度や耐酸化性をさらに向上させます。
3. 組織の安定性
超合金は高温環境下においても性能を維持できるよう、組織の安定性が重要です。そのため、析出物の溶解や結晶粒の成長を抑制するよう設計されています。
一般的に合金は高温環境において析出物の溶解や結晶粒の成長が起こり、その結果、強度が低下する可能性があります。そのため超合金では、溶解温度の高い析出物の添加や固溶元素の調整により、析出物の溶解を抑制しています。
超合金の特徴
超合金が開発される以前、耐熱性に優れた金属としてステンレス鋼や耐熱鋼が代表的でしたが、いずれも500℃程度までしか特性を維持できませんでした。耐熱性に優れた金属は、一般的に融点が高いことが求められます。ちなみにおもな金属の融点は、最も高いタングステンから順に、モリブデン、ニオブ、チタン、鉄、コバルト、、ニッケルとなります。しかし、たとえばタングステンやチタンは、室温での耐食性には優れているものの加工が難しく、高温環境下では酸化しやすいため、実用性に欠けました。
そこで、鉄、ニッケル、コバルトのように比較的融点が高く、加工しやすい金属をベースとして、添加元素の配合量を変えることにより超合金が生み出されました。さらに新たな合金元素の添加による特性改善や、合金の表面へのコーティング、3Dプリンティング技術を用いた複雑形状製品の製造など、より優れた性能を活かす研究も進められています。
なお、JISでは「NCF600」などの超合金が「耐食耐熱超合金棒」として規格化されています。