乳鉢とは
乳鉢とは、固体の粉砕や複数の固体の混合に用いられる鉢状の器具です。
通常は乳棒と共に使用されます。世界各地で古くから用いられており、穀物の脱穀や顔料の粉砕などに使用されてきました。
少量の固体を取り扱う場合が多く、大量の粉体を処理する場合には通常粉砕機や粉体混合機が用いられます。乳鉢・乳棒での粉砕を自動化した自動乳鉢や同様の原理を用いた粉砕機である擂潰機なども製品として販売されています。
乳鉢の使用用途
乳鉢の使用用途は固体の粉砕や複数種類の固体の混合ですが、手動で作業するため主に比較的少量の固体を取り扱います。
乳鉢は同様の用途に用いられる機械類と比較すると処理量が少ない反面、少量の固体を粉砕・混合する場合には手軽さや歩留まりの良さなど、多くの利点を持った製品です。
少量かつ高価な固体で広く使用されており、実験・分析用途や薬品の調合のみならず、調味料などの食品の粉砕・混合や鉱物を含む顔料の調合などにも用いられています。
乳鉢の特徴
乳鉢の適切な素材は擦り潰す固体で異なり、特徴を抑えて選ぶ必要があります。
1. 石
汚れを落としやすく、頑丈で力強い粉砕可能です。石素材の重たい乳棒を用いるため、コーヒー豆、ナッツ、医薬品などの硬い固体も容易に粉砕できます。古典的なデザインや天然大理石の美しいタイプなどもあります。
2. ステンレス
扱いやすい素材で、水洗いで汚れが落ちやすく、サビに強いため手入れが容易です。胡麻、香辛料、にんにく、薬などの粉砕に用いられます。にんにくの強い香りが残りにくく、清潔な状態で使用できます。
3. ガラス
離乳食作りなど、キッチン用品に使用されます。石やステンレスより軽量で持ち運びやすく、滑らかい食感のベビーフードやフルーツの擦り潰しに適しています。シンプルで目立たず、食器棚に置いても違和感がありません。
乳鉢の種類
乳鉢に使用される材質は数多くあり、メリットやデメリットを考慮して選ぶ必要があります。
1. メノウ製
比較的軽くて粒度が細かい素材に使用可能です。複数の形状があり、深型は粉砕中の飛散を抑えます。特大の口径を持つタイプは実験前に大量のサンプルが必要な際の粉砕に向いています。
2. タングステンカーバイド鋼製
硬くて脆い少量の試料の粗砕きや摺り潰しに利用可能です。乳鉢や乳棒が試料と接触する箇所には超硬質鋼のタングステンカーバイドをライニングしています。外面はステンレス鋼で覆って錆を防止し、台は安定しています。
3. チタン製
比較的軽量で、金属のコンタミネーションを避ける場合に使用されます。
4. ステンレス製
耐食性に優れ、錆びにくいです。
5. ジルコニア製
部分安定化ジルコニア (英: partially stabilized zirconia) は耐摩耗性に優れており、破壊靭性に強いです。
6. 炭化ホウ素製
モース硬度が9.3で、ダイヤモンドに次ぐ硬度を有します。軽くて高強度かつ低摩耗性が特徴で、ファインセラミックのような硬い素材を粉砕できます。
7. 石英ガラス製
モース硬度が7の硬質ガラスを使用します。耐食性や耐熱性に優れ、硬度が高いため摩耗による試料へのコンタミネーションは非常に微量です。
8. PEEK製
ポリエーテル・エーテルケトンを指し、絶縁性、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性などに優れています。
乳鉢の選び方
乳鉢は用途に応じてサイズや形状、材質を選定する必要があります。少量の固体処理を目的とする製品が多く、手動で作業するためあまり大きな製品は用いられません。乳鉢の形状は深めの椀状と浅めの皿状のものに大別され、固体を粉砕する場合には椀状、混合または微細化する場合には皿状のものが一般的に用いられています。
乳鉢は様々な種類の材質が販売されていますが、材質によって処理できる固体が異なるだけでなく、使用方法も異なるため注意が必要です。比較的硬度の低い固体を粉砕する場合には磁製やガラス製の製品が用いられます。通常磁製やガラス製の乳鉢の表面を荒く仕上げることで圧搾粉砕を容易に行えますが、衝撃には弱いため打ち砕くような使用は厳禁です。その一方で比較的硬い固体を粉砕する場合には金属製やメノウ製の製品が多く用いられています。金属製やメノウ製は硬度が高く丈夫で、表面が平滑に加工されているため乳棒を打ち付けて粉砕可能です。