サーマル サイクラーとは
図1. サーマルサイクラーのイメージ
サーマルサイクラーとは、PCR法を行う際に利用される装置です。
PCR法は、DNAを増幅する工程において50℃程度から100℃程度まで各工程ごとに適切に温度を管理する必要があります。サーマルサイクラーはPCR中の温度サイクルを管理し、インキュベーターとして温度を維持するために開発された装置です。
サーマルサイクラーの使用用途
サーマルサイクラーは、PCR法における温度管理に利用される装置です。そのため、主にPCRを必要とする場所で使用されています。PCRは特に分子生物学や医学などの分野における研究開発においてよく行われています。
PCRは「Polymerase Chain Reaction」の省略で、目的とするDNAの特定領域を増幅する方法です。サーマルサイクラーが開発される以前は、PCRにおいては一つ1つの工程で恒温槽を用意し、適切な温度に調整して手動で時間を測定していました。
サーマルサイクラーを利用することにより、効率的にPCRを行うことが可能になっています。
サーマルサイクラーの原理
図2. サーマルブロックのイメージ
サーマルサイクラーには、サーマルブロックと呼ばれるいくつかの穴があいた金属板があります。このいくつかの穴に反応液を入れたチューブを置き、温度管理プログラムを実行すると、金属板の温度がプログラムに合わせて変動し、反応液が温まる仕組みです。
金属板の温度調整には、以前はヒートポンプが利用されたものが多くありました。最近ではペルチェ素子を利用して、電流の向きをコントロールするだけで加熱と冷却をより効率よく温度調整ができる機種が販売されています。
サーマルサイクラーの種類
図3. 複数のサーマルブロックを持つサーマルブロックのイメージ (左:蓋付き、右: 蓋なし)
サーマルサイクラーは、製品によってさまざまな特徴を持つサーマルサイクラーが販売されています。選択に当たってはは一般的には、温度管理の精度が高く、サーマルブロックの温度の均一性が高いものが望ましいです。
1. 複数のサーマルブロックを持つサーマルサイクラー
複数のサーマルブロックがあることによって、ブロックごとに独立した温度管理が可能になっています。
2. リアルタイムPCR用サーマルサイクラー
サーマルサイクラーと蛍光検出器がひとつになっている本機種においては、DNAを増幅させながらその蛍光強度を測定し、定量分析を行うことができるためリアルタイムでのPCR分析が可能になっています。
3. ヒートリッド付きサーマルサイクラー
蒸発防止用にサンプルのチューブを押さえつけるようヒートリッドと呼ばれる加熱蓋がついており、95℃程度まで熱せられた反応液が蒸発して濃くならないようにしています。このような機種では、これまで蒸発防止に利用されていたミネラルオイルを反応液に添加する必要がないので、より手間を省くことができます。
サーマルサイクラーのその他情報
1. サーマルサイクラーの制御プログラム
サーマルサイクラーの温度管理プログラムは、簡単に作成・設定できるようなインターフェースが開発されており、サーマルサイクラーを接続したPCやタッチスクリーンから制御できるようになっているものが多いです。
プログラムとして入力するだけで反応液の温度を調節し、時間も測れるようになっているため、サーマルサイクラーを利用することによりサンプルの反応にかかる温度管理を完全に自動化することができます。
2. PCRの概要
PCRは、目的となる対象のDNA配列を増幅して繰り返し伸長させていく生化学的手法です。酵素であるDNAポリメラーゼを用い、試薬を混合して加熱と冷却を繰り返します。この加熱冷却サイクルを繰り返す中で、2本鎖DNAの乖離、プライマーの結合、酵素反応によるDNA合成が行われ、目的とするDNA領域が指数関数的に増幅します。
それぞれの具体的な工程である、熱変性、アニーリング、伸長反応では、それぞれ50℃~100℃程度の適切な温度管理が必要です。サーマルサイクラーを用いることで手間のかかる温度調節が自動化され、PCR分析は飛躍的に効率化されるようになりました。