手動油圧ポンプとは
手動油圧ポンプ (英: hydraulic hand pump) とは、手動で操作可能な油圧ポンプです。
一般的には、ポンプのレバーを操作することでオイルを圧縮して高圧を発生させる装置です。この高圧のオイルを用いて、油圧シリンダーや油圧モーターなどの油圧機器を動かします。電源が不要でありながらも比較的高い圧力を生成することができ、場所や環境に制約されない利便性があります。電源の使えない現場や停電時に備える水門・浸水防止板などの作動に使用します。
手動油圧ポンプの使用用途
手動油圧ポンプは、停電時の非常用から小型油圧機器の駆動まで、幅広い用途に対応します。主な使用例を以下に挙げます。
1. 停電時や補助用
水門の開閉、消防設備の作動、ゲートの開閉、バルブの開閉、浸水防止板の作動など、停電で電源が使用できない場合や補助用に使われます。
2. 油圧機器の作動
手動ジャッキの作動、スプレッダー・油圧式カッター・ラムシリンダーの作動、手動リフター・音響探知機・破壊構造物探知機の作動など、小型の油圧機器の作動に使われます。
3. 水路の切換え
排水設備の水路切換え、用水路の切換え、発電用水路の切換えなどに使われます。
4. グリースアップ
発電機、電動機、大型車両などのメンテナンスで、グリースを注入するために使用されます。手動油圧ポンプは、最高使用圧力が高く、グリースなど粘度の高い流体でも使用が可能です。
手動油圧ポンプの原理
長いレバーを本体側へ押し倒すことで、内部のプランジャ (ピストン部分) に圧力がかかり、オイルを加圧します。この加圧されたオイルがポンプ内部を通じて吐出部に伝達され、本体内のタンクに蓄えられたオイルを高圧で吐出する仕組みになっています。
手動油圧ポンプは、「パスカルの原理」と「てこの原理」が応用されている機器です。
1. パスカルの原理
パスカルの原理とは、「密閉された容器に満たされた流体の1カ所に加えられた圧力Fは、流体を介して容器の内面全体に同じ値の圧力がかかる」という原理です。
例えば、手動油圧ポンプのレバーを7kNの力で1cm2の面積を押し下げると、流体内では70MPaで容器全体に伝えられ、吐出部にも同じ圧力70MPaがかかります。この圧力が、吐出量とどのように関係してくるかは、受圧面積とストロークに関わってくるため、それぞれのカタログなどで確認が必要です。
2. てこの原理
「てこの原理」により、レバーの長さはレバーを押すのに必要な力と反比例するので、ハンドルが長くなるほど小さな力で操作できます。手動油圧ポンプは、力のない人でも大きな力を発生させることができます。
手動油圧ポンプの特徴
1. 軽い操作力で高圧が得られる
手動油圧ポンプの最高使用圧力は、一般のもので70MPa程度、超高圧と称するものは300MPa程度まで達します。レバーを長くすれば軽い力で作動できます。レバーを押すだけなので、操作が簡単です。
2. 電源が不要
電源は一切使用していません。電源のないところや防爆が必要な所でも安心して使用できます。また、異常時には高圧作動安全弁が作動するため、安全性も確保されています。
3. 効率的な作業
高低圧自動2段切替吐出型の場合、負荷のかかり具合で油圧ポンプからのオイル吐出量が自動的に切り替わります。負荷が少ない時 (低圧時) は吐出量が増加し、作業時間が短くなります。負荷が大きくなった時 (高圧時) は吐出量が減少するので、精密な操作が可能になります。
4. メンテナンスが簡単
シンプルな構造のため、必要な部品交換やメンテナンスが容易に行えます。
手動油圧ポンプの種類
手動油圧ポンプの種類は、材質や操作方式により次のように分類できます。
1. 材質による分類
手動油圧ポンプの本体部分の材質は、スチール、アルミ、強化プラスチックなどが使われます。
- スチールタイプ:最も一般的で、操作力を極力軽減しています。高い耐久性を持ちます。
- アルミタイプ:ポンプ本体が腐食に強いオールアルミ合金製で、軽量化したものです。本体重量はスチールタイプに比べ、約1/2の軽さです。
- 強化プラスチックタイプ:強化プラスチックを多く使った超軽量型で、アルミタイプと同様、スチールタイプの約1/2の重量です。
2. 操作方式による分類
手動油圧ポンプには、手動式と足踏み式があります。
- 手動式:手でレバーを操作してオイルを吐出させます。
- 足踏み式:床面にポンプを置いて、足で駆動します。手を使わずに操作が可能です。操作が簡単で過酷な作業に耐え、ポンプ本体を安定させるフレームが付いています。