監修:ニュートラル株式会社
故障予測ツールとは
故障予測ツールとは、過去の蓄積データなどを元に装置・設備・機器などの異常や故障の前兆を検知するツールです。
データサイエンス・AIを活用し、データ分析を元に予兆検知モデルを実装し、故障を予知します。故障予測ツールを用いることで、製造業では製造ラインの停止や不良品の発生を予防し、稼働率向上と歩留まりの向上を図ることができます。サーバー機器やハードディスクなどの故障予測にも用いられることがある技術です。
故障予測ツールの使用用途
1. 製造業
故障予測ツールの主な用途は、製造業一般の設備・機器における設備の異常や不具合の予知です。製品不良の発生率を削減することができ、歩留まり向上の効果があります。また、故障を予知することで結果的に製造設備の稼働率を上げることができます。
2. プラント設備
プラント設備の点検では、場合によってはセンサーによる検知が困難であるクラック、腐食などがあることがあります。画像データを収集して分析することにより、クラック、腐食の識別、判定について評価を行い故障予測を行っている場合があります。
3. 航空機
航空機の整備において、故障予測ツールが活用されている事例もあります。ある事例では、仮説探索を実施し、整備士の知見と組み合わせて活用することで、多くの予兆が検知されました。
4. サーバー・ネットワーク機器・コンピュータ
企業などの業務内容によっては、ネットワーク内にサーバー機器やネットワーク機器、設備機器など、大量の機器を管理している場合があります。このようなネットワーク内に多くの機器を管理する場合に、突発的な故障を防ぎ、予め故障に対して対処しておく目的で故障予測ツールが活用されます。
また、企業全般においてハードディスクの故障は業務に致命的な影響を及ぼします。企業のクライアントPCを対象として、ハードディスクの故障を予測するデータ保全対策ツールも使用されています。このツールでは、HDDに搭載されるS.M.A.R.T.の情報を元に、ハードディスクの故障予測日を独自に算出することが可能です。
また、一般消費者向けにPCの故障を予測する製品「PC故障チェッカー」として提供されている製品もあります。
故障予測ツールの原理
故障予測ツールでは、主に統計解析、ディープラーニング、機械学習、AIなどの高度なデータ分析技術が用いられています。故障予測に用いられている主な検出原理は下記のとおりです。
- 外れ値検出:
他のデータと比較して乖離している値を検出する - 変化点検出:
時系列のあるデータ群において、急激にパターン・傾向が変化するタイミングを検出する - 異常部位検出:
時系列のあるデータにおいて、外れ値が発生した特定の期間を異常なデータとして検出する
また、AIに学習させる方法では、大量の過去データ (教師データ) を用意してAIに学習させる方法である教師あり学習と、教師データを用意せずに学習させる教師なし学習の2種類に大きく分類することができます。
1. 教師あり学習
教師あり学習は、過去のセンサーデータ (温度、湿度、振動、音など)・画像など、既に過去のデータが十分に集まっている場合に適しています。故障予測ツールのシステム構築の大まかな流れは下記の通りです。
- データの可視化:
収集したデータを可視化します。特徴、パターン、傾向などを分析するとともに、予兆検知すべき異常とデータの関係性を把握します。 - 前処理・特徴量設計:
データを分析できる状態に加工するため前処理を行い、続いて高いレベルの情報を捉えた 「特徴量」に変換する作業を行います (特徴量設計) 。 - 故障予測モデルの構築:
適切な統計分析手法や、AI・機械学習の手法を検討し、評価を行い、異常予兆検知モデルを構築します。 - 故障予測モデルの実装・稼働
2. 教師なし学習
教師なし学習では、基本的には、正常に分類されるデータのみを用いて、そこから外れたものを異常とします。主な手法にはSVDD (英: Support Vector Data Description) やPCA (英: Principal Component Analysis)などがあります。
SVDDでは、 カーネル関数で2つのデータの類似度を表し、「正常」の領域のみを定義します。主成分分析の一種であるPCAは、複数の要素で構成されたデータの特徴からデータの「主成分」を作成し、「正常な領域」の定義を行います。それ以外では、PCAに修正を加えた手法としてRPCA (英: Robust Principal Component Analysis)と呼ばれる手法もあります。
故障予測ツールの選び方
故障予測ツールは、様々な業種で用いられていることから、多様な製品が提供されています。導入の際は、課題や目的を明確にし、業務内容・用途に合ったものを選択することがまずは重要です。
また、「現状どのようなデータが取得できているのか」を明らかにすることは、どのような分析モデルを構築するのかや、教師あり学習が適しているのか教師なし学習が適しているのかを決定する上でも必要となります。用途においても、「とにかく故障を予測できれば、故障の原因追求までは必要としていない」のか、「故障の原因まで予測できなければならない」のか、など、どこまでをツールに求めるのかを明らかにする必要があります。
参考文献
https://www.ntt-at.co.jp/product/da-anomary-detection/
https://www.iim.co.jp/products/luina/
https://jpn.nec.com/solution/dotdata/tips/failure-prediction/index.html
本記事は故障予測ツールを製造・販売するニュートラル株式会社様に監修を頂きました。
ニュートラル株式会社の会社概要はこちら