チアゾリジン

チアゾリジンとは

チアゾリジンの基本情報1 (1)

図1. チアゾリジンの基本情報

チアゾリジン (Thiazolidine)とは、化学式C3H7NSで表される、複素環式化合物の一種です。

飽和五員環の1位と3位に、それぞれチオエーテル基とアミン基が付加した構造を持ちます。CAS登録番号は、504-78-9です。分子量89.16、沸点72~75℃、密度は1.131g/cm3であり、常温では無色の透明な液体です。

消防法では、引火性液体 危険物第4類 第二石油類 危険等級III 非水溶性液体に指定されています。引火点は56℃であり、引火によって有害な分解物である炭素酸化物、窒素酸化物 (NOx) 、硫黄酸化物が発生します。熱、炎、火花、及び、強酸化剤との混触を避けることが必要ですが、通常の保管方法においては安定です。

チアゾリジンの使用用途

チアゾリジンは、それ自体が利用されることはあまりありませんが、誘導体であるチアゾリジン環を持つ化合物群は薬剤として広く使用されています。例えば、ペニシリンなどのβ-ラクタム系抗生物質の部分構造に含まれている他、酸化体であるチアゾリジンジオン (Thiazolidinedione) の誘導体群は、チアゾリジン系糖尿病薬です。

チアゾリジン系糖尿病薬 (TZD) は、インスリン抵抗改善薬として2型糖尿病の治療に利用されます。国内で市販されている代表的なものは、ピオグリタゾン (Pioglitazone) (代表的な商品名: アクトス) です。

チアゾリジン系糖尿病薬は、核内受容体のひとつであるPPAR-γに結合し、インスリンの抵抗性を悪化させる様々な因子の転写調節をする働きをします。主に末梢組織のインスリン抵抗性改善に有効です。

チアゾリジンの原理

チアゾリジンの合成

図2. チアゾリジンの合成

チアゾリジンは、フタルイミドエチルメルカプタンの加水分解によって合成することができます。水には可溶で、水蒸気蒸留されます。

また、チアゾリジンは、チオールとアルデヒドまたはケトンの縮合反応によっても合成可能です。この反応は可逆であるため、多くのチアゾリジンは、水中では不安定で加水分解されやすくなっています。チアゾリジンの加水分解では、チオールとアルデヒドまたはケトンが生成します。

チアゾリジンの種類

チアゾリジンの誘導体

図3. チアゾリジンの誘導体の薬剤

1. チアゾリジン

化合物としてのチアゾリジンそのものは、主に研究開発用の試薬として販売されています。容量には、1g、5g、25gなどの種類があり、常温保存可能な薬品です。

2. チアゾリジン系糖尿病薬

チアゾリジンの誘導体では、前述の通りチアゾリジン系糖尿病薬があります。最初に商品化されたトログリタゾン (商品名ノスカール) は、肝障害の死亡例が相次いだことから、現在は塩酸ピオグリタゾン (商品名アクトス) だけが国内流通しています。

ロシグリタゾン (アバンディア) は、アメリカで販売中ですが、いくつかの臨床研究により心血管イベントの増加が示唆されたため、欧州では市場から撤退しており、日本でも販売されていません。

トログリタゾンはかつて日本でも市販されていましたが、薬物特異体質反応による薬剤性肝障害が発現することが明らかになったため現在は販売されていません。

3. β-ラクタム系抗生物質に含まれるチアゾリジン環

ペニシリンなどのβ-ラクタム系抗生物質の多くは、β-ラクタム環の縮合環としてチアゾリジン環構造を含みます。1942年にペニシリンGが単離されて実用化されて以来、数多くの誘導体が開発されてきました。

ペニシリン系の抗生物質のメカニズムは、真正細菌の細胞壁の合成を阻害して増殖を抑制する (静菌作用) と共に、細胞壁を薄くすることで溶菌を起こす (殺菌作用) という機構です。

参考文献
http://www.igaku.co.jp/pdf/1106_tonyobyo-3.pdf
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/T0793#docomentsSectionPDP
https://www.sigmaaldrich.cn/JP/ja/sds/aldrich/149691

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