エチレングリコールジブチルエーテルとは
エチレングリコールジブチルエーテルとは、エーテル基を2つ持つ化合物です。
「エチレングリコールジ-n-ブチルエーテル」「1,2-ジブトキシエタン」「5,8-ジオキサドデカン」など、さまざまな別名で呼ばれています。常温では無色~わずかに薄い黄色い液体で、水には難溶です。引火性があるため、熱や高温の体、火気から遠ざける必要があります。
エチレングリコールジブチルエーテルの使用用途
エチレングリコールジブチルエーテルは、「フォトレジスト」という材料の組成に使われています。フォトレジストとは、光によって物性が変化する性質を持ち、半導体のエッチング (薬品の腐食作用を利用した表面加工技術) に使われる素材です。
半導体部品の加工では、回路などを印刷するために微細な溝をエッチングで形成します。エッチングで重要なのは、削りたい部分だけを薬品に触れさせ、削らない部分は耐食性のあるフォトレジストで被覆することです。
そこで、被覆する部分の形状を精密に制御するため、半導体の表面にフォトレジストを塗布してから特定の波長の光や電子線を照射して、被覆する形状のパターンを焼き付けます。その後、現像液処理で不要な部分のフォトレジストを溶解させ除去し、フォトレジストのない部分をエッチングします。
これにより、選択的に半導体の一部を腐食させ、複雑な構造の集積回路を作ることが可能です。
エチレングリコールジブチルエーテルの特徴
エチレングリコールジブチルエーテルは、分子式は C10H22O2 で表されます。二価アルコールであるエチレングリコール (C2H6O2) 1分子と、ブタノール (C4H10O) 2分子がエーテル結合した構造です。
エチレングリコールジブチルエーテルの基本的な特性 (分子量、比重、溶解性) は以下の通りです。
- 分子量:174.28
- 比重:0.725 (0℃の液体のとき)
- 溶解性:水に難溶
エチレングリコールジブチルエーテルのその他情報
1. 二価アルコールのエーテル
エチレングリコールは分子内に2つのヒドロキシ基を持つ二価アルコールです。これらのヒドロキシ基がそれぞれエーテル結合を形成するため、2分子のブタノールと脱水縮合してエチレングリコールジブチルエーテルが得られます。
酸素原子は電気陰性度が高いため、エーテル結合部分は分極しています。しかし、エチレングリコールジブチルエーテルの分子は点対称な直鎖構造をしているため、分子全体としては低極性です。
2. 可燃性
エチレングリコールジブチルエーテルは可燃性の液体です。消防法では、灯油やキシレンと同じ「危険物第4類・第2石油類 (非水溶性液体) 」に該当します。また、労働安全衛生法においても危険物・引火性のものに指定されています。
消防法における指定数量は1,000Lであり、1,000L以上の貯蔵・取扱いは市町村長等の許可が必要です。引火点は85℃のため、発熱する反応で用いる際や加熱実験を行う際には、可燃性蒸気が発生する恐れがあります。
蒸気密度が空気より高く、室内で漏洩すると床に滞留する可能性があるため、ドラフト内で換気しながら扱うのが好ましいです。火災発生時は粉末消化剤、泡消化剤、二酸化炭素消化剤を使用します。非水溶性のため、棒状注水はかえって延焼を招くおそれがあり、大変危険です。
3. 爆発性酸化物
エーテル類は、酸素との接触や紫外線への曝露によって酸化すると、爆発性のある酸化物 (ペルオキシド) を生じることがあります。爆発性酸化物が蓄積した状態では、加熱や衝撃により爆発する恐れがあります。
酸化物が蓄積しないための対策としては、酸化防止剤 (ハイドロキノン等) の添加、窒素封入や紫外線からの遮蔽等が有効です。また、長期保存していたエチレングリコールジブチルエーテルを使用する際には、酸化物が蓄積していないか試験紙で確認するとより安全と言えます。
4. 刺激性と毒性
エチレングリコールジブチルエーテルは皮膚や眼球への刺激性があります。取扱い時は保護手袋や保護メガネなどの保護具を着用し、蒸気に暴露しないようドラフトや局所排気を稼働させます。皮膚に付着した場合は速やかに洗浄が必要です。
急性毒性もあり、ラットでの半数致死量 (LD50値) は経口投与で 2,650mg/kg です。ラベルに物質名を明記するとともに、必ず換気の良い場所で保存・使用しなければなりません。