トリクロロシラン

トリクロロシランとは

トリクロロシランの基本情報

図1. トリクロロシランの基本情報

トリクロロシラン (英: Trichlorosilane) とは、化学式がHCl3Siで表される無機化合物です。

三塩化シラン、三塩化ケイ素、TCSなどとも呼ばれます。トリクロロシランは、純度が高い多結晶ケイ素 (英: Polysilicon) の原料に利用可能です。

三塩化シランは、労働安全衛生法で危険物・引火性の物に、毒物及び劇物取締法では劇物に該当します。また消防法では、第3類自然発火性物質及び禁水性物質、塩素化ケイ素化合物に該当します。

トリクロロシランの使用用途

トリクロロシランは、主に無機化学分野と有機化学分野で利用されています。無機材料化学の分野では半導体用高純度シリコンの原料に、有機材料化学の分野ではシランカップリング材料の原料に、極めて重要な役割を担っています。具体的には、ダイオードなどの個別素子やウエハーおよびシリコーン樹脂の製造に利用可能です。

その他の有機合成の分野でも、特殊有機シラン化合物の原料や還元剤としての用途が期待されています。 

トリクロロシランの性質

トリクロロシランの融点は-126.6°C、沸点は31.8°Cです。常温で無色透明で、刺激臭のある液体です。

可燃性が非常に高く、空気中で容易に発火します。数滴のトリクロロシランを中和する際には、NaOH (水酸化ナトリウム) またはNaHCO3 (炭酸水素ナトリウム) を使用可能です。

トリクロロシランの構造

トリクロロシランは、水素、塩素、ケイ素から構成される無機化合物です。中心のケイ素原子に1個の水素原子と3個の塩素原子が結合しており、正四面体型の構造を取っています。モル質量は135.45g/molで、密度は1.342kg/m3です。

トリクロロシランのその他情報

1. トリクロロシランの合成法

トリクロロシランの合成

図2. トリクロロシランの合成

工業的にトリクロロシランは、300°Cで塩化水素ガスをケイ素の粉末に吹き付けると得られます。この反応ではトリクロロシランとともに、水素が生じます。適切な設計の反応装置では、トリクロロシランの収率は80〜90%です。主な副生物として、H2SiCl2 (ジクロロシラン) 、SiCl4 (四塩化ケイ素)、Si2Cl6 (六塩化二ケイ素) が挙げられます。これら副生物から蒸留によって、トリクロロシランを取り出せます。

さらにこの逆反応で、高純度の単体ケイ素を生成可能です。

また副生物の四塩化ケイ素が水素やケイ素と反応しても、トリクロロシランが生じます。

2. トリクロロシランの反応

トリクロロシランの反応

図3. トリクロロシランの反応

トリクロロシランが空気中の水分と反応すると、腐食性のある塩化水素ガスが発生して、シリカが生成します。

安息香酸をトルエン誘導体に変換する際に、トリクロロシランを使用可能です。まずカルボン酸がトリクロロシリルベンジル化合物になり、続いて塩基によってベンジルシリル誘導体がトルエン誘導体に変換されます。

トリクロロシランのヒドロシリル化や類似の反応によって、有用な有機ケイ素化合物を合成可能です。具体例として、オクタデシルトリクロロシラン (英: octadecyltrichlorosilane)、パーフルオロオクチルトリクロロシラン (英: perfluoroctyltrichlorosilane)、パーフルオロデシルトリクロロシラン (英: perfluorodecyltrichlorosilane) などが挙げられます。

3. 原料としてのトリクロロシラン

トリクロロシランのヒドロシリル化や類似の反応で得られる有機ケイ素化合物は、表面科学やナノテクノロジーで自己組織化単分子膜を形成する際に使用可能です。フッ素を含んだ層は、表面エネルギーを減らして、付着を減少させるためです。

主にMEMS (英: Micro Electro Mechanical Systems) のコーティング、ナノインプリント・リソグラフィ (英: Nanoimprint Lithography) 用の微細加工スタンプ、射出成形 (英: Injection Molding) などに利用されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/10025-78-2.html
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/59/10/59_10_1005/_pdf

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