クマル酸とは
図1. p-クマル酸の基本情報
クマル酸 (英: coumaric acid) とは、ケイ皮酸のヒドロキシ誘導体の一種です。
クマル酸には、フェニル基に結合しているヒドロキシ基の位置によって、異性体が存在します。p-クマル酸、m-クマル酸、o-クマル酸の3種類です。この中でp-クマル酸は天然に最も存在し、トマト、ピーナツ、ニンニク、ニンジンなどの食用植物にも含まれます。p-クマル酸は4-ヒドロキシケイ皮酸やβ-(4-ヒドロキシフェニル)アクリル酸とも呼ばれます。
国内でクマル酸は、消防法や毒物及び劇物取締法などの指定には該当しません。
クマル酸の使用用途
クマル酸は、主に化学研究分野で試薬として使用されます。p-クマル酸はタンパク質検出方法であるウェスタンブロッティング (英: Western blotting) で、タンパク質検出のための化学発光基質の成分として利用可能です。
またp-クマル酸は、発ガン性物質であるニトロソアミンの生成を抑制する働きがあります。ニトロソアミンは、食品添加物に含まれる亜硝酸塩とアミン類が反応して生成され、とくにヒトの胃で生成されやすいです。そのため、p-クマル酸は胃ガンのリスクを減少できると考えられており、研究が進められています。
クマル酸の性質
p-クマル酸は結晶性固体です。融点は210〜213°Cで、沸点は231.61°Cです。水に難溶ですが、ジエチルエーテルやエタノールにはよく溶解します。
クマル酸の構造
図2. クマル酸の構造
クマル酸のモル質量は164.16g/molで、化学式はC9H8O3と表されます。化学式がC9H8O2であるケイ皮酸に、ヒドロキシ基が結合した構造を持つ化学物質です。ヒドロキシ基の位置の違いで、o-クマル酸、m-クマル酸、p-クマル酸の3つの異性体が存在します。
p-クマル酸には、トランス-p-クマル酸とシス-p-クマル酸の2種類があります。トランス-p-クマル酸の密度は1.1403g/cm3で、コニフェリルアルコールやシナピルアルコールとともに、リグニンの主要な構成要素の一つです。
p-クマル酸の誘導体であるp-クマル酸グルコシドはアマ種子を含んだパンに存在し、p-クマル酸ジエステルはカルナウバロウに含まれています。
クマル酸のその他情報
1. p-クマル酸の合成
図3. p-クマル酸の合成
シトクロムP450 (英: Cytochrome P450) 依存性酵素のトランス-ケイ皮酸-4-モノオキシゲナーゼの作用で、ケイ皮酸からp-クマル酸が得られます。チロシンアンモニアリアーゼによって、L-チロシンからも生成します。
2. p-クマル酸の反応
p-クマル酸は4-エチルフェノールの前駆体です。4-エチルフェノールは、ワイン中でブレタノマイセス属酵母によって生産されます。4-ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼによって、p-クマル酸から4-ビニルフェノールに変換可能です。ビニルフェノールレダクターゼにより4-ビニルフェノールが還元され、4-エチルフェノールが生成します。
シス-p-クマル酸グルコシルトランスフェラーゼは、シス-p-クマル酸とUDP-グルコースを用いて、p-クマル酸グルコシドとUDPを合成します。シス-p-クマル酸グルコシルトランスフェラーゼは、グリコシルトランスフェラーゼのとくにヘキソシルトランスフェラーゼに分類される酵素です。
p-クマル酸の持つ2-プロペン酸側鎖に水素が付加すると、フロレト酸が得られます。フロレト酸は、干し草を食べる羊の第一胃に存在します。
3. m–クマル酸とo-クマル酸の特徴
m-クマル酸やo-クマル酸は、酢に含まれています。3-(2-ヒドロキシフェニル)プロパン酸とNAD+から、2-クマレートレダクターゼによってo-クマル酸が生成します。2-クマレートレダクターゼは、フェニルアラニンの代謝に関与する酵素です。
参考文献
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/C0393#docomentsSectionPDP