カプロラクタムとは
図1. カプロラクタムの基本情報
カプロラクタムとは、ε-カプロラクタム (英: ε-カプロラクタム) の略称であり、ラクタムの一つです。
ラクタムとは環状アミドのことです。化学物質審査規制法 (化審法) でカプロラクタムは、優先評価化学物質に分類され、労働安全衛生法法、食品衛生法でも規制されています。そのほか、化学物質排出把握管理促進法 (化管法) で第1種指定化学物質、大気汚染防止法で有害大気汚染物質、海洋汚染防止法で有害液体物質Z類に分類されています。
カプロラクタムの使用用途
図2. カプロラクタムの開環重合
カプロラクタムを開環重合させて、繊維としたものがナイロン6です。そのため、合成樹脂・合成繊維の一つであるナイロン6の原料として、非常に大きな需要があります。
ナイロン6は、世界需要の約6割が繊維用途、約4割が樹脂用途です。繊維としての主な用途は、衣料、タイヤコード、カーペットがあります。樹脂用途としては、エンジニアリングプラスチック、フィルムがあります。
またカプロラクタムは、他のモノマーとの共重合によって共ポリアミド (アミドコポリマー) を合成する原料としても用いることが可能です。
カプロラクタムの性質
カプロラクタムは、白色の葉状結晶です。吸湿性・潮解性があります。水、エーテル、エタノール、ベンゼン、クロロホルム、ジメチルホルムアミドのような各種溶剤に可溶です。
加熱や燃焼によって分解し、窒素酸化物やアンモニアを生じます。強酸化剤と激しく反応し、加水分解によりε-アミノカプロン酸になります。融点は69℃、沸点は267℃であり、引火点は125°Cです。
カプロラクタムの構造
カプロラクタムの別称として、6-ヘキサンラクタム、6-ヘキサノラクタム、ε-アミノカプロン酸ラクタム、6-アミノカプロン酸ラクタム、6-アミノヘキサン酸ラクタム、シクロヘキサノンイソオキシム、2-オキソヘキサメチレンイミン、2-ケトヘキサメチレンイミンがあります。
カプロラクタムは、ε-アミノカプロン酸が閉環した構造を取っています。分子式はC6H11NO、分子量は113.16g/molで、密度は1.01g/cm3です。
カプロラクタムのその他情報
1. カプロラクタムの合成法
図3. カプロラクタムの合成
カプロラクタムの種々の合成法が開発されています。一般的な製法は、ベンゼン、フェノール、トルエンのいずれかからシクロヘキサノンオキシムを生成し、濃硫酸と加熱する方法です。シクロヘキサノンオキシムからカプロラクタムが生成する反応は、ベックマン転位と呼ばれています。
発煙硫酸を使用したベックマン転位では、反応に用いた硫酸をアンモニアで中和します。1トンのカプロラクタムに対して、副生される硫酸アンモニウムの量はおよそ1.7トンです。
2. ベックマン転位によるカプロラクタムの合成
発煙硫酸を使わないベックマン転位 (英: Beckmann rearrangement) として、ハイシリカMFIゼオライト触媒による気相ベックマン転位が開発されています。硫酸アンモニウムを副生しない触媒的な合成法です。ちなみにハイシリカゼオライトは、アルミナをほとんど含んでおらず、酸点を持っていません。その一方で、アルミナを多く含んだゼオライトは、あまり気相ベックマン転位には有効ではありません。
塩化シアヌル触媒を使用したベックマン転移も、発煙硫酸を用いない合成方法です。以前は有害な塩化ニトロシルを使用する必要があったため、生成したシクロヘキサノンオキシムが塩酸塩になり、効率が悪いとされていました。
塩化シアヌル触媒によるベックマン転移では、硫酸アンモニウムのような廃棄物がほぼ発生しません。シクロヘキサンからシクロヘキサノンオキシムを経由して、ベックマン転移によるカプロラクタムまで、ワンポットで合成できます。全収率は75%です。
参考文献
http://www.chemicoco.env.go.jp/detail.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0102.html