水酸化銅とは
水酸化銅とは、銅の水酸化物で、淡青色無定形粉末状の固体です。
銅イオンの価数は1価 (Cu+) と2価 (Cu2+) がありますが、水酸化銅は一般的には2価の水酸化銅 (II) であるCu (OH)2のことを指します。
水酸化銅の使用用途
水酸化銅 (II) は、主にレーヨン、セロファンなどのセルロースを原料とする加工品の製造、他の銅塩の製造、媒染剤、顔料、殺菌剤、殺虫剤などに使用されます。
1.セルロース原料の製品
セルロースはほとんどの溶媒に溶解せず、それ自身も融解しにくいことから、化学処理することで溶媒に溶解する状態に変性させた後、繊維状やフィルム上に加工します。この化学処理の際に水酸化銅が用いられています。
水酸化銅をアンモニア水溶液に溶解させることでテトラアンミン銅錯体が生成し、シュバイツァー試薬と呼ばれる深い青色の溶液が得られます。
シュバイツァー試薬の合成
Cu(OH)2 + 4NH4OH → [Cu(NH3)4(H2O)2](OH)2 + 2H2O
シュバイツァー試薬はセルロースの水酸基を、自身の水酸化物イオン (OH–)で中和します。中和されたセルロースの水酸基に銅イオン (Cu2+) が配位結合して錯イオンを形成することでセルロースが溶解するようになります。
セルロースと銅の錯体形成
2(C6H10O5)n + n[Cu(NH3)4(H2O)2](OH)2 → n(C6H10O5)2[Cu(NH3)4(H2O)2] + 2nH2O
シュバイツァー試薬に溶解したセルロースに必要な処理を施したのち、希硫酸などにより錯イオン化された水酸基の部分からCu2+が脱離しHに戻ることで再析出し、レーヨンなどのセルロース製品として回収されます。
セルロースの再生
n(C6H10O5)2[Cu(NH3)4(H2O)2] + 3nH2SO4 → 2(C6H10O5)n + nCuSO4 + 2n(NH4)2SO4
2. 殺菌剤、殺虫剤
銅イオンは、糸状菌由来の病害だけでなく、細菌性病害に対しても優れた予防効果を示します。そのため、柑橘系の植物やその他の果実、野菜など、幅広く農薬として使用できます。しかし、薬害が発生するおそれがあり、使用する際は炭酸カルシウム水和剤を併用する必要があります。
水酸化銅の特徴
水酸化銅は、分子量97.56、比重2.368、融点60~80℃の淡青色の固体です。冷水や希酸には不溶ですが、熱水では分解しCuOになります。アンモニア水やシアン化アルカリ溶液に対しては、錯塩を作って溶けます。
また、水酸化アルカリ溶液に溶け、紫色のコロイド溶液を生じることも特徴です。融点付近に加熱するとCuOになり黒色に変化します。常温常圧で安定性は高いですが、水生環境に関しては、短期、長期ともに有害性があるため、廃棄する際には注意が必要です。
1価の水酸化銅 (I) であるCuOHは、銅 (I) 塩水溶液 (CuClなど) に水酸化アルカリを加えた際に生成する黄色の沈殿物とされていますが、これは酸化銅Cu2Oの沈殿物であるとも言われています。
水酸化銅のその他情報
1. 水酸化銅の製造方法
硫酸銅 (II) の水溶液に水酸化ナトリウムを加えることで、水酸化銅が生成し青色の沈殿が生成します。これを脱水することで水酸化銅の青色粉末が得られます。
主反応:CuCl2 + 2NaOH → Cu(OH)2 + 2NaCl
2. 水酸化銅の安全性
火災、爆発などの危険性はないため消防法の危険物には該当していませんが、眼に対する有害性、水生環境への有害性は重篤とされており、以下の国内法規が適用されています。
- 労働安全衛生法:名称などを表示すべき危険物および有害物
- 危険物船舶運送及び貯蔵規則:毒物類・毒物
- 航空法:毒物類・毒物
- 水質汚濁防止法:指定物質
- 大気汚染防止法:有害大気汚染物質
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-0421JGHEJP.pdf