ベンゾインとは
図1. ベンゾインの基本情報
ベンゾインとは、芳香族化合物で、安息香の英語名 (英: benzoin) に由来した物質です。
ベンゾインは香水に使用されている香料の一種で、バニラに似ている甘くてまろやかな香りが特徴的です。エゴノキ科に属するアンソクコウノキの樹液から、エッセンシャルオイルとして抽出されます。
主な国内法規には該当せず、毒性も明らかになっていないため、比較的安全な物質と言えます。
ベンゾインの使用用途
ベンゾインは、分析用試薬として使用されます。ベンゾインを使用することで、亜鉛とケイ光反応が起きます。そのため、少量の亜鉛イオンを検出することが可能です。
また、ベンゾインという名前で精油として売られています。これは、熱帯の高木の樹脂から抽出されるものです。甘く、バニラのような香りがし、心を落ち着かせる効果があります。
そのほか、酸化防止剤として、オイルの持ちを良くする役割もあります。
ベンゾインの性質
常温でベンゾインは、白色の固体として存在します。水には溶けにくいですが、熱水、熱アルコール、アセトンなどにはよく溶けます。
ただし、ベンゾインは光によって変質するおそれがあるため、保存の際には遮光するなど対策が必要です。
ベンゾインの構造
IUPAC命名法でベンゾインは、2-ヒドロキシ-1,2-ジフェニルエタノン (英: 2-hydroxy-1,2-diphenylethanone) と表されます。ベンゾインが有する部分構造 (-C(=O)CH(OH)-) は、アシロイン構造と呼ばれています。
ベンゾインのその他情報
1. ベンゾインの合成法
図2. ベンゾインの合成
ベンゾインは、2分子のベンズアルデヒドから、シアン化物イオンを触媒として、縮合反応により得られます。この縮合反応はベンゾイン縮合と呼ばれています。
ベンゾイン縮合はフリードリヒ・ヴェーラー (英: Friedrich Wöhler) とユストゥス・フォン・リービッヒ (英: Justus Freiherr von Liebig) によって報告され、反応機構はアーサー・ラプワース (英: Arthur Lapworth) により提唱されました。
2. ベンゾイン縮合の反応機構
まずシアン化物イオンがアルデヒドへ付加し、シアノヒドリンが生成します。次にシアノヒドリンのシアノ基のα炭素上にあるプロトンが引き抜かれ、カルボアニオンが生成します。すなわち極性転換です。
生成したカルボアニオンは、もう1分子のアルデヒドに求核付加し、付加体が生成されます。シアン化物イオンがシアノヒドリンから脱離することで、カルボニル基が再生し、ベンゾインが生成します。
3. ベンゾインの反応
図3. ベンゾインの反応例
ベンゾインを硝酸などを用いて酸化すると、芳香族のジケトンであるベンジル (英: benzil) が得られます。ベンジルを研究室で合成する場合には、ベンズアルデヒドをベンゾイン縮合によってベンゾインにしてから、硝酸や硫酸銅(II)などで酸化することで得られます。
4. 香料としてのベンゾイン
古代エジプトの時代からベンゾインは、薫香として宗教儀式で使われてきました。そして現在でも香料として部屋全体に漂わせるほか、キャリアオイルに混ぜることでボディマッサージとしても使用されています。
ベンゾインはゆっくり揮発するため、香水に配合すると長時間香りを楽しめます。
5. ベンゾインの香り
ベンゾインは、スマトラ安息香とシャム安息香の2種類に分かれています。この2種類のベンゾインは、産地や香りに違いがあります。
スマトラ安息香はマレーシアやインドネシアを産地とした樹木から、採取することが可能です。スマトラ安息香は甘さだけでなく、シナモンのようなスパイシーさもあります。
その一方でシャム安息香とは、ベトナムやタイなどが産地で、アンソクコウノキから採れるベンゾインのことです。香水にもよく使われていて、バニリンという成分が多く含まれているため、バニラのような甘い香りが強いです。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0102-1450JGHEJP.pdf