ピコリンとは
ピコリンとは、化学式がC6H7Nで、メチルピリジンの慣用名のことです。
分子量は93.13g/molです。骨油中にも含まれるほか、コールタール中の塩基性成分としても知られています。ピコリンには異性体が存在し、2-ピコリン、3-ピコリン、4-ピコリンの3種類です。
2-ピコリンは2-メチルピリジン、o-ピコリン、α-ピコリンと呼ばれています。3-ピコリンは3-メチルピリジン、m-ピコリン、β-ピコリンという名称もあり、4-ピコリンは4-メチルピリジン、p-ピコリン、γ-ピコリンとも呼ばれます。
ピコリンの使用用途
2-ピコリンはポリマー、医薬品、染料の原料として使用されます。ブタジエン、スチレン、2-ピコリンの共重合により得られたポリマーは、タイヤコードの接着剤に利用可能です。また、3-ピコリンは、ニコチン酸アミドや殺虫剤の製造原料に用いられています。さらに、4-ピコリンは、イソニコチン酸の合成原料に使用可能です。
そして、いずれのピコリンも、溶剤、消毒剤、加硫促進剤の原料などに用いられています。
ピコリンの性質
図1. ピコリンの構造
いずれのピコリンの異性体も、水、エタノール、エーテルに可溶です。還元すると対応するピペコリンになり、酸化すれば対応するピリジンカルボン酸が得られます。金属塩やハロゲン化水素と、付加化合物を作ります。
これら3種類のピコリンの異性体は、ピリジンに似た匂いを持つ無色の液体です。弱い塩基性を示します。2-ピコリンの密度は0.943g/mLであり、融点は−70°C、沸点は128°Cです。3-ピコリの密度は0.957g/mLで、融点は-19°C、沸点は144°Cです。3-ピコリンはほかの異性体と比べると、メチル基の反応性は大きくありません。4-ピコリンの密度は0.957g/mLであり、融点は2.4°C、沸点は145°Cです。
なお、ピコリンはピリジンの水素原子1個をメチル基で置換した化合物です。メチル基の位置によって、3種類の異性体が存在します。
ピコリンのその他情報
1. ピコリンの合成法
図2. ピコリンの合成
2-ピコリンはピリジン類の中で、初めて純粋な状態で単離された化合物です。1846年にトーマス・アンダーソン (英: Thomas Anderson)によって、コールタールから単離されました。主に現在では、アセトアルデヒドとアンモニアの縮合によって合成されています。アセチレンとニトリルの環化反応でも合成可能です。
3-ピコリンは、工業的にアンモニアとアクロレインの反応で生成します。ただしこの反応は非選択的です。有効な合成法は、プロピオンアルデヒド、アクロレイン、アンモニアを出発原料に用いた方法です。チチバビンのピリジン合成 (英: Chichibabin pyridine synthesis) で、副生成物として3-ピコリンが生じます。
工業的に4-ピコリンは、酸化物触媒を用いてアンモニアとアセトアルデヒドから得られます。
2. ピコリンの反応
図3. ピコリンの反応
2-ピコリンは2-ビニルピリジンの前駆体です。ホルムアルデヒド水溶液により2-ピコリンを処理し、脱水反応が起こると、2-ビニルピリジンが得られます。また、2-ピコリンは硝化抑制剤のニトラピリンの前駆体でもあります。さらに、過マンガン酸カリウムによる酸化で、ピコリン酸を生成可能です。
3-ピコリンのアンモ酸化 (英: ammoxidation) で、3-シアノピリジンが得られます。3-シアノピリジンから、3,5,6-トリクロロ-2-ピリジノールを経由して、農薬の原料でもあるクロルピリホスを合成可能です。
4-ピコリンは医薬品などの有用な化合物の前駆体として利用されています。具体的には、4-ピコリンのアンモ酸化によって、4-シアノピリジンを生成可能です。4-シアノピリジンは結核治療薬のイソニアジドなどの有用な化合物に変換できます。