ホルムアルデヒドとは
図1. ホルムアルデヒドの基本情報
ホルムアルデヒドとは、最も単純な構造のアルデヒドです。
メタナールや酸化メチレンとも呼ばれます。大気環境では化石燃料や廃棄物等、有機物の不完全燃焼によって生成します。そのほか、光化学反応により大気中の炭化水素からも生成され、光化学オキシダントの成分の1つです。
ホルムアルデヒドは、シックハウス症候群の原因物質の一つでもあります。建材等に使用されている接着剤中のホルムアルデヒドから、粘膜刺激やアレルギーを引き起こす可能性があります。
ホルムアルデヒドの使用用途
ホルムアルデヒドは、普段の生活で幅広く使用されている化学物質です。例えば、家具・衣類などの消毒剤、防カビ剤、殺菌剤、殺虫剤や、繊維製品に対する防縮・防しわ加工、形態安定加工等に用いられます。
さらに、合成樹脂の製造原料、農薬、写真用薬品、医薬品等にも使用されています。また、ホルムアルデヒドの37%水溶液は「ホルマリン」と呼ばれ、プラスチック、合成ゴム、塗料等の原料のほか、標本の保存液として使用可能です。
ホルムアルデヒドの性質
ホルムアルデヒドは、無色の可燃性気体で、刺激臭があります。水に非常によく溶解します。融点は−92°Cで、沸点は−19.3°Cです。引火点は64°Cで、発火点は430°Cです。
ホルムアルデヒドの構造
図2. ホルムアルデヒドの構造
ホルムアルデヒドはアルデヒド基を有する有機化合物で、化学式はHCHOで表されます。モル質量は30.03で、密度は0.8153g/mLです。ホルムアルデヒドは容易に重合して、無水物のトリオキサン (CH2O)3 以外にも、水溶液からパラホルムアルデヒド (HO(CH2O)nH) が生成します。
トリオキサンはホルムアルデヒドの三量体であり、有機溶媒に分解せず溶解します。それに対してパラホルムアルデヒドは、ほとんどの溶剤に溶けません。
それ以外にも、ホルムアルデヒドの水溶液中には、メタンジオールが存在しています。メタンジオールの化学式はH2C(OH)2で、ホルムアルデヒド一水和物やメチレングリコールとも呼ばれます。例えば、5%のホルムアルデヒド水溶液中での、メタンジオールの割合は約80%です。
ホルムアルデヒドのその他情報
1. ホルムアルデヒドの合成法
図3. ホルムアルデヒドの合成
触媒を用いてメタノールを空気酸化すると、ホルムアルデヒドが生成します。ただし、ホルムアルデヒドの酸化が進むと、ギ酸が生じます。その一方で、ギ酸カルシウムの乾留でも、ホルムアルデヒドを得ることが可能です。
天然では、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼが触媒として働き、アミノ酸のセリンからグリシンが生成される際に、ホルムアルデヒドが生じます。メチロトローフ細菌によっても、メタノール脱水素酵素が触媒になり、メタノールからホルムアルデヒドが生成します。
2. ホルムアルデヒドの工業利用
ホルムアルデヒドは、複雑な化合物の前駆体として、一般的に利用されています。ホルムアルデヒドを用いて合成される生成物の具体例として、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタールなどが挙げられます。
1,4-ブタンジオールやジフェニルメタンジイソシアネートなども、ホルムアルデヒドを使って合成可能です。
3. 生体内や食品中のホルムアルデヒド
アミノ酸や生体異物の代謝によって、ホルムアルデヒドが生じます。そのため、ホルムアルデヒドに暴露されていない場合にも、血液中のホルムアルデヒドの濃度が2.6ppm程度だと報告されました。
一部の魚類や椎茸のような天然食材には、健康に影響がない程度のホルムアルデヒドが存在します。ペクチンを多く含んだ果実から作られた果実酒は、メタノールを含んでいるため、体内でメタノールがアルコール脱水素酵素により分解されて、ホルムアルデヒドを生じます。