ビンクリスチンとは
ビンクリスチンとは、米国の製薬会社であるイーライリリー社が開発した抗がん剤です。
商品名のオンコビンでも知られ、国内の医薬品としては日本化薬株式会社が製造販売権を承継し、製造販売しています。血液腫瘍によく用いられる薬剤で、重要な医薬品として世界保健機構 (WHO) の必須医薬品モデル・リストに収載されています。
ビンクリスチンはキョウチクトウ科のニチニチソウという植物から発見され、化学的には植物アルカロイドの一つであるビンカアルカロイドに分類されます。抗がん剤としての分類は微小管重合阻害薬であり、劇薬です。
医薬品としては医師の処方によってのみ用いられ、投与経路は静脈内投与のみです。通常、ビンクリスチン硫酸塩として供給されます。なお、CAS番号は2068-78-2です。
ビンクリスチンの使用用途
1. 抗がん剤
ビンスクリチンは、抗がん剤として使用されます。医薬品としてのビンクリスチンは、2022年時点で国内において白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍、多発性骨髄腫・悪性星細胞腫・乏突起膠腫成分を有する神経膠腫に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用療法、褐色細胞腫に対する効能・効果を有しています。
2. 試験研究用
ビンクリスチンは、試験研究用の抗腫瘍剤、細胞骨格研究で、微小管重合阻害を行うときの試薬としても用いられます。医薬品とは別に、試験研究用試薬としても販売されています。
3. 動物の治療用
ビンクリスチンは、犬など愛玩動物の悪性リンパ腫の治療に用いられることがあります。近年、愛玩動物のがんを何とか治療 (延命効果を期待) できないかという意識が高まってきています。
ビンクリスチンは正式な動物薬ではありませんが、動物用の抗がん剤は今のところ存在しません。そのため、獣医師によってヒト用の薬剤を使用する場合があります。
ビンクリスチンの特徴
ビンクリスチンの作用機序は、微小管重合阻害です。細胞が有糸分裂するときには、紡錘体の形成が必要です。紡錘体は、微小管が染色体に接着するとともに、微小管同士が重合・脱重合し紡錘糸として構造化することで形成されます。
ビンクリスチンは微小管に結合し、紡錘糸の構造と機能に異常をもたらし、結果として細胞の有糸分裂を中期 (M期) で停止させます。分裂が停止した細胞は、アポトーシスに誘導されます。
このようにして、腫瘍細胞の増殖を抑え、さらに死滅させています。ただし、正常な細胞の細胞分裂も阻害するため、腫瘍細胞だけではなく、正常な細胞にも影響するのが懸念点です。これが副作用を引き起こす原因となります。
ビンクリスチンのその他情報
1. ビンクリスチンの副作用
ビンクリスチンは正常な細胞の細胞分裂も阻害するため、頭髪が抜ける (脱毛) 、白血球が減少する (骨髄抑制) 、といった副作用が現れることがあります。これは抗がん剤に広くみられる性質です。
また、頻度の高い副作用として、末梢神経障害が知られています。臨床的には手足のしびれや手指の感覚が鈍くなることとして感じられますが、この症状は身の回りのことをしにくくなる、感覚が乏しいためにやけどや怪我をするなど、治療を受けている人の生活に大きな影響を及ぼします。
また、投与を継続すると悪化する可能性も高いです。そのため、この症状が見られたときには投与量の減量または投与を中止しなければなりません。
末梢神経障害は、他の植物アルカロイド系微小管重合阻害薬にも見られるもので、末梢神経の微小管にも薬剤が結合してしまい、軸索が変性するためであると考えられています。その他の頻度の高い副作用として、便秘が知られています。
2. ビンクリスチンと多剤併用療法
ビンクリスチンは、作用機序の異なる他の抗がん剤と併用されることがよくあります。複数の作用を同時に働かせることで、効果的にがんの成長を抑制するのが目的です。
例えば、リンパ腫の場合、DNAをメチル化するシクロホスファミド、DNAの構造の間に挟まるドキソルビシン、DNAに架橋を形成するオキサリプラチンと併用されます。抗がん剤は副作用が強いものであるため、実際に用いられる併用療法の投与量は慎重に検討され、決定されたものが用いられます。