ビンブラスチンとは
ビンブラスチン (vinblastine) とは、ニチニチソウという植物から単離されたアルカロイドの一種で、ビンカアルカロイドに分類される化合物です。
分子量は810.975で、分子式はC46H58N4O9で表されます。化合物は白色〜微黄色の粉末状をしており、極めて水溶性が低いのが特徴です。水やアルコールにはほとんど溶けず、DMSOや酢酸エチルなど有機溶媒に溶解します。
細胞分裂のM期ににおける微小管重合を阻害することによって細胞増殖を抑制する作用を持っていることから、抗悪性腫瘍剤としてがん治療に用いられています。医薬品として用いられるビンブラスチンは、安定性と溶解性の向上のため、硫酸塩の構造をとっているのが一般的です。
ビンブラスチンの使用用途
ビンブラスチンは、がん治療に用いられる抗悪性腫瘍剤の1種です。静脈内注射によって体内に投与された後、高い脂溶性を活かして細胞内へ取り込まれます。
その後、細胞周期のM期に特異的に作用し、細胞内で微小管を構成するチューブリンというタンパク質の結合を阻害することで、がん細胞の分裂を妨ぎます。ビンブラスチンは抗がん剤の中でも代表的なものの1つで、白血病や悪性リンパ腫、乳癌、卵巣癌、肺がんなど、幅広いがん種に対して使用されます。
ビンカアルカロイド系の抗がん剤は、神経障害を起こしやすいという特徴を有しているため、ビンブラスチンの投与時は手足の指のしびれや皮膚の感覚異常などに注意が必要です。
ビンブラスチンの性質
ビンブラスチンは、白色〜微黄色の粉末状をしています。極めて溶解性が低く、水やエタノール、メタノールといった溶媒にはほとんど溶けません。一方で、DMSOやジクロロメタン、酢酸エチルなどの有機溶媒には溶けやすく、一般的にはこれらの溶媒中で使用されます。
ビンブラスチンは、生体内で代謝されず、そのまま尿中に排出されるため、薬物動態は線維芽細胞増殖因子受容体 (FGFR) 3に関与するとされています。また、強い毒性を持つアルカロイドであるため、使用には注意が必要です。
ビンブラスチンの構造
ビンブラスチンの分子構造は、基本構造にインドール骨格を有するインドールアルカロイドです。化学式はC46H58N4O9で、分子量は810.97 で表されます。
いくつもの不斉炭素原子と多数の酸素原子や窒素原子からなる複雑な構造を有しており、側鎖にはアルキル基、カルボキシル基などの官能基を複数有しています。高い脂溶性によって細胞内へ取り込まれ、二量体であるチューブリンに結合することで抗がん作用を発揮し、がん細胞の増殖を阻害します。
ビンブラスチンは植物から抽出されますが、天然物中にも多くの光学異性体が含まれることが知られています。そのため、純粋に活性有利な光学異性体の合成法や分離精製法の開発が求めれられています。
しかし、複雑な構造による合成難易度の高さから、収率の低さが現状の課題です。今後も、より効率的なビンブラスチンの合成法の開発が求められています。
ビンブラスチンのその他情報
ビンブラスチンの製造方法
ビンブラスチンは、マダガスカルツルニチニチソウ (Catharanthus roseus) から、その前駆体 (カサランチン、ビンドリン) とともに単離されます。ビンブラスチンは葉や茎、根などから抽出され、クロマトグラフィーによる精製を経て分離されます。
複雑な立体構造に由来する合成反応の工程の多さや副生生物による収率の低さから、工業的なスケールでのビンブラスチンの合成は困難とされており、天然物からの抽出がビンブラスチンの主な供給源です。
しかし、植物から抽出したビンブラスチンおよび前駆体は、活性に不利な光学異性体を含むため、近年ではキラル剤 (Sharpless触媒) や反応温度の制御によるエナンチオ選択的な全合成が注目を集めています。