シクロヘキサノンとは
図1. シクロヘキサノンの構造 (右: 立体配座)
シクロヘキサノン (Cyclohexanone) とは、分子式 C6H10Oで表される有機化合物です。
環状ケトンであり、シクロヘキサンのメチレン基が1つカルボニル基に置き換わった構造を持ちます。ケトヘキサメチレン、ピメリックケトン、シクロヘキシルケトン、アノンなどの別名があります。CAS登録番号は108-94-1です。
また、シクロヘキサノンオキシムのベックマン転位により、6-ナイロン、6,6-ナイロンの製造中間体であるカプロラクタムを生成します。
シクロヘキサノンの使用用途
シクロヘキサノンの主な使用用途は、以下の通りです。
- カプロラクタム、アジピン酸、ナイロンの原料
- セルロイド、脂肪、ワックス、ゴム、合成樹脂、樹脂ラッカー等の高沸点溶剤
- ペンキ、ワニスの剥離剤
特に、6-ナイロン、6,6-ナイロンの原料としての用途が大半を占めます。そのほか、溶媒、または酸化反応の活性化剤として用いられることもあります。
シクロヘキサノンの性質
図2. シクロヘキサノンの基本情報
シクロヘキサノンの分子量は98.14、融点は-32.1 ℃、沸点は156 ℃であり、常温では特異臭を持つ無色の液体です。樟脳様のアセトンとも似た臭いとされます。
また、長期放置すると酸化され黄色に変色する物質です。エタノール及びジエチルエーテルにきわめて溶けやすく、水にやや溶けやすい性質があります。密度は 0.9478g/cm3です。
シクロヘキサノンの種類
一般に販売されているシクロヘキサノンの種類には、研究開発用試薬製品や工業用薬品・ファインケミカルなどの製品がります。研究開発用試薬製品は、有機合成原料、溶剤として用いられることが多いです。
容量の種類には500mL、15kg、17kgなどがあり、試薬製品の中では比較的大容量で販売されている製品です。工業用薬品・ファインケミカルなどの産業用製品では、石油缶 (16kg) 、ドラム (190kg) 、コンテナ (1,000L) などの荷姿で提供されています。
シクロヘキサノンのその他情報
1.シクロヘキサノンの合成
シクロヘキサノンの合成方法は複数報告されています。1つ目の方法は、シクロヘキサンの酸化反応です。この反応では、コバルトまたはマンガンの酢酸塩もしくはナフテン酸塩を触媒とします。シクロヘキサノンとシクロヘキサノールの混合物が生成しますが、シクロヘキサノンを単離したい場合には、蒸留によって分離されます。
その他、シクロヘキサノールを亜鉛または銅触媒により、400-450℃で脱水素化する方法やフェノールをPd-CaO/Al2O3等のパラジウム触媒を用いて気相、140-170℃で水素化する方法などがあります。
2.ナイロン原料の合成反応
図3. ナイロン原料の合成反応
シクロヘキサノンの有用な化学反応の1つに、ナイロン原料の合成反応があります。6-ナイロンの原料となるε-カプロラクタムの合成反応は次の通りです。
- ヒドロキシルアミンとの縮合により、シクロヘキサノンオキシムを生成
- 上記反応で得られた中間体をベックマン転位反応により、ε-カプロラクタムに転換
また、シクロヘキサノンとシクロヘキサノールの混合物を硝酸酸化させる反応によって開環が起こり、アジピン酸が合成されます。アジピン酸は6,6-ナイロンの原料として使用される物質です。
3. シクロヘキサノンの反応性
シクロヘキサノンは、法規制に従った通常の保管及び取扱においては安定な物質です。硝酸などの強力な酸化剤と反応して、火災や爆発を生じる危険性があります。
保管の際はこうした強力な酸化剤との混触を避けることが必要です。また、44℃以上では、蒸気/空気の爆発性混合気体を生じることがあります。
4. シクロヘキサノンの法規制情報
シクロヘキサノンは、引火点が 44℃ (密閉式) であり、引火性の高い液体/蒸気です。また、人体への有害性では、「皮膚に接触すると有毒」「吸入すると有毒」「皮膚刺激」「強い眼刺激」「遺伝性疾患のおそれの疑い」「呼吸器系の障害」「中枢神経系の障害」など各種の有毒性が指摘されています。
そのため、シクロヘキサノンは各種法令による法規制の対象です。労働安全衛生法では「第2種有機溶剤等」「 名称等を表示すべき危険有害物」に、労働基準法では「疾病化学物質」に指定されています。また、消防法では「第4類引火性液体、第二石油類非水溶性液体」に指定されています。各種法令を遵守して正しく取り扱うことが大切です。