シクロヘキサノンオキシムとは
図1. シクロヘキサノンオキシムの基本情報
シクロヘキサノンオキシム (英: Cyclohexanone oxime) は、 有機化合物の1種で、オキシム基を持つ六員環化合物です。
化学式ではC6H11NOで表されます。CAS登録番号は100-64-1です。分子量は113.16、融点は86〜92℃、沸点は210℃であり、常温では白色から褐色の固体です。水、エタノール、アセトンに溶解します。水への溶解度は16g/kgです。
シクロヘキサノンオキシムの使用用途
図2. ε-カプロラクタムと6-ナイロン
シクロヘキサノンオキシムの主要な使用用途は、6-ナイロンの合成中間体であるε-カプロラクタムの合成です。最終目的物である6-ナイロンは、融点225℃、耐熱温度80~140℃の合成繊維です。耐摩耗性、耐衝撃性、耐油性、耐薬品性、ならびに電気特性に優れています。また、同じ合成樹脂の6,6-ナイロンと比較し、染色性に優れていることが特長です。
6-ナイロンは、衣類、カーペット、釣り糸のほか、熱可塑性のエンジニアリングプラスチックとして、機械や電気通信機器、輸送機械などの部品、雑貨、建材、フィルムなどに用いられています。
シクロヘキサノンオキシムの性質
シクロヘキサノンオキシムは、通常の保管条件においては安定な物質です。光により変質するおそれがあるため、高温と直射日光を避けて保管することが求められます。
また、強酸化剤との混触も反応の恐れがあるため、避けることが必要です。想定される危険有害な分解生成物として、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物が挙げられます。
シクロヘキサノンオキシムの種類
シクロヘキサノンオキシムは、主に研究開発用試薬製品やファインケミカルなどの製品の種類が存在します。研究開発用試薬製品は、25g、100g、500gなどの容量の種類で提供されています。
ファインケミカルなどの化成品の情報については、製造元への問い合わせが必要です。
シクロヘキサノンオキシムのその他情報
1. シクロヘキサノンオキシムの合成
図3. シクロヘキサノンオキシムの合成
シクロヘキサノンオキシムは、シクロヘキサノンとヒドロキシルアミンの縮合反応を用いて合成されています。それ以外に工業的に用いられている合成方法としては、シクロヘキサンと塩化ニトロシル (NOCl) との反応が挙げられます。
この反応ではNOClを用いた光ニトロソ化法によってシクロヘキサンをニトロソベンゼンに変換し、ニトロソベンゼンを水素化させてシクロヘキサンオキシムを得ることが可能です。原料であるシクロヘキサンはシクロヘキサノンよりもはるかに安価であるため、コスト面で優れています。東レによって開発された方法で、通称で東レ法と呼ばれることもあります。
2. ε-カプロラクタム
シクロヘキサノンオキシムの用途で最も有名なものは、ε-カプロラクタムの合成です。シクロヘキサノンオキシムを利用したε-カプロラクタムの製造方法は、1900年にO.バラッハにより発見されました。
その後、1938年にドイツのIG-Farben社により、ε-カプロラクタムの開環重合により紡糸できる状態の6-ナイロンが作られています。
3. ε-カプロラクタムの合成反応とベックマン転移
シクロヘキサノンオキシムを原料とする基本のε-カプロラクタムの合成は、発煙硫酸を用いた反応です。この反応では、反応に使用した硫酸をアンモニアで中和する必要があるため、カプロラクタム 1トンあたり約 1.7 トンの硫酸アンモニウムを副生します。
このため、発煙硫酸を用いない方法が企業・アカデミアで研究されており、報告されています。例えば、住友化学では、ハイシリカMFIゼオライト触媒を用いて気相ベックマン転位を行う合成法が開発され、2003年に工業化されました。
この合成法は、全く硫酸アンモニウムを副生しない触媒的合成法です。それ以外の煙硫酸を使用しない方法では、他の研究チームより、塩化シアヌル触媒によりベックマン転移させてカプロラクタムを得る方法などが報告されています。