クマリンとは
図1. クマリンの概要
クマリンは植物に分布する芳香成分であり、ラクトン(環状エステル)構造を有した芳香族化合物です(図1参照)。常温では固体の状態で安定していますが、アルコール、エーテル、クロロホルム、揮発油などに可溶であるため、溶解された状態で使用されることも多いです。本化合物は、桜の葉やシナモン、ミカン科、マメ科の植物に含まれています。特徴的なのはその香りにあり、桜餅の甘い香りの成分でもあります。
また、抗酸化作用や抗菌作用、抗血液凝固作用があり、むくみや老化の予防にも効果的であるとされています。
クマリンの分布と存在形態
セリ科、ミカン科、マメ科の植物に多く含まれており、植物生体内では配糖体として存在します。ここでいう配糖体とはクマリンと糖類が結合した存在形態を意味しています。興味深い事に、このような配糖体としてのクマリンは特有の芳香を有しません。上述の『桜餅に特有の甘い香り』は、クマリン配糖体ではなく、その加水分解により生じたクマリンに由来します。
クマリンの物理化学的諸性質
1. 名称
和名:クマリン
英名:coumarin
2. 分子式
C9H6O2
3. 分子量
146.14
4. 構造式
図1の通り。
5. 融点
72℃
6. 溶媒溶解性
ジエチルエーテル、クロロホルム、ピリジンに易溶、エタノールに可溶。
7. 蛍光性
紫外線照射により黄緑色の蛍光を発する。
クマリンの合成
サリチルアルデヒドと無水酢酸と酢酸ナトリウムからパーキン反応によって合成されます。
クマリンの特徴と使用用途
1. 独特の香り
クマリンは、いわゆる『シナモンの香り』の構成成分の一つであり、桜餅の甘い香りはこれに由来します。また、この香りにはリラックス効果も報告されています。このような特徴から、芳香剤や香水の成分として使用されています。
2. 健康への効果
クマリンには血流を改善する効果が報告されており、むくみ予防に効果的であると考えられています。また、抗酸化作用を有する事から生体内の活性酸素を除去する効果があります。このような特徴があるため、クマリンには老化防止機能も期待されます。一方で危険性としては、大量に摂取すると肝臓障害を引き起こす可能性があります。そのため、食品分野では香料の成分および香り付けの食品添加物としてのみ、その使用が認可されています。
3. 医薬品としてのクマリン関連化合物
図2. ワルファリンの構造
クマリン骨格を有する化合物には血液凝固阻害活性を有する物質も存在します。その代表例がワルファリンです。本化合物は、クマリンの代謝産物であるジクマロールをリード化合物として合成された生理活性物質であり、現在、血液凝阻害剤や殺鼠剤として利用されています。
4. 蛍光性と軽油識別剤としての利用
日本においては、軽油取引税の脱税防止を目的として、灯油とA重油中にクマリンが1ppm濃度になるように添加されています。市販の灯油がブラックライト照射により黄緑色の蛍光を発するのは、この『添加物としてのクマリン』に起因するものであり、灯油そのものの性質ではありません。このようなクマリンの使用例は、その脂溶性の高さと蛍光性という2つの化学的性質を上手く利用したものであるといえます。