アルギン酸とは
図1. アルギン酸の構造
アルギン酸 (Alginic acid) とは、昆布やワカメ等の褐藻類に含まれている物質で、多糖類の一種です。
ß-D-マンヌロン酸 (β-D-mannuronate) (M) とα-L-グルロン酸 (α-L-guluronate) (G) の2種の単糖からなるブロックが、 (1-4)-結合によって直鎖状に重合しています。純粋なアルギン酸は常温で白~淡黄色の繊維状、粒状又は粉末です。
純粋なアルギン酸は水に不溶であるものの、アルカリ塩は水溶性を呈します。油脂や有機溶媒には溶けません。また、アルギン酸のゲル化能力やゲル強度などの性質は含まれるマンヌロン酸 (M) とグルロン酸 (G) の比率 (M/G比) や配列の仕方によって大きく異なります。
アルギン酸の使用用途
アルギン酸およびその誘導体は、食品・医薬品・化粧品・繊維加工の他、幅広い用途に活用されています。食品分野では、小麦粉製品の品質改良材として利用が可能です。また、その他食品添加剤としても、アイスクリームやシロップなどの増粘剤、安定剤として用いられています。
ゲル化する性質を活かし、人造イクラや、香料や酵素を閉じこめるカプセルなどの加工も可能です。食品以外の生活用品用途は、接着剤、フィルム、繊維、水性塗料の製造やゲル化剤、紙のにじみ止めなどが挙げられます。
その他、錠剤の崩壊剤としても活用されています。これは、水には不溶でありながら、アルカリで中和されると溶解する性質を活かし、目的の消化器の中で薬効成分を放出するものです。医療分野での用途には、手術糸や止血剤、軟膏などが挙げられます。
アルギン酸の原理
アルギン酸の原理を製造方法や性質の観点から解説します。
1. アルギン酸の製造方法
アルギン酸は、全て海藻 (褐藻類) からの抽出によって製造されます。コンブやオオウキモ (ジャイアントケルプ) のような大型の種類が利用されており、天然の海藻の利用が中心です。一部、中国では養殖したコンブを原料としたアルギン酸の製造を行っています。
海藻に含まれているアルギン酸は、海水中のミネラルと塩をつくり、不溶性のゼリー状態で細胞壁間に充填されています。そのため、下記のような工程で、抽出・精製されます。
- 抽出
海藻にアルカリ性のナトリウム塩を加えて加熱し、アルギン酸の不溶性塩を水溶性のアルギン酸ナトリウムに置換して溶出させます。 - ろ過
不溶性成分を除きます。 - 析出
アルギン酸ナトリウムの水溶液に酸を加えて pH を下げ、再び不溶性のアルギン酸として析出させます。 - 乾燥
析出したアルギン酸を脱水した後よく洗浄し、乾燥させてアルギン酸を得ます。
2. アルギン酸の性質
図2. アルギン酸カルシウムのゲル化
アルギン酸は、天然の海藻から抽出・精製されているため、含まれるマンヌロン酸 (M) とグルロン酸 (G) の比率 (M/G比) や配列の仕方は原料の海藻によって異なります。物性的特徴としては、MとGが交互につながったブロックが最も柔軟性があり、Gからなるブロックは固い構造です。
アルギン酸のナトリウム塩は水溶性を呈しますが、Ca2+などの多価陽イオンを加えると、瞬時にイオン架橋が起きます。この際、架橋の網目構造に溶媒の水を取り込み、ゲル化 (ハイドロゲル化) します。
また、アルギン酸はアルカリで中和されると溶解するものの、低い pH では酸性の繊維状ゲルを形成します。これらのゲルの中で、分子間の結合をつくるのは主にMまたはGの繰り返し構造 (ホモポリマーブロック) ですが、ゲル強度を決めているのはGブロックの含有比率です。
アルギン酸の種類
図3. アルギン酸塩などの種類
アルギン酸は、アルギン酸及び、その各種の塩として流通しています。流通している主な塩は、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸アンモニウムなどです。
アルギン酸の1価カチオン塩およびアルギン酸エステルは冷水・熱水によく溶けて、粘ちょうな水溶液となりますが、アルギン酸、アルギン酸カルシウムは、水に溶けません。
製品は、食品・医薬品・化粧品・繊維加工その他各種産業に用いられる業務用製品のほか、一般的な化学試薬としても少量より販売されています。