蛍光X線分析装置

蛍光X線分析装置とは

蛍光X線分析

蛍光X線分析装置は、蛍光X線分析 (XRF:X-ray Fluorescence) 手法を用いて、物質に短波長のX線を照射し、発生する特性X線を測定することで物質の化学組成を分析する装置です。

蛍光X線分析装置は測定対象に損傷を与えずに、特定元素を数ppmの感度で検出したり、主成分の定量分析を迅速に行うことが可能です。高感度・高精度の大型装置から、人が持ち運んで数秒で分析を終えることのできるポータブル装置まで、様々なタイプの分析装置があり、目的に応じたものを選択できます。

蛍光X線分析装置の使用用途

蛍光X線分析装置は金属元素の検出が手軽にできるため、製品への異物混入検査や重金属による環境汚染の判定などに用いられることが特に多いです。また、測定可能な全元素の分析が一度にできるので、成分が不明の物質の組成分析に最適で、様々な研究や調査にも幅広く用いられています。

熟練した技術者でなくても取り扱える上、分析試料の作成が容易あるいは必要ありません。非破壊で素早く手軽に化学分析が可能なため、蛍光X線分析には数多くの用途があります。

迅速さを主眼とした分析の一例は、以下の通りです。

  • 土壌や産業廃棄物、リサイクル製品などに含まれる有害元素の検出
  • 電子材料や部品の中の不純物の分析
  • 金属材料、岩石、鉱石、セメント、ガラス等の組成分析
  • 植物中の金属、リン、硫黄などの分析
  • 食品や食品容器中の異物あるいは残留添加物の分析

なお、非破壊で分析できる利点を活用した使用用途は、以下の通りです。

  • 宝石、美術品、文化財、考古学出土品、証拠物などの鑑定
  • 空港や税関での荷物検査

蛍光X線分析装置の原理

波長の短いX線を照射された物質から二次的に発生するX線を蛍光X線といいます。太陽光が様々な波長の光を含むのと同様に、蛍光X線は様々な波長のX線を含みますが、波長と強度のスペクトル中には幾つもの鋭いピークが見られます。これらは、物質中の元素が出す特性X線のピークです。

原子の電子殻に高いエネルギーを持つ (波長の短い) X線が照射されると、内側の殻にある電子が弾き出されて外側の殻に移動することで不安定な状態が発生します。この状態を解消するために、空白となった内側の殻に外側から電子が移動し、2つの殻のエネルギー差に対応した波長のX線が特性X線です。

特性X線それぞれが持っている固有の波長により元素が同定可能で、それらの強度から元素の含有量がわかります。

蛍光X線分析装置の特徴

長所

蛍光X線分析装置では、マグネシウムより重いほぼ全ての元素を同時に短時間で測定することができます。固体でも液体でも非破壊での分析が可能で、ハンドヘルドタイプの装置を用いればどこにでも持ち歩けて、分析対象に装置を数秒間押し当てるだけで測定が終了します。

短所

蛍光X線分析装置は軽元素の検出が苦手で、有機物の主要構成元素である水素、炭素、窒素そして酸素などの分析には適していません。また、元素の存在と量が測定できるだけで、元素同士の組み合わせを判定することは不可能です。

例えば鉄が検出された場合、それが金属鉄なのか酸化鉄なのかを判定できないため、カリウム塩素が検出されても塩化カリウムが存在すると断定するのは不可能です。

蛍光X分析装置の種類

蛍光X線分析では、物質に含まれるそれぞれの元素から複数の特性X線が発生するため、これらを適切な方法で分離して別々に強度を測定する装置が必要です。装置のタイプは、X線の検出方法により2種類に分けられます。波長分散型 (WDX) とエネルギー分散型 (EDX) です。

1. 波長分散型装置

分光素子によりX線を波長毎に分光して検出器に導く装置です。目的とする特性X線の強度だけを検出器で測定するもので、波長分解能が高く測定感度・精度ともに優れています。

しかし、測定試料の表面を平滑にする必要があり、分光素子と検出器を正確に回転移動させなければならないため装置が大がかりになり、価格も高めです。

2. エネルギー分散型装置

蛍光X線をそのまま検出器に取り込み、受けた信号を装置内部で電気的に処理して特性X線を検出します。波長分散型に比べると、分解能、感度、精度などは劣りますが、分析に要する時間が少なく、取り扱いが容易で、低価格です。また、小型化が容易で、表面に凹凸があっても測定できますので、ハンドヘルドタイプものを含む様々な製品が販売されています。

蛍光X線分析装置のその他情報

1. 検出可能な元素

蛍光X線分析装置は、原理的には原子番号4のベリリウムから原子番号95のアメリシウムまでの元素の特性X線を測定することができます。しかし、軽元素の特性X線は強度が弱すぎるため、原子番号12のマグネシウムより軽い元素の分析は難しいと考えた方がよいでしょう。

2.  元素の含有率を調べる定量分析

蛍光X線装置で検出された特性X線を既存のデータと比較するだけで試料にどのような元素が含まれているかがわかります。これを定性分析といいますが、それぞれの元素の含有率を調べる定量分析を行うにはもう一工夫必要です。

検量線法
正確な定量分析を行うには、元素の含有率が分かっている複数の物質 (標準試料) の特性X線強度を測定して作成した検量線を用います。分析対象である試料についても同じ特性X線の強度を測定し、検量線のどの位置にくるかを見て、元素の含有率を判定します。

FP (ファンダメンタルパラメータ) 法
標準試料がない場合、あるいは検量線を作成する手間をかけたくない場合はFP法を用います。FP法とは、分析対象試料の特性X線強度のみを用いて、試料の組成を理論的に推定する方法で、検量線を用いるより簡便ですが、精度は落ちます。

3. 選び方や注意点

分析精度と感度を要求するのであれば波長分散型、手軽さと迅速さを求めるならエネルギー分散型の装置を選択します。また、蛍光X線分析にはX線を用いるため、民間企業が装置を導入する際には30日前までに労働基準監督署に届け出なければなりません。装置の種類によってはX線作業主任者が必要になるため、導入前にメーカーに確認することをおすすめします。

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