熱分析

 熱分析とは熱分析

図1. 熱分析装置の構成

熱分析とは、分析したい物質を加熱または冷却した時、どの程度の温度、どの程度の時間がかかると物理的に変化が起きるかについて調べる分析の総称です。

熱分析装置は基本的に以下のもので構成されます。

  • 検出部
    ヒーター、試料、検出器 (センサー) を備え、試料をヒーターにより加熱冷却すると共に、試料の温度と物理的性質を検出します。
  • コンピュータ部
    温度制御部とデータ処理部の2つで構成されています。温度制御部ではヒーターの温度制御を行い、設定されたプログラムに従ってヒーターの温度を制御します。データ処理部で検出器と温度センサーからの信号を入力して、データ記録から解析までの処理を行います。

つまり、熱分析とは温度を変化させながら物性を測定する装置です。現在の装置は、温度制御及びデータの記録、解析まで全て手軽に行えるようになっており、装置の制御・解析ソフトとセットで販売されている場合が多いです。

熱分析の使用用途

熱分析は、温度の変化によって材料の機能や効果がどのように変化するかを確認する際に使用します。これによって材料の特性を知り、材料の最適使用温度や製品を製造する際の適正温度を知ることが可能です。

例えば、物質には温度変化によって発生する応答として、融解やガラス転移などの相転移や熱分解などの化学反応、熱膨張や熱収縮があります。これらの特性を熱分析を通して知ることで、寸法安定性に優れた材料の開発や、最適なプロセス条件の設定などに活用します。

そのほかにも、品質管理において生産された製品が要求スペックを満たしているのかを確認するためにも活用されています。

熱分析の原理

Fig2 熱分析装置の測定対象

図2. 熱分析装置の測定対象

熱分析は、検出したい物理的性質に応じて複数の手法があり、大きく分けて5つの技法が存在します。

1. 示差熱分析 (DTA)

基準物質との温度差を検出する分析技法です。基準物と同じ熱履歴を与えて、基準物質に対して、試料の発熱あるいは吸熱を検出します。DTA曲線はガラス転移、結晶化、溶融および昇華といった変化に関するデータを示します。

2. 示差走査熱量測定質量 (DSC)

基準物質との熱流差を検出することができる分析技法で熱容量・比熱の測定によく用いられます。融解、ガラス転移、結晶化といった物質変化の確認、反応や熱履歴の検討が可能です。

3. 熱重量測定 (TG)

重量変化を検出する分析技法で、DSCではあまり確認しない昇華、蒸発、熱分解、脱水等、重量変化といった変化を確認できます。熱重量分析は、他の分析装置と組み合わせることで、同一の試料から同時に多くの情報を得られます。よく見られるのはTG-DTAとTG-DSCです。

4. 熱機械分析 (TMA)

試料に非振動的荷重 (一定荷重) をかけながらの温度に対する変形を計測する手法です。熱膨張、熱収縮、ガラス転移、硬化反応のような形状変化の伴う現象や熱履歴の検討等の測定が可能です。

5. 動的粘弾性測定 (DMA)

試料に時間によって変化する歪みや応力を与えて、それによって発生する応力や歪みを測定することにより、試料の動的な力学的な性質 (粘弾性) を測定する方法です。ガラス転移、結晶化、反応の中でも分子内の運動や構造変化に伴う現象や熱履歴の検討等の測定が可能です。

 

このほかにも発生するガスを分析するEGA (Evolved Gas Analysis) などの手法も存在します。これらは、試料の種類や測定の目的に合わせて最適な手法を選択する必要があります。図2におおよその目安を示しますが、試料の種類によっては測定できない場合もあるため、注意が必要です。

熱分析とその他の分析・観察手法とを組合せることで、付加価値をつけた複合装置も開発されています。文中にもあるようにTGとDTSやTGとDSCを組み合わせた構成の装置やTMAとDMAの両方の測定ができる装置が販売されています。

その他にも、光学顕微鏡と組合せて形態や色彩の変化を同時に観察できるものや、FT-IR (フーリエ変換赤外分光分析) 、MS (質量分析) などの化学分析と組合せることで、加熱に伴って発生したガスの分析を同時に行える装置も登場しています。

熱分析測定のその他情報

熱分析測定結果の例

Fig3 熱分析装置の測定結果の例

図3. Fig3 熱分析装置の測定結果の例

図3は温度に対する物性の変化が大きい高分子材料をイメージした材料熱分析測定結果の例です。

高分子材料を加熱していくと、まずガラス転移というゴムのように柔らかくなる状態変化が起きます。次に結晶化という分子が規則正しく並ぶ構造になる状態を経て、結晶化した分子が融解をはじめていきます。さらに温度を上げていくと、酸化分解が発生して気体となります。

この過程を熱分析装置で測定すると、各熱分析装置でガラス転移、結晶化、融解、酸化分解といった現象が起こった際に急激な測定値の変化が発生します。この変化を追うことで、測定対象の特性を知ることが可能です。

図3のように発生した物理的性質によって、ある手法ではピークが現れますが、ある装置では検出できないなど熱分析の測定結果も異なります。そのため、材料特性を評価する上で、測定の目的に応じて測定法を使い分けたり、いくつかの測定手法での結果を照らし合わせたりして評価することが大切です。

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