熱処理炉とは
熱処理炉とは、加熱や冷却によって金属の組織や性質を改善する炉です。
熱処理は鉄をより固くする「焼き入れ」や靭性を与える「焼き戻し」などを指し、例えば日本刀をより硬く、切れ味良く、破損しにくくするため熱処理技術が生まれました。日本で熱処理炉が発展を始めたのは戦後で、製鉄業の技術の進歩に伴い熱処理炉技術も躍進しました。熱処理炉にはめっき炉、浸炭炉、ろう付け炉、焼鈍炉などがあります。
熱処理炉は加熱炉と冷却炉の組み合わせで構成され、製品品質に影響が出るため、製品の種類や生産量で最適な熱処理炉を選択する必要があります。
熱処理炉の使用用途
熱処理炉には以下のような使用例があります。
1. 食品業界
1年のうち気温が高い季節では食中毒を引き起こす細菌の問題が取り上げられています。細菌の多くは熱処理で死滅するため熱処理炉を使用可能です。食品プラントでは約130°Cで30分間の条件で生産設備の殺菌が行われます。
2. 自動車業界
自動車の高剛性化を支える技術として熱処理炉が利用されています。メッシュ式やローラー式の連続炉で、一定の温度管理のもと製品の熱処理が行われます。
熱処理炉の原理
熱処理炉は鋼の「焼き入れ」「焼き戻し」「焼きならし」「メッキ処理」などに使われる炉です。熱処理炉は加熱炉と冷却炉の組み合わせで構成され、組み合わせが品質を決定します。加熱炉は大きく分けて「焼却炉」と「電気炉」があり、その特徴は以下の通りです。
1. 焼却炉
灯油、重油、LPG、都市ガスなどを燃料としてバーナーを燃焼させます。
2. 電気炉
工業ヒーターで炉内を高温に上げるほか、ピンポイントで加熱するレーザー式、コイル式、ビーム方式があります。
3. 加熱炉
加熱炉で製品の品質を安定させるには温度と時間管理が重要です。温度記録計で管理し、温度条件が外れた場合には作業者に異常を知らせます。一旦条件を外れた場合にはそのとき炉内にある製品は不良になる恐れがあります。
4. 冷却炉
冷却炉のタイプは「空冷」「水冷」「油冷」「炉冷」があり、それぞれ冷却速度が違います。炉冷では炉から出た製品に手を出さずに自然と冷却し、焼きなましの効果があります。
熱処理炉の構造
熱処理炉では熱処理が加熱と冷却でセットになっており、熱処理装置の形式によってプロセスが異なります。
1. バッチ式
ロール上に処理品を設置して加熱炉に入れ、加熱と保持の後にロールを搬出して冷却材で冷却します。処理数量の少ない場合に向いています。
2. 連続式
加熱と冷却を連続して行い、間欠式と純連続式に分類されます。間欠式は加熱炉と冷却炉が離れたタイプで、純連続式は一体型のタイプです。処理数量の多い場合に適しています。
熱処理炉の種類
1. 鍛造加熱炉
鍛造前に棒鋼のような材料を適温に熱して塑性のある状態にします。
2. 圧延加熱炉
スラブやビレットなどの鋼片を加熱して塑性のある状態にして、形鋼、棒鋼、線材、鋼板などの製品にするため圧延機を使用します。
3. 焼準炉
鋳造や鍛造で不均一になった鋼の組織を均一化して機械的性質を向上させて切削性を改善します。800~900°C程度の温度に加熱して大気中で冷やします。
4. 焼鈍炉
冷間加工で生じる内部応力を取り除きます。焼準とは異なり、加熱後に炉内で徐冷します。
5. 焼入炉
鋼を硬化させて磨耗性を付与し、加熱後に水槽や油槽で急冷します。
6. 焼戻炉
焼入れで脆くなった鋼に靭性を与え、焼入れ時の残留応力を取り除いて焼割れを防止します。焼入れした鋼を700°C以下に加熱して大気中で冷やします。
7. 浸炭炉
鋼表面を硬化させて耐磨耗性を付与します。浸炭性のある吸熱性変成ガス中で一定時間加熱し、歪防止のためにオーステナイト変態温度より少し高い温度に下げて焼入れします。
8. アルミ熱処理炉
鋳物の機械加工や冷却収縮による歪を取り除き、組織の均一化によって機械的性質を適正にします。