グラファイトシートとは
グラファイトシートとは、グラファイトを薄いシート状にしたものです。
グラファイトは炭素の同素体であり、シートの平面方向への熱伝導率が非常に大きい金属シートです。グラファイトシートの用途は、放熱シートとしての使い方です。コンピューターのCPUの放熱・冷却、電子機器の冷却などに使用されます。
国産ではPGSグラファイトシート(PGS:Pyrolytic Graphite Sheet、パナソニック社登録商標) が、大きい熱伝導性と柔軟性を持つ結晶性グラファイトシートとして知られています。
グラファイトシートの使用用途
モバイル電子機器をはじめ、電子機器の軽量、薄型、小型化と同時に高性能・高機能化も進むにつれ、深刻になっているのが発熱の問題です。グラファイトシートは熱拡散・放熱に大きな効果を発揮します。
スマホ、携帯電話、デジカメ、タブレットPC・PC周辺機器、LEDデバイス関連といった家電製品の他にも、 半導体製造装置 (スパッタリング、ドライエッチングなど) 、 光通信及び基地局でも使用されています。
また、グラファイトシートの成分は炭素であるため、環境問題にならない点も普及の後押しとなり 、上記以外の様々な分野でも熱対策素材に活用され、急成長製品の1つです。
グラファイトシートの原理
1. 製造法の原理
天然のグラファイトは、ほとんどが粉末状であり、結晶化が困難な物質です。従来の人造結晶は、製造に長時間を要し高価でしたが、新規開発された方法は画期的に高品質・低コストといえます。
グラファイトシートの製造法は、簡単に言えば、特殊な分子構造の高分子フィルムを高温で熱分解して得られる結晶構造を、平面方向に高配向させる超高温焼成を行うだけの非常に単純な原理です。
炭素を含む高分子材料を酸素が無い状態で加熱していくと、500℃で水素、1,000℃で酸素、2,000℃で窒素と順次離脱していき、最終的に3,000℃まで加熱すると炭素原子だけが残ります。ポリイミドなどの特定の高分子素材の炭素原子を焼成して結晶化させると、「高品質グラファイト結晶」が得られます。これに対し、グラファイトシートは単純に結晶化を行うのではなく、2次元的に結晶化した炭素を層状に積み重ねたシート状のものを指します。
2. 特性
グラファイトシートの層という構造上、熱伝導性は面方向が非常に高く、厚さ方向には熱を伝えにくい特性があります。すなわち、沿面方向に素早く熱が伝わるという特徴です。層の厚さ方向の熱伝導率は、面方向の約1/200程度です。対象機器に貼るだけで大きな冷却効果が得られます。
また、製造に複雑な工程は必要なく、低コスト化が可能の上、物質としては炭素そのものなので、RoHS指令対応というメリットがあります。環境への負荷が非常に小さい物質です。
グラファイトシートの特徴
1. 高い熱伝導率
グラファイトシートの熱伝導率は、金属の中でも高い熱伝導率を持つ銅の2~3倍程度、アルミの3~5倍、ダイヤモンドよりは多少劣るものの他の金属より高い熱伝導率を有します。電子部品の放熱に非常に効果が優れ、熱対策素材として利用が拡大しています。
2. 軽量
密度は0.85~1.00g/cm3であり、非常に軽い素材です。厚さは70~100μmと薄く、軽量です。
3. 特殊構造
グラファイトは、炭素が亀の甲のように連なった平面が、層を作った構造です。平面は6角形で構成されており、強い化学結合でつながっていますが、面と面の間は弱い分子間力が働いているだけです。そのため、面自体は丈夫ですが、面と面は簡単に剥がれる特徴があります。
4. 柔軟なシート
薄いシート状の素材であるので、加工が容易で繰り返しによる折り曲げが可能です。圧縮性に優れ、40%以上まで可能です。例えば、CPUの底面はある程度凹凸がありますが、グラファイトシートを貼ってねじ締めするだけで、シートが圧縮され、CPUの発熱を周囲に逃がす放熱シートになります。特に、冷却ファンを使用しないモバイル機器の冷却に欠かせないものです。
また、薄いシートですが、屈曲性が高く、3万回の折り曲げに耐えられます。曲面や角部などの狭小・複雑な形状の加工が容易です。
5. 電磁波シールド
電磁波シールド機能があり、放熱と同時に電磁波の問題が解決できます。
6. 耐久性
高純度炭素で高い化学的安定性があります。経年劣化がなく、環境負荷が小さい素材です。
参考文献
https://industrial.panasonic.com/jp/products/thermal-solutions/graphite-sheet-pgs/pgs
https://www.jst.go.jp/seika/bt63-64.html