防錆剤

防錆剤とは

防錆剤

防錆剤とは、金属製品や金属部品の錆 (サビ) を防ぐためのものです。

一般的に鉄鋼に対して用いられるものが多く、液状の防錆剤を対象物に直接塗布して金属の表面を保護します。対象物の形状に関わらず容易に実施できるため多くの分野で使用されています。

防錆剤は対象の製品や用途によっていくつかの種類が異なりますが、JISK2246 にて防錆油 (ぼうせいゆ) として各種規定があります。

防錆剤の使用用途

1. 液状の防錆剤の場合 (水溶性、油溶性) 

液状の防錆剤の使用用途は防錆油として直接対象の金属に塗布したり、溶液に添加したりすることです。 その使用例としては、鋼板の表面への塗布、ばね (ピアノ線など) への塗布、プレス油や切削油への添加、その他鉄鋼部品への塗布などが代表的です。

2. 気化性の防錆剤の場合

気化性の防錆剤は、気化した防錆成分が金属部品の表面に皮膜をつくることで錆を防ぎます。皮膜を形成した防錆成分は少しずつ気化するため、錆の原因となる大気中の水分や酸素が金属と反応することを防ぎます。気化性防錆剤はフィルムや紙に塗工または含侵させた防錆紙防錆フィルムという形で使用されています。防錆紙や防錆フィルムで金属部品を包んだり、気化性防錆剤を同梱したりすることで防錆剤が少しずつ気化し、防錆の効果を発揮します。

防錆剤の原理

防錆剤のメカニズム

防錆剤は錆の原因となる水や酸素と接触することを抑制する保護被膜を金属表面に形成し、錆を抑制します。

図1は鉄表面に形成された水膜です。水膜には空気中の酸素が溶け込みますが、溶存している酸素濃度は水膜表面と金属表面で異なります。また金属由来の溶け出した金属イオンも水膜表面と既存即表面では差が生じています。このような微小な領域における酸素濃度やイオン濃度の差で水膜内に電位差を生じ、鉄の酸化反応が進行することで錆が生じます。

金属に空気中の水分や酸素が接触すると錆が発生するため、それを防ぐ目的で防錆剤が用いられます。

防錆剤の種類

代表的な防錆剤

防錆剤は、その化学的性状から水溶性防錆剤、油溶性防錆剤、気化性防錆剤の3種類に分類されます。それぞれの特徴と代表的な化合物は以下の通りです。

1. 水溶性防錆剤

水溶性防錆剤の錆抑制機構

水溶性防錆剤は水に溶解する防錆剤です。形成する皮膜の種類により酸化被膜型、沈殿被膜型、吸着被膜型に分類されます。代表的な化合物としては、クロム酸塩、モリブデン酸塩、重合リン酸塩、メルカプトベンゾチアゾール、脂肪酸塩などです。界面活性剤型の防錆剤も水溶性防錆剤に該当し、このような化合物の構造は分子内に極性基と疎水基の両方を持ち合わせています。効果発現の際には分子内の極性基が金属表面に吸着し、疎水基が金属表面をカバーします。疎水基は水分子を排除する性質があるため、錆の発生が抑えられます。

2. 油溶性防錆剤

油溶性防錆剤は低極性で油に良く溶ける性質の防錆剤で吸着型の被膜を形成する特徴があります。その構造は、分子内に極性基と炭化水素鎖の両方を持つ構造です。炭化水素鎖は充分に長い構造を有しているため、化合物全体では高い親油性を示します。金属表面に塗布された場合は極性基が金属表面に付着し、親油性を示す炭化水素鎖が金属表面をカバーします。この疎水性の鎖が油成分を保持するため、金属表面が油の薄い層で覆われます。その結果として水分子や酸素分子が排除され、高い防錆効果が発現します。

代表的な化合物は、石油スルホネート、ソルビタンエステルなどです。

3. 気化性防錆剤

気化性防錆剤は、常温常圧でゆっくりと気化する性質を持つ防錆剤です。気化した防錆成分は大気中に充満し、金属表面に薄い被膜を形成することで防錆効果が発現します。代表的な化合物としては、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどが挙げられます。

防錆剤のその他情報

その他の防錆性のある材料

以下のような化合物群にも錆を防ぐ効果があり、広く用いられています。

1. 可塑性プラスチック

金属表面に吹き付けたり、金属を浸漬して被膜する事で錆の発生を防止します。その用途と特徴から、塗装形と熱間浸漬形の2種類に分類されます。塗装形の場合は、形成される被膜は比較的薄く、かつ、剝がしやすいという特徴があります。一方で熱間浸漬形の場合は、その被膜は塗装型に比べて厚くなりますが、剥がしやすいという性質については塗装形と同様です。

2.  乾燥剤

包装内の水分を除去する目的で広く用いられており、その代表例はシリカゲルです。

3. 脱酸素剤

包装内の酸素を固定して錆の発生を防止する目的で用いられます。安価に入手可能な鉄粉が一般的に用いられています。

4. 腐食抑制剤

金属表面に吸着して自ら被膜を形成し、錆の発生を抑えるタイプの化合物です。各種無機塩や有機酸など、これに該当する化合物は非常に多岐に渡ります。その一例としては、各種のクロム酸塩、カルボン酸類、アミン塩、エステル類が挙げられます。

5. キレート剤

鉄金属の表面に錯塩を形成して錆の発生を防止するタイプの化合物です。EDTA、グルコン酸、NTA、HEDTAなどが代表例です。

参考文献
https://www.juntsu.co.jp/rust/rust_kaisetsu01.php
https://www.sanyo-chemical.co.jp/magazine/archives/1228
https://www.taiyochem.co.jp/rustprevention/

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