アルゴンガスとは
元素番号18番。記号はAr。
語源はギリシャ語の「怠け者」を意味し、非反応性の特徴を指しています。
アルゴンは、不活性雰囲気を作る際に使用されます。チタンや他の反応性元素の製造にもこのように使用されています。また、溶接部を保護するために溶接工によって使用され、フィラメントを腐食させる酸素を止めるために白熱電球にも使用されています。
アルゴンは希ガスの中で最も多く(空気中では0.93%v/v)存在するため、酸素との共存が問題となります。
アルゴンガスの使用用途
アルゴンは反応性の非常に低い不活性ガスであることから、半導体や鉄鋼において酸素と反応しないようにするための不活性雰囲気を提供します。アーク溶接では溶融した金属との反応を防ぐためにアルゴンガスが使用されます。
蛍光管や低エネルギー電球にもアルゴンが使用されています。蛍光灯には微量の水銀とアルゴンが封入されており、アルゴンはフィラメントの放電を補助する役割があります。フィラメントの寿命を長くするためにアルゴンの反応性の低さが利用されています。
食品においても、ワインの封入ガスとしても使われます。これは酸化を防ぐだけでなく、空気より重いアルゴンを使うことで効果的にワイン瓶から酸素を洗い流すことができるためです。
また、アルゴンは空気や窒素と比較して熱伝導率が低い特性があります。このため、二重ガラスの窓は、窓ガラスの隙間を埋めるためにアルゴンを使用しています。
このように、アルゴンは特にその反応性の低さと最も存在量の多い希ガスであることから様々な産業分野で用いられています。
アルゴンガスの性質
アルゴンは無色無臭のガスで、元素周期表の18族に属する希ガスの一種です。18族元素にはアルゴンのほかにヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、ラドンがあります。これらの元素はすべて大気中で気体の状態で存在します。
希ガスの最大の特徴は、非常に安定した電子配置のため反応性が極めて低い不活性ガスであることです(ただし、希ガスでも特定の条件下では反応させることができます)。
不活性ガスは、試料と空気中の酸素や水分との酸化反応や加水分解反応で起こる劣化を促進させる化学反応を避けるために使用されます。
特に精製されたアルゴンや窒素ガスは、天然の豊富さ(空気中のN2が78.3%、Arが1%)とコストの低さから、不活性ガスとして最も一般的に使用されています。特にアルゴンは窒素より高価である一方で、不活性度が窒素よりも低く、窒素と反応してしまう材料や環境ではアルゴンが適しています。
アルゴンは酸素とほぼ同じ溶解度を持ち、水には窒素の2.5倍の溶解度を持っています。
アルゴンは空気よりも熱の伝導率が低いため、ガラスとガラスの間の隙間にアルゴンを入れることで、より良い断熱効果が得られます。
アルゴンガスのその他情報
1. アルゴンガスの危険性
アルゴンガスは、通常使用する場合、危険性の低い物質といえます。アルゴンは空気中に約1%含まれており、私たちも呼吸によって酸素や窒素と一緒に吸入しています。アルゴン自体に毒性はなく、低濃度であれば、吸入しても影響はありません。また、アルゴンは不活性ガス(不燃性)なので、通常の環境で他の物質と反応することや火災につながることはありません。
一方、高濃度で吸入すると窒息する危険性があるので、高濃度になる環境は避ける必要があります。
ボンベに充填された状態で取り扱うことが多いので、ボンベからの漏洩によって、室内のガス濃度が高濃度になる危険性があります。その際はすぐに漏洩元を止めること、室内の換気を充分に行うことで改善することができます。また、液化アルゴンを取り扱う場合、アルゴンが気化する際の気化熱よりボンベ自体が非常に冷たくなるので、素手で触れると凍傷などの危険性があります。その際は、保護具を使用することで安全に取り扱うことができます。
2. アルゴンガスの精製方法
空気中のアルゴンを分離することでボンベガス用の高純度アルゴンが生成されます。その方法として「深冷空気分離法」が用いられています。この方法はまず空気中から水分や二酸化炭素を前処理で取り除いた後、精製した空気を‐170~‐190℃の極低温まで冷却することで、蒸気圧の違い(すなわち沸点の違い)を利用して空気中の気体を分離する方法です。
図1. アルゴンガスの精製方法
ちなみに、窒素の沸点は-195.8℃、酸素は-183.0℃、アルゴンが-185.7℃です。この方法により、空気から酸素、窒素、アルゴンをそれぞれ分離精製しています。
3. アルゴンガスのボンベ
アルゴンガスは通常、ボンベに充填された状態で販売されています。ボンベの種類としては、一般容器、極低温容器などがあります。アルゴンガスの製造や販売については、高圧ガス関連の資格が必要になりますが、ガスボンベの使用については特に資格は必要ありません。
一般容器では、アルゴンは気体状態で14.7MPaもの高圧で充填されています。ボンベの大きさとしては、アルゴンの充填量で7000L、1500L、500Lなどがあります。7000Lのボンベで約60kgの重量があるので、持ち運びや運搬には注意が必要です。
また、使用目的によっては非常に高純度なアルゴンガスが必要になることがあるが、アルゴンガスは99.9999%(シックスナイン)までの純度のボンベガスが売られています。
極低温容器では、アルゴンは液体状態で充填されています。一般容器よりも充填されているアルゴンの量が多いので、大量に消費する場合に適しています。また、ボンベを交換する頻度が減少するので、コストを抑えることができます。ボンベの大きさとしては、127000Lや360000Lのものがあります。かなりの重量があるため、持ち運びや運搬には販売業者や専門の業者への依頼が必要になります。