電鋳とは
電鋳とは、電気鋳造の略語で、電解液中の金属イオンを母型の表面へ金属として電析させ、母型の表面上に金属被膜として成型する技術です。
電解めっき加工が対象物の表面に装飾、耐食性、機能を付与する表面処理技術であるのに対し、電鋳は、母型表面にめっき加工を施した後、母型を取り外してめっきされた電着物自体を独立した製品として使用します。電鋳は、精密電子部品をはじめとする様々な産業分野で活用されている技術であり、様々な金属製品が製造されています。
電鋳の使用用途
電鋳は、半導体、電子分野などの分野を中心に、広く産業一般で使用されています。電鋳を利用することで、機械加工や切削では作製できない高い寸法精度の製品製造が可能です。
例えば、
- レコード原盤や光ディスクなどの成形用金型
- 電気かみそりの刃
- インクジェットノズル
- ロケットの噴射ノズル
- 導波管、冷却管
- 航空機部品
などの製造に適用されています。
電鋳の原理
1. 電鋳の概要
電鋳の基本的な仕組みは電気めっきと同じです。電解液に陽極・陰極を浸して電気を流します。金属塩水溶液などの電解液を適性温度に維持して、陽極側に電鋳させようとする素材 (Ni・Cu・Au・Agなど) の金属を入れ、陰極側にステンレス等の母型を配置します。ここに電流を流すと、陽極側の金属が溶け出し、陰極側の母型の表面上に金属の被膜が形成されます。
電着したこの金属の被膜層を母型から剥離すると、母型と逆の形状の電鋳 (ネガティブ電鋳) が得られます。このまま用いることもありますが、このネガティブ電鋳の表面に適切な前処理を施してから、所要の厚さに金属を電着させて剥離する (転写法) と、母型と全く同じ形状の電鋳 (ポジティブ電鋳) が得られます。すなわち、ネガティブ電鋳を使って、同じ操作を繰り返すと、母型の複製を大量生産することが可能です。
2. 電鋳の特性
電鋳は、析出金属の種類やめっき浴の条件を変更することで、硬度をはじめとする物理的性質を調整する事が可能です。
加工精度が高いことも特徴の一つで、電鋳では0.01~0.1ミクロンの精度で面転写を行うことができます。母型との誤差が非常に小さいため、レザー模様、木目模様などの表面の微細な凹凸を忠実に再現することができます。また、継ぎ目のない容器やパイプを作製することも可能です。また、製品の形や大きさに関係なく、電鋳槽があれば製作を行うことができることも特性の一つです。
電鋳の種類
1. 剥離型電鋳と厚付け型電鋳
剥離型電鋳は、母型に金属を電着させ、剥離して製品とする電鋳の方法です。非常に薄いメッシュのような厚さのものから、数mm以上の厚いものまで様々です。
剥離型電鋳には、原型に剥離皮膜処理を行って電鋳を施してから剥離する転写法や、原型を一度型取りして、それを母型として使用する型取法などがあります。型取り方は、特に、原型が1個しかない美術工芸品や木、織物などに用いられ、型取りにはプラスチック、石膏などが使用されます。熔融除去法は、一度型取低温熔融合金やワックスで原型を作り、電鋳後、原型を熔融除去して電鋳殻を製作する方法です。
厚付け型電鋳とは、素地金属に直接厚く電着し、機械部品の補修や肉盛りをする場合に行われる電鋳です。通電めっきを長時間行い電着層を厚くします。多量生産ではなく、電鋳が1回で終わるものが多いです。肉盛り、電鋳被覆、電鋳組立て等に応用されます。
2. 製品の種類
電鋳技術によって様々な電鋳製品が製造されており、主に下記のような製品種類があります。
- メタルマスク (はんだボール搭載用、印刷用、蒸着用)
- 有機ELディスプレイパネル蒸着用高精細ハイブリッドマスク (FMM)
- はんだバンプ付きウエハ
- 転写リードフレーム
- インクジェットプリンタ用ノズル・フィルタ
- 電子部品用金型
- マイクロマシン用部品 (マイクロギヤ、マイクロワッシャー、構造部品)
- エンコーダー用光学スリット板
- はんだボール吸着用ヘッド
- 精密位置決め治具
- 回析格子