ヨウ素酸

ヨウ素酸とは

ヨウ素酸 (英: Iodic acid) とは、ヨウ素のオキソ酸の一種で、化学式HIO3であらわされる無機化合物です。

CAS登録番号は、7782-68-5です。比較的強い酸であり、強い酸化力を持ちます。また、他のハロゲン化物のオキソ酸と異なり、結晶として単離することが可能な物質です。

ヨウ素酸の使用用途

ヨウ素酸の主な使用用途は、医療用の収れん剤、殺菌消毒剤、分析試薬です。ヨウ素酸は、空気中で比較的安定であるため、取り扱いが容易な物質です。収れん剤や殺菌消毒剤としてのヨウ素酸は、ヨウ素の持つ酸化作用による各種菌やウイルスに対する殺菌消毒作用を利用しています。

また、ヨウ素酸は分析化学の分野において、各種ヨウ素化合物、特にヨウ化カリウムの定量を目的とする滴定試薬としてしばしば用いられます。これはヨウ素酸の酸化剤としての性質を利用したものです。水銀や鉛の定量にも利用されます。また、強酸として酸塩基滴定に用いることも可能です。この場合は、メチルレッドやメチルオレンジを指示薬として弱および強塩基の滴定に利用されています。

ヨウ素酸の性質

ヨウ素酸の基本情報

図1. ヨウ素酸の基本情報

ヨウ素酸は、分子量175.91、融点110℃であり、常温での外観は、白色の結晶または粉末です。

密度は4.62g/mL、酸解離定数pKaは0.75であり、比較的強い酸です。水に極めて溶けやすい性質があります (水への溶解度: 269g/100ml (20°C) )。

ヨウ素酸の種類

ヨウ素酸は、主に研究開発用試薬製品や、産業用ファインケミカルとして一般に販売されています。研究開発用試薬製品では、25g、50g、100gなどの容量の種類があり、実験室で取り扱いやすい容量での提供です。通常、室温で取り扱い可能な試薬製品として扱われます。

産業用ファインケミカルとしては、25kgや200kgなど、工場等で取り扱いやすい大型容量での提供となっています。

ヨウ素酸のその他情報

1. ヨウ素酸の合成

ヨウ素酸の合成

図2. ヨウ素酸の合成

ヨウ素酸の製造方法は、塩素、または硝酸や、次亜塩素酸、過酸化水素などを使用してヨウ素を酸化する方法が知られています。それ以外では、五酸化二ヨウ素を水に溶解する方法があります。

2. ヨウ素酸の化学反応

ヨウ素酸の水溶液中での解離と標準酸化還元電位

図3. ヨウ素酸の水溶液中での解離と標準酸化還元電位

ヨウ素酸は、水溶液中では酸性を示し、解離してヨウ素酸イオンを生じる物質です。酸性溶液中では強い酸化剤としてはたらきますが、塩基性溶液では酸化力は弱い性質があります。

強力な酸化剤であるため、還元性物質や可燃性物質とは反応性がある物質です。また、光により変質するおそれがあります。保管の際は、有機物、可燃物、アルコール類、金属類、還元剤との混触を避けるべきとされます。

3. 他のオキソ酸との対比

他のハロゲン元素のオキソ酸に、塩素酸や臭素酸がありますが、これらの物質は単離することができず、水溶液などの状態でしか存在できません。一方、ヨウ素酸は、単離することが可能であり、結晶化することができます。

ヨウ素の酸化数の異なる他のオキソ酸としては、ヨウ化水素HI (酸化数-1) 、次亜ヨウ素酸 HIO (+1) 、亜ヨウ素酸HIO2 (+3) 、過ヨウ素酸 (メタ過ヨウ素酸 (HIO4) とオルト過ヨウ素酸 (H5IO6) 、酸化数+5) があります。

4. ヨウソ酸の塩

ヨウ素酸の塩として、ヨウ素酸アンモニウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸ナトリウムなどを挙げることができます。これらの物質は、消防法において、危険物第1類に指定されている物質です。

5. ヨウ素酸の有害性情報

ヨウ素酸は、GHS分類において、皮膚腐食性・刺激性のある酸化性固体であると認められています。

ヨウ素酸は、労働安全衛生法において、名称等を表示すべき危険物及び有害物、及び、名称等を通知すべき危険物及び有害物に指定されている物質です。また、ヨウ素酸単体は消防法での規制はありませんが、各種ヨウ素酸塩 (ヨウ素酸アンモニウムなど) は、消防法において危険物第1類に指定されています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0109-0736JGHEJP.pdf

ヨウ化銀

ヨウ化銀とは

ヨウ化銀とは、化学式がAgIで表される無機化合物です。

天然ではヨウ化銀鉱 (英: Iodargyrite) やミュース石 (英: Miersite) として存在する場合もあります。遮光下で硝酸銀(I)水溶液にヨウ化カリウム水溶液を加え、沈殿として製造可能です。

ヨウ化銀はGHS分類で生殖毒性、特定標的臓器・全身毒性 (反復ばく露) が認められています。ヨウ化銀の法規制は、毒物および劇物取締法で劇物に指定されています。労働安全衛生法、労働基準法、PRTR法では、いずれも非該当です。

ヨウ化銀の使用用途

ヨウ化銀は、医薬用X線フィルム、写真乳剤、導電性ガラスの製造、人工降雨のための凍結核などに使用可能です。

他のハロゲン化銀と同様に光と反応して、感光核を作ります。X線フィルムや写真乳剤は、ヨウ化銀の光反応性を利用しています。またヨウ化銀は、氷や雪の結晶と類似した結晶格子 (六方晶形) を取り、雪片を成長させやすいです。したがって、人工降雨の結晶核として使用されます。

ヨウ化銀の性質

ヨウ化銀は淡黄色の結晶で、光反応性を有する化合物です。光を照射すると光化学反応 (英: photoreaction) を起こして、黄緑色を経由して黒色化します。融点は552°Cで、沸点は1,506°Cです。

ハロゲン化銀の中で、最も難溶です。濃アンモニア水にはほとんど溶けません。濃硝酸、チオ硫酸ナトリウム、シアン化カリウム、熱濃ヨウ化カリウム水溶液に溶解します。

ヨウ化銀の結晶構造は氷に似ています。そのため、水が結晶化するときに、種になりやすいです。大気中にヨウ化銀の粒子を散布すると、この粒子を核にして雲が生じ、人工降雨に利用できます。ヨウ化銀は毒性を持っていますが、人工降雨に使う量はとても微量であり、異常摂取をしない限り人体に影響を与えません。

ヨウ化銀の構造

ヨウ化銀はハロゲン化銀の一種で、銀のヨウ化物です。式量は234.77で、密度は5.675g/cm3です。

固体のヨウ化銀には、多形が3種類知られています。室温〜137°Cでは立方晶系のγ型が、137〜146°Cでは六方晶系のβ型が、146°C〜融点では立方晶系のα型が安定です。ただし相互の相転移速度は遅いため、水溶液から沈殿したヨウ化銀には、これらの多形の混合物が生じています。

α型ではヨウ素原子が、体心立方構造を取っており、その間に銀原子が不規則に配置しています。α型の格子定数はa = 5.03Åです。β型はウルツ鉱型構造で、格子定数はa = 4.59Å、c = 7.52Åです。γ型の結晶は閃亜鉛鉱型構造で、格子定数はa = 6.48Åです。

ヨウ化銀のその他情報

1. ヨウ化銀の錯体の生成

ヨウ化銀は水には溶けませんが、錯体を作って溶解します。アルカリ金属のシアン化物に溶解して、[Ag(CN)2]を形成します。[Ag(CN)2]はジシアノ銀(I)酸イオンと呼ばれ、平衡定数はK=3×104です。

アルカリ金属のヨウ化物に溶けるとテトラヨージド銀(I)酸イオンが生じます。テトラヨージド銀(I)酸イオンの化学式は[AgI4]3-で、平衡定数はK=2×10-2です。Na2S2O3 (チオ硫酸ナトリウム) の水溶液にも、[Ag(S2O3)2]3-を形成して溶けます。ビス (チオスルファト) 銀(I)酸イオンと呼ばれ、平衡定数はK=3×10-3です。

臭化銀(I)や塩化銀(I)のようなハロゲン化銀とは違い、錯生成能力が弱いアンモニア水には溶けません。[Ag(NH3)2]+を形成する平衡定数はK=2×10-9です。

2. ヨウ化銀の溶解性

ハロゲン化銀の中で溶解度積が最も小さく、K=1×10-16です。モル体積が大きく、HSAB則 (英: Hard and Soft Acids and Bases Theory) ではAg+とIがいずれもソフトで、結果的にAg-I結合が共有結合性を帯びています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7783-96-2.html

ヨウ化鉛

ヨウ化鉛とは

ヨウ化鉛 (英: lead (II) iodide) とは、二価の鉛のヨウ化物であり、化学式PbI2であらわされる無機化合物です。

CAS登録番号は、10101-63-0です。価数を明示するために「ヨウ化鉛(II)」と表記されることも多くあります。

人体に対して有害な物質であるため、各種法規制の対象となっている物質です。かつては絵の具などに黄色の顔料として汎用されていましたが、毒性の高さと不安定さから、近年ではあまり使用されなくなっています。

ヨウ化鉛の使用用途

ヨウ化鉛の主な使用用途は、X線やガンマ線などの検出器の材料、太陽電池、写真、金メッキ、青銅光沢仕上げや塗料、顔料、印刷、模造金などです。X線やガンマ線などの検出器の材料として用いられるのは、ヨウ化鉛に紫外線を照射すると光電子を放出する性質があるためです。

特に、ペロブスカイト型太陽電池については、光吸収層を構成する有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト化合物の主原料として、メチルアミンヨウ化水素酸塩と反応させて用いられています。

一方で、鉛は、人体に有害であり、メチルアミンヨウ化水素酸塩は、熱分解しやすいという問題があるため、近年では鉛フリーなペロブスカイト型太陽電池の開発も進められています。

ヨウ化鉛の性質

ヨウ化鉛の基本情報

図1. ヨウ化鉛の基本情報

ヨウ化鉛の分子量は461.01、融点は402℃、沸点は872℃であり、常温における外観は、うすい黄色から黄赤色の結晶または粉末の物質です。

密度は6.16g/mLで、引火性は有りません。ヨウ化カリウム溶液に溶解しますが、水には溶けにくく (溶解度0.63g/L) 、エタノールにはほと んど溶けない物質です。

ヨウ化鉛の種類

ヨウ化鉛は、主に研究開発用試薬製品として販売されています。容量の種類には、5g、25g、100g、500g、1kgなどがあり、実験室で取り扱いやすい小容量での提供です。

通常、常温で取り扱い可能な試薬製品として扱われています。空気および湿度に極めて敏感であるため、メーカーによってはグローブボックス内のアルゴン雰囲気下で扱うことが推奨される場合もあります。

ヨウ化鉛のその他情報

1. ヨウ化鉛の合成

ヨウ化鉛の合成

図2. ヨウ化鉛の合成

ヨウ化鉛の製造方法は、二価の鉛の水溶液にヨウ化水素酸もしくはヨウ化カリウムを加える方法や、硝酸鉛(II)とヨウ化カリウムの反応、などが知られています。それ以外には、硫化鉛とヨウ素を反応させる方法があります。

2. ヨウ化鉛の結晶構造

ヨウ化鉛の結晶は明るい黄色の六方晶系結晶です。加熱すると赤褐色となり、冷却すると元に戻る性質があります。

結晶はヨウ化カドミウム型構造をとり、格子定数はa = 4.59Å、c = 6.86Å、Pb−I結合距離は2.79±0.01Åです。また、水にわずかに溶けますが、水溶液は無色です。

3. ヨウ化鉛の化学反応

ヨウ化鉛の化学反応

図3. ヨウ化鉛の化学反応

ヨウ化鉛は、硫化ナトリウムと反応して、硫化鉛とヨウ化ナトリウムを生じます。また、大気中で酸化されやすい物質であり、生成物は酸化鉛とヨウ素です。不燃性ではありますが、加熱により毒性・腐食性のあるガスを生じます。

4. ヨウ化鉛の有害性

ヨウ化鉛は、GHS分類において、発がん性、生殖毒性、特定標的臓器・全身毒性 (単回及び反復ばく露) が認められている物質です。そのため、各種法令による規制の対象となっている物質です。

毒物及び劇物取締法では劇物に指定されており、労働安全衛生法では、 作業環境評価基準、 名称等を表示すべき危険有害物、名称等を通知すべき危険有害物、リスクアセスメントを実施すべき危険有害物に指定されています。また、労働基準法における疾病化学物質であり、PRTR法では第1種指定化学物質に指定されている物質です。使用する場合は、法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/10101-63-0.html

ヨウ化亜鉛

ヨウ化亜鉛とは

ヨウ化亜鉛 (英: Zinc iodide) とは、化学式ZnI2であらわされる、亜鉛のヨウ化物です。

CAS登録番号は10139-47-6です。無水和物の他、二水和物が存在します。どちらも潮解性のある物質です。

ヨウ化亜鉛の使用用途

ヨウ化亜鉛の主な使用用途は、放射線の遮蔽、ヨウ化亜鉛でんぷん指示薬の原料、シモンズ・スミス反応の試薬、歯科治療での殺菌剤、電子材料などです。

ヨウ化亜鉛でんぷん指示薬は、亜硝酸、塩素などの酸化剤によって青色を呈色するため、これら酸化剤の検出試薬として用いられています。また、ヨウ化亜鉛を試薬として用いるシモンズ・スミス反応は、オレフィンをシクロプロパン化する反応であるため、シクロプロパン環を有する生理活性物質や医薬品などの合成に有用な反応を示します。

ヨウ化亜鉛の性質

ヨウ化亜鉛の基本情報

図1. ヨウ化亜鉛の基本情報

ヨウ化亜鉛の式量は319.218、融点446℃、沸点624℃ (分解) であり、常温での外観は、白色から黄褐色の結晶性粉末、または塊の物質です。

密度は4.74g/mLであり、水やエタノールに容易に溶解する性質があります。水への溶解度は、333g/100mlであり、また潮解性のある物質です。

光により変質するおそれがあり、直射日光と高温を避けて保管することが必要です。酸類とは反応するため、混触を避けるべきとされます。分解によってハロゲン化物 (ヨウ化物) や金属酸化物を生じる物質です。

ヨウ化亜鉛の種類

ヨウ化亜鉛は、主に研究開発用試薬製品や、産業用材料として販売されている物質です。試薬製品としては、25g、50g、250gなど実験室で取り扱いやすい容量の種類があります。通常、室温で保管可能な試薬製品としての提供です。

また、純粋な物質以外では、ヨウ化亜鉛でんぷん溶液としても販売されています。こちらは、100mLなどの単位での販売です。

産業用途では電子材料などとして提供されています。容量の種類は5kgなど、試薬製品よりはやや大型容量からの提供になります。

ヨウ化亜鉛のその他情報

1. ヨウ化亜鉛の合成法

ヨウ化亜鉛の合成

図2. ヨウ化亜鉛の合成

ヨウ化亜鉛の製造方法は、金属亜鉛とヨウ素を高温で反応させる方法や、亜鉛末とヨウ素の混合物に水を滴下して得られたヨウ化亜鉛水溶液を蒸発濃縮する方法などが知られています。

実験室的製法では、水中若しくはエーテル溶液加熱還流下で亜鉛とヨウ素を反応させることが一般的です。

2. ヨウ化亜鉛の化学反応

ヨウ化亜鉛は水溶液中では、Zn(H2O)62+、 [ZnI(H2O)5]+、 ZnI2(H2O)2、ZnI3(H2O)、ZnI42−などの分子種を生じることが知られています。ルイス酸として、種々の有機合成反応に用いられている物質です。

また、シモンズ・スミス反応の変法として、ジアゾメタンとヨウ化亜鉛を反応させ、系中で活性種であるICH2ZnI を発生させる方法があります。

3. シモンズ・スミス反応

シモンズ・スミス反応

図3. シモンズ・スミス反応

シモンズ・スミス反応とは、ジハロアルカンによりアルケンをシクロプロパン化する化学反応です。反応活性種は、亜鉛にジヨードメタンが酸化的付加して生成する ICH2ZnI  (カルベノイドの1種) という分子であり、2つのσ結合が協奏的に生成してシクロプロパン環が生成すると考えられています。

活性種であるICH2ZnIの主な調製方法は、下記の通りです。

  • 亜鉛–銅カップルの存在下、アルケンにエーテル系溶媒中でジヨードメタンを加える
  • 上記方法の変法で、亜鉛の代わりにEt2Zn、 Cu、 R3Al, Sm(Hg)などを用いる
  • CH2N2-ZnI2系試剤を用いる

なお、ヨウ化亜鉛は、シモンズ・スミス反応の副生成物でもあります。

4. ヨウ化亜鉛の有害性

ヨウ化亜鉛は、GHS分類において、経口摂取による急性毒性が認められており、有害性のある物質です。ヨウ化亜鉛は、毒物及び劇物取締法において、劇物に指定されており、労働安全衛生法においては、名称等を表示すべき危険物及び有害物や、名称等を通知すべき危険物及び有害物に指定されています。

引火性はないため消防法での規制はありませんが、PRTR法では第1種指定化学物質に指定されています。取り扱いの際は法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0126-0106JGHEJP.pdf

ヨウ化リチウム

ヨウ化リチウムとは

ヨウ化リチウムとは、化学式LiIであらわされる化合物であり、リチウムのヨウ化物です。

外観は、白色からうすい黄褐色の結晶、粉末、塊または粒状の物質です。ヨウ化リチウムは、GHSにおいて、いずれも非該当に分類されます。ヨウ化リチウムの法規制は、労働安全衛生法や労働基準法、PRTR法、毒物および劇物取締法において、いずれも非該当です。

製造方法として、炭酸リチウムとヨウ化水素酸との反応や炭酸リチウムの水分散スラリーにヨウ化水素ガスを吹き込む方法などが知られています。

ヨウ化リチウムの使用用途

1. 触媒

ヨウ化リチウムの使用用途には、酢酸製造用の助触媒としての利用が挙げられます。反応媒体中にリチウム化合物を導入することで、ヨウ化水素の形成を制御することが可能です。

2. 電池

ヨウ化リチウムは、リチウム電池の無機固体電解質として利用されています。電池の安全性に大きく寄与することから特に注目されている用途です。

リチウムヨウ素電池は、万が一、正極と負極がショートしても、ヨウ化リチウムが無機固体電解質として発生することで、穴がふさがれる自己修復性という性質があります。内部短絡しにくく固体電池としての安全性、信頼性が高いことから、ほぼ全てのペースメーカーに使用されています。

3. その他

吸収式冷凍機用の吸収液や色素増感太陽電池、有機ELなどの電子材料分野、中性子検出のリン光体などへの用途があります。

ヨウ化リチウムの性質

ヨウ化リチウムは、分子量133.85、CAS登録番号10377-51-2で表わされます。臭いに関するデータはありません。融点は446℃、沸点又は初留点及び沸騰範囲1190℃、密度は3.49です。

引火点および発火点、分解温度に関するデータは現状ありません。水、エタノールに溶ける性質を持っています。また、光により変質する可能性があり、潮解性があります。

通常の環境条件において安全です。危険有害な分解生成物として、ハロゲン化物、金属酸化物があります。

ヨウ化リチウムのその他情報

1. 取扱い方法

作業場所は局所排気装置を設置するか、発生源の密閉化が必要です。また、取扱場所の近くに安全シャワー、手洗い、洗眼設備を設置し、その位置を明瞭に表示します。

作業者は、防塵マスク、保護手袋、側板付き保護眼鏡、必要に応じて、ゴーグル型または全面保護眼鏡を着用し、長袖作業衣を着用します。

作業中は、飲食、喫煙を避け、取扱い後は、手、顔をよく洗い、うがいが必要です。また、作業場所から手袋などの汚染した保護具を持ち出さないよう注意します。

2. 応急措置

吸入し た場合は、新鮮な空気のある場所に移し、症状が続く 場合は、 医師に連絡します。 皮膚に付着し た場合は、直ちに石鹸と 大量の水で洗浄し、 症状が続く場合には、同様に 医師の手当が必要です。

眼に入っ た場合は、 数分間水で洗浄し、コンタクトを着用している場合は、取り外します。その後、直ちに医師の手当てを受ける必要があります。

飲み込んだ場合は、口をすすぎ、意識のない場合は、口に何も与えず、医師もしくは毒物管理センターに連絡が必要です。

3. 火災時の措置

熱分解生成物として、刺激性のある有毒なガスと蒸気を発生させる恐れがあるため、消火時は、個人用保護具を着用し、消防士は自給式呼吸器および消火装備を着用する必要があります。

消火剤は指定されていないことから、周囲の環境および現場状況に適した消火剤で消火を行います。

4. 保管方法

容器は遮光し、冷蔵庫 (2~10°C) に密閉し保管します。また容器内は、不活性ガスを封入し、高温、直射日光、湿気を避け、ガラス製の容器で保管が必要です。

5. 結晶構造

LiIの結晶構造は、ほかのハロゲン化リチウムと同様のNaCl型の構造です。ヨウ素イオンの分極が大きく、10−7S/cmというイオン導電性を発現することから、1972年にペースメーカ用電池の電解質として実用化されました。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0112-0345JGHEJP.pdf

ヨウ化メチル

ヨウ化メチルとは

ヨウ化メチルの基本情報

図1. ヨウ化メチルの基本情報

ヨウ化メチルとは、メタンの一ヨウ化物です。

ヨードメタン (英: iodomethane) とも呼ばれます。CAS番号は74-88-4、MITI番号は2-42です。

ヨウ化メチルは毒物及び劇物取締法で、「劇物」に指定されています。労働安全衛生法では、作業環境評価基準で定める管理濃度が2ppmであり、強い変異原性が認められた化学物質に指定されています。

労働基準法では疾病化学物質ですが、化学物質管理促進法 (PRTR法) 及び消防法では非該当の化合物です。

ヨウ化メチルの使用用途

ヨウ化メチルは、臭化メチルの代替として、殺センチュウを目的とした脂肪族ハロゲン化物の燻蒸剤として主に用いられます。細菌や糸状菌による病害に対する防除効果もあります。

適用作物には、果樹、野菜及び花き等があり、路地及び施設でのメロンやトマトのネコブセンチュウ、倉庫及び天幕でのクリのクリシギゾウムシやクリミガ等に適用可能です。

殺虫効果が得られる理由は、蒸気として土壌、作物又は木材内部に拡散し、塩基性要求核中心と反応すると、ピルビン酸脱水素酵素やコハク酸脱水素酵素などの必須酵素を阻害するためだと考えられています。

ヨウ化メチルの性質

ヨウ化メチルは無色〜褐色の液体で、特徴臭がある毒性が高い化合物です。融点は-66.45°C、沸点は42.43°Cです。

エーテルやアルコール等の各種有機溶剤によく溶解します。アセトン及びエタノールに対しても極めて溶けやすいです。水への溶解性は、冷水に対して1.4g/100mlであり、難溶です。

一部のヨウ化メチルは、空気中で光によって分解します。分解によって薄い紫色を帯びるため、褐色ビンにより暗所保存する必要があります。その際に安定化剤として、銅を使用可能です。

なお、ヨウ化メチルの化学式はCH3I、モル質量は141.94g/mol、20°Cでの密度は2.2789g/cm3です。ヨウ化メチルの分子は、四面体形構造を取っています。

ヨウ化メチルのその他情報

1. ヨウ化メチルの反応

ヨウ化メチルを用いた反応

図2. ヨウ化メチルを用いた反応

ヨウ化メチルは、グリニャール試薬 (英: Grignard reagent) のMeMgIの前駆体です。モンサント法で、ロジウム錯体と反応すると、ヨウ化アセチルを生じます。

ヨウ化メチルはメチル化剤として、SN2反応で良く使用されます。具体的には、カルボン酸やフェノールのメチル化などです。メチル化反応では、炭酸リチウムや炭酸カリウムのような塩基がプロトンを捕捉して、アニオンが生じ、SN2反応のための求核剤を供給します。

2. メチル化剤としてのヨウ化メチル

有機合成化学では、ヨウ化メチルはメチル化剤としてよく利用されます。ただし、等物質量の塩化メチルと比べると、ヨウ化メチルは2倍の重量が必要です。しかし、塩化メチルは気体であり、液体のヨウ化メチルは扱いやすいです。

それに加えて、メチル化の能力も、塩化メチルより優れています。一般的なヨウ化物は塩化物や臭化物よりも高価ですが、ヨウ化メチルは安価です。その一方で、ヨウ素原子は脱離して求核剤になるため、副反応の原因になりやすいです。

3. ヨウ化メチルの合成法

ヨウ化メチルの合成

図3. ヨウ化メチルの合成

メタノールと赤リンの混合物に、ヨウ素を反応させることで、ヨウ化剤の三ヨウ化リンが生じ、発熱しながらヨウ化メチルが生成します。反応混合物を蒸留して、チオ硫酸ナトリウム水溶液によってヨウ素を除去し、炭酸ナトリウム水溶液によってリン酸を除去します。乾燥したのち再度蒸留すると、ヨウ化メチルを得ることが可能です。

シリカゲルやアルミナを用いたカラムクロマトグラフィーを使用して、ヨウ化メチルを精製できます。それ以外にも、ヨウ化カリウム水溶液中に炭酸カルシウム硫酸ジメチルを加えると、高い収率でヨウ化メチルが生成します。

参考文献
http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/09069250.pdf
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/74-88-4.html

モルホリン

モルホリンとは

モルホリンの基本情報

図1. モルホリンの基本情報

モルホリン (英: morpholine) とは、分子式がC4H9NOで表される環状構造を持つ有機化合物です。

テトラヒドロ-2H-1,4-オキサジン (英: Tetrahydro-2H-1,4-oxazine) とも呼ばれます。モルホリンは皮膚に対する刺激性や引火性を持つため、取り扱いには注意が必要です。長期的なモルホリンの暴露で、腎臓や肝臓へ悪影響を与える可能性も指摘されています。

労働安全衛生法で名称等を表示・通知すべき有害物質、危険物・引火性の物に、消防法で第4類引火性液体、第二石油類水溶性液体に指定されています。

モルホリンの使用用途

モルホリンは加硫促進剤として用いられます。加硫促進剤は合成ゴムの製造過程に必須で、世界中で大量に使用されてきました。しかし、モルホリンを加硫促進剤として用いる際に発生するニトロソアミンは発がん性があり、近年ではモルホリンの使用に対する規制が強化されつつあります。それに伴い、ニトロソアミンを発生させない新たな加硫促進剤の開発が進められています。

モルホリンは様々な医薬品の骨格としても利用可能です。モルホリンを用いて製造される医薬品は、鎮痛剤、鎮静剤、局所麻酔薬などです。

モルホリンの性質

モルホリンの融点は−5°Cで、沸点は129°Cです。常温常圧でアミン臭を持った無色の液体で、吸湿性を有します。引火点は38°Cで、発火点は310°Cです。

水溶性が比較的高いです。窒素は塩基性を有し、水溶液中では水素イオンを受け取って陽イオンになり、モルホリニウムイオン (英: morpholinium ion) が生じます。モルホリニウムイオンは、pKa = 8.33です。

モルホリンの構造

モルホリンはアミンとエーテルの両方の官能基を持っています。シクロヘキサンの持つ炭素原子の中で向かい合う2つの炭素原子が、酸素原子と窒素原子によって置換された構造を有します。

モルホリンは複素環式アミンの一種です。分子量は87.12で、密度は1.007g/cm3です。

モルホリンのその他情報

1. モルホリンの合成法

モルホリンの合成

図2. モルホリンの合成

工業的にモルホリンは、主にジエタノールアミン (英: Diethanolamine) を硫酸で脱水して生産されています。ジエタノールアミンはDEAと略される場合もあり、ジオールと二級アミンの有機化合物です。

2. モルホリンの塩基性

モルホリンの反応

図3. モルホリンの反応

モルホリンの共役酸はモルホリニウムと呼ばれます。例えばモルホリンを塩酸で処理すると、モルホリン塩酸塩 (英: Morpholine Hydrochloride) を生成可能です。モルホリン塩酸塩は無色の液体で、弱いアンモニア臭または魚臭があります。モルホリンの名称は、ルートヴィヒ・クノール (英: Ludwig Knorr) がモルヒネ (英: morphine) の構造の一部だと誤ったためです。

モルホリンは一般的な二級アミンと同じ化学反応が起こります。ただしエーテル酸素が存在するため、窒素原子の電子密度が低下して、構造的に類似したピペリジン (英: piperidine) のような二級アミンよりも求核性や塩基性が低いです。そのため安定したクロラミン (英: chloramine) を形成します。

3. モルホリンの反応

有機合成でモルホリンは広く使用されています。具体的には、抗生物質のリネゾリド (英: linezolid) 、抗がん剤のゲフィチニブ (英: Gefitinib) 、鎮痛剤のデキストロモラミド (英: dextromoramide) の製造に用いられます。

一般的にモルホリンは、エナミン (英: Enamine) の生成に利用可能です。エナミンを合成中間体として、多種多様な化合物を合成できます。工業的にモルホリンは、化学反応の溶媒にも使用されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0995.html

モリブデン酸ナトリウム

モリブデン酸ナトリウムとは

モリブデン酸ナトリウムとは、モリブデンに酸素原子が結合したモリブデン酸ナトリウムの塩です。

多くの場合、モリブデン酸ナトリウム二水和物として存在しています。常温常圧で白色の粉末状固体です。水酸化ナトリウム酸化モリブデンを混合することで得られます。

モリブデン酸ナトリウムは労働安全衛生法で名称等を通知すべき有害物質に、PRTR法で第一種指定化学物質に指定されています。溶融マグネシウムと接触すると爆発するため、注意が必要です。

モリブデン酸ナトリウムの使用用途

モリブデン酸ナトリウムは、不凍液・防錆剤原料、無機顔料用発色剤、塩基性染料媒染剤、金属表面処理剤、窯業用副原料などに利用されます。

また、モリブデンは根粒菌の窒素固定や硝酸還元、またビタミンCの合成に必要な元素であることから、モリブデン酸ナトリウムは植物にモリブデンを補うための肥料としても有用です。

モリブデンが不足した土壌では、葉がよじれる症状などが見られるため、モリブデン酸ナトリウムの処方が効果的です。一方で、過剰に与えすぎると動物、特に牛に対し銅欠乏症を引き起こす可能性があるので、注意が必要です。

モリブデン酸ナトリウムの性質

1. 物理的性質

モリブデン酸ナトリウムは、モリブデン酸二ナトリウム、オルトモリブデン酸ナトリウムとも呼ばれます。

化学式はMoNa2O4で表わされ、分子量は205.916、CAS番号は7631-95-0、密度は3.78g/cm3です。白色無臭の固体で、不燃性物質であり、消防法において非危険物です。

2. 化学的性質

融点は687℃で、水への溶解度は84g/100mL (100℃) です。加熱すると分解し、有毒なヒュームを発生させます。また、ハロゲンと激しく反応し、火災や爆発の危険があり注意が必要です。水素化ホウ素ナトリウムと反応させると、モリブデンが還元され酸化数が減少します。

モリブデン酸ナトリウムのその他情報

1. 安全性

飲み込むと有毒であり、皮膚刺激性および眼刺激性、呼吸器への刺激の恐れがあります。また遺伝性疾患の危険性や発がん性、生殖細胞変異原性、生殖能又は胎児への悪影響のおそれの疑いがあります。

さらに、長期または反復曝露によって、全身毒性、精巣の障害、腎臓障害の恐れがあることから、使用時は注意が必要です。水生環境毒性や、魚毒性、蓄積性、分解性、土壌中の移動性に関する情報は現在のところありません。

2. 廃棄

廃棄においては、関連法規制ならびに地方自治体の基準に従います。都道府県知事などの許可を受けた産業廃棄物処理業者、または地方公共団体が廃棄物処理を行っている場合は委託して処理を行います。

容器は洗浄してリサイクルするか、関連法規制ならびに地方自治体の基準に従って適切な処分が必要です。

3. 取り扱い方法

換気の良い場所で取扱い、粉じんが発生する作業所においては、必ず密閉された装置、機器または局所換気装置を使用が必要です。

作業者は、保護手袋、保護眼鏡、必要に応じて保護衣、保護エプロン、保護長靴を着用し、粉じんが発生する場合、保護マスクや呼吸用保護具を着用し作業を行います。

取扱時は飲食又は喫煙を避け、取扱後は手をよく洗い、人体への接触、摂取を避けます。皮膚や眼に付着した場合は直ちに水で洗い流し、痛みなどの症状が続く場合は医師への連絡が必要です。

4. 保管

強力な酸化剤、ハロゲン類から離し、容器内部は乾燥雰囲気下にして密閉、施錠して保管を行います。容器は、破損や漏れの無い密閉可能な容器を使用します。

保管場所には危険・有害物を貯蔵し、又は取り扱うために必要な照明及び換気の設備を設け、直射日光を避けた、冷暗所での保管が必要です。

5. 製造方法

モリブデン酸ナトリウムは、水和反応によって合成された歴史があります。現在では、50°Cから70°Cに熱した水酸化ナトリウム中に酸化モリブデン (VI) を溶かし、結晶化して濾過することで収率良く合成可能です。100°Cに加熱することで無水塩を得ることができます。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7631-95-0.html

モノシラン

モノシランとは

モノシラン (Monosilane, SiH4) とは、常温常圧で特異臭を持つ無色の気体です。

ケイ素の水素化物をシランと言い、ケイ素数が1、2、3のものをそれぞれモノシラン、ジシラン、トリシランと呼びます。モノシランを指してシランという場合もあります。極性が小さいため、一般的な有機溶媒に可溶です。

モノシランは、労働安全衛生法で名称等を表示・通知すべき有害物質、リスクアセスメントを実施すべき危険有害物、危険物・可燃性のガス、変異原性が認められた既存化学物質に指定されています。

モノシランの使用用途

モノシラン (SiH4) は、高い反応性を持つ無機化合物であり、さまざまな用途で利用されています。特に半導体産業での利用が代表的です。

具体的には、CVDでシリコン膜を形成する用途で用いられます。CVDとは、大気圧中に特殊ガスを噴射して被膜を形成するコーティング技術です。噴射したガスにエネルギーを加える方法や、複数種類のガスを相互作用させる方法などがあります。モノシランを使ったCVDでは、噴射したモノシランに電気エネルギーを与える被膜形成などが行われています。

この技術はシリコンウェハーの製造や、金属酸化物半導体 (MOS) デバイスのゲート酸化膜の成長などの工程で利用されます。この用途に加えて、モノシランは研究や開発の分野でも使用されており、新しい応用が開拓されています。

 ただし、モノシランは大気に触れただけで自然発火をするため、取り扱いには注意が必要です。

モノシランの性質

モノシランは、ケイ素と水素から構成される無機化合物で、シランの最も単純な形態です。モノシランの化学式はSiH4であり、分子量は32.12g/molです。

無色、無臭で、常温・常圧では気体の状態を保ちますが、極めて低い沸点 (-112℃) と融点 (-185℃) を持っています。また、水にはほとんど溶けず、非極性の性質を示します。

空気中の酸素と反応して自然発火するほど、非常に反応性が高く、不安定です。また、水とも激しく反応し、ケイ素および水素ガスを生成します。

SiH4 + 2H2O → SiO2 + 4H2

このような反応性・可燃性の高さと爆発性から、取り扱いには十分な注意が必要です。また、吸入や皮膚接触による健康リスクも考慮する必要があります。モノシランは、半導体産業での化学気相成長法 (CVD) において、ケイ素を成膜するためのガス源として広く使用されています。また、太陽電池の製造においても、アモルファスシリコンの製造に用いられます。

モノシランの構造

モノシランは、1つのケイ素原子と4つの水素原子から構成されており、ケイ素原子を中心に、周囲を4つの水素原子が等方的に取り囲む原子配置をしています。

ケイ素原子は、sp^3混成軌道を持ち、水素原子とそれぞれσ結合で結合しています。そのため、Si-H間の結合角は、ほぼ正四面体構造に近い109.5°になります。また、その結合長は約1.48 Åです。

モノシランのとる正四面体構造により、4つのSi-H結合の電気陰性度の差がそれぞれ相殺されるため、モノシラン全体としては非極性分子となります。

モノシランのその他情報

モノシラン の製造方法

モノシランにはいくつかの製造方法が存在しますが、工業的に最も一般的な製造方法は粉砕したシリコンを用いる方法です。

この方法では、表面積を増やし反応速度を上げるためシリコンを粉末状にし、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属と混ぜ合わせます。その後、混合物に塩酸ガスを通して反応させることで、モノシランが生成されます。

Si + 4HCl + 4Na → SiH4 + 4NaCl

生成されたモノシランは、ガスとして分離・精製されます。その他、シリコンと水素を高温・高圧の条件下で直接反応させることで、モノシランを生成する方法もあります。ただし、この方法は生成効率が低く、エネルギー消費が大きいため、現在ではあまり用いられていません。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0806.html

モノエタノールアミン

モノエタノールアミンとは

モノエタノールアミンとは、アミノ基 (-NH2) とヒドロキシ基 (-OH) を分子内に1個持つ有機化合物です。

コーラミン、エチロールアミン、2-アミノエタノール、2-ヒドロキシエチルアミン、β-アミノエチルアルコール、β-オキシエチルアミンなど、様々な別名があります。

モノエタノールアミンは消防法で第4類引火性液体、第三石油類水溶性液体に指定されている他、労働安全衛生法で名称等を通知すべき有害物質に、PRTR法で第一種指定化学物質に、毒物及び劇物取締法で劇物に指定されています。

モノエタノールアミンの使用用途

モノエタノールアミンは、水・油によく溶けるため、乳化剤として広く利用されています。また、合成洗剤や金属腐食防止剤、化粧品、医薬品、農薬などにも使用可能です。さらに、モノエタノールアミンは混合ガスから、酸性ガスを吸収し、ガス洗浄する用途でも利用されています。

1. 界面活性剤

モノエタノールアミンはその構造上、親水性と親油性の両方を持つため、水と有機溶媒を均一に混合させるために乳化剤や界面活性剤として用いられます。界面活性剤の原料となっている他、石けんなどの化粧品へ乳化剤として用いられています。

2. 吸収剤

モノエタノールアミンは混合気体の中から酸性の気体を除去するのに用いられることが多いです。例えば、金属を加熱する時に発生するガスから二酸化炭素を除去する場合にモノエタノールアミン水溶液が用いられます。

モノエタノールアミンの性質

モノエタノールアミンの構造式は、HO-(CH2)2-NH2で表されます。常温常圧ではわずかにアンモニア臭を持つ無色の液体です。

アルコールとアミンの両方の性質を持っています。分子量は61.08、モノエタノールアミンの密度は1.012g/cm3、融点 は10.3°C、沸点は170°C、引火点は85℃です。20℃での粘度は24.14mPa・s、酸と反応してエステル、アミド、塩を生成します。

モノエタノールアミンのその他情報

1. 他のエタノールアミン

モノエタノールアミンは、エタノールアミンと呼ばれるエチレンオキシドアンモニアの反応生成物の1種で、他にジエタノールアミン、トリエタノールアミンがあります。これら3種類のエタノールアミンは、原料のエチレンオキシド (ethylene oxide) とアンモニアの比率の調整により、ある程度作り分けることが可能です。それぞれの特徴は以下の通りです。

ジエタノールアミン
分子内に二級アミン (-NH-) と2つのヒドロキシ基を持っています。構造式は (HO-CH2CH2)2NH、分子量は105.14です。洗剤・化粧品・ワックスなどの乳化剤や、紡績時の湿潤剤などに用いることができます。

トリエタノールアミン
分子内に三級アミン (-N=) と3つのヒドロキシ基を持っています。構造式は (HO-CH2CH2)3N、分子量は149.19です。

乳化剤や可塑剤、防錆添加剤、保湿剤などとして使用されています。縮合反応での塩基触媒として、有機合成反応に使用される他、大気中の二酸化窒素の捕集剤、分析にも利用されています。

2. モノエタノールアミンの製造方法

モノエタノールアミンは、エチレンオキシドとアンモニアの反応によって得られます。ただし、反応条件によっては、ジエタノールアミンとトリエタノールアミンも生じます。原料中のアンモニアの比率を高めることでジエタノールアミン、トリエタノールアミンの生成を抑え、モノエタノールアミンの生成率を上げることが可能です。

反応生成物を蒸留し、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンから分離して、モノエタノールアミンが得られます。

  • モノエタノールアミンの生成
    CH2CH2O + NH3 → HO-CH2CH2-NH2
  • ジエタノールアミンの生成
    2CH2CH2O + NH3 → (HO-CH2CH2)2NH
  • トリエタノールアミンの生成
    3CH2CH2O + NH3 → (HO-CH2CH2)3N

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0008.html