細穴放電加工とは
細穴放電加工 (英: small hole electric discharge machining) とは、丸棒やパイプ状の電極に電気を流し、加工物へ非常に小さな穴をあける加工のことです。
細穴放電加工は、水や油などの加工液をかけながら、丸棒やパイプ状の電極に電気を流し、回転させて加工物に近づけていきます。電極を回転させて加工することで加工速度を上げ、真円度の高い穴をあけることができます。
放電した電極を加工物に近づける際に発生する火花で、溶融や切除が行われ穴を開けます。加工液の中で火花を発生させると、金属の溶けた部分が液体で冷やされて飛び散ります。この動作を繰り返し行って完成させます。放電加工に使う電極の材料は、主に銅、グラファイト、タングステンなどです。
細穴放電加工の使用用途
細穴放電加工は、導電性のある対象物に放電する電極を近づけて行われ、導電性があればどのような素材でも加工できます。加工物に直接接触しないため、バリやカエリのような小さな出っ張りもできません。硬い素材、柔らかい素材、粘り気のある素材など様々なものに穴を開けられます。
使用用途は飛行機などで使われるタービンブレードの冷却穴加工、医療部品への穴加工などです。また、ワイヤー放電加工のスタート穴を開ける際にも使用されます。
圧力がかからず、ひずみが生じないため、薄い素材にも使用可能です。電極の種類によって、穴の形を変えることもできます。例えば、パイプ状の電極は空洞部分には電気が流れないため、芯の残った状態の穴をあける場合に使うことができます。
細穴放電加工の特徴
1. 微細穴加工ができる
直径0.02mm程度の微細な穴加工が可能です。µオーダーの高精度で加工ができます。また、深穴加工も可能です。ドリルでの深穴加工は、アスペクト比30ぐらいが限界ですが、放電加工はアスペクト比が100程度の加工に対応可能です。
2. 素材を選ばない
導電性の素材であれば、軟らかい材料でも、硬い材料でも加工できます。材質は、鋼材、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、超硬材をはじめ、タングステン、タンタル、モリブデン、チタンなどの高融点金属や、導電性のセラミックスなどの難素材も、すべて可能です。
3. 素材のひずみが少ない
放電加工は、電極からの放電により非接触で加工するため、素材に加工の圧力がかかることがありません。したがって、素材の変形やひずみが小さいことが特徴です。また、極薄素材も穴加工が可能です。
4. バリ・カエリができない
ドリルによる切削加工は、バリ・カエリを除去する工程が必要ですが、放電加工はバリ・カエリの発生が無く、後処理の必要がありません。
5. 球面・斜面の穴あけが可能
ドリル加工では、球面や斜面に穴あけるのは困難を伴いますが、放電加工では、容易に穴あけが可能で、高精度で加工できます。
細穴放電加工のその他情報
1. 細穴放電加工のデメリット
電極の作成が必要
放電加工は、加工部分に対応する専用の電極を作成する必要があります。また、加工時に放電をして熱で素材を溶かすため、加工物だけではなく、放電加工機側の電極も熱によって少しずつ溶けて消耗します。 消耗品としての電極が必要です。
加工時間が長い
放電加工は、素材を熱で溶かして加工するため、切削加工と比較して、加工時間が長くなります。
2. 電極に使用する材料
放電加工に使用する電極は、様々な材料が使用されます。
銅
コスト面から銅が最も多く使われます。銅は熱伝導に優れ、電気抵抗が小さい特徴があります。熱膨張係数が大きいのはデメリットです。
グラファイト
グラファイトは黒鉛とも呼ばれ、ダイヤモンドや石炭と同じ炭素でできています。グラファイトは耐熱性に優れ、熱膨張係数が銅の1/3程度です。電極作成の効率が高く、硬い対象物の荒加工に多く使われます。
銅タングステン
銅タングステンは、銅とタングステンを混合した素材です。高温に耐え、形状安定性が高い素材です。機械加工性に優れ、加工による消耗が少ないメリットがあり、硬い素材の穴加工に使われます。コストが銅の数十倍と高いのが難点ですが、多くの加工に使用されます。
銀タングステン
銀タングステンは、銀とタングステンを混合した材料です。特に硬い素材の加工に適していますが、銅の100倍近くの価格であり、高精度が必要な場合などに限定されます。