コーティングワイヤとは
コーティングワイヤとは、ステンレスなどの金属製の細いワイヤを撚り合わせてできたワイヤロープを、ビニールやナイロン等の樹脂でコーティング被覆したワイヤの一般総称です。
金属製のワイヤロープは細くても強度がある上に、コイル状に巻き取れるなど多くの用途で使えるロープです。しかし金属性でかつ細い金属の線を撚り合わせていることから、外周には凹凸が存在します。また錆の発生や薬品に反応してしまう場合もあります。
コーティングワイヤは金属のワイヤロープに樹脂などの皮膜を加えることによって、より利用しやすくしたものです。金属ワイヤロープならではの強度と、コーティングされる樹脂の特性を活かすことによって、幅広い分野で利用されています。
コーティングワイヤの使用用途
コーティングワイヤは電子機器の製造、自動車産業、医療機器、航空宇宙産業、産業機械などに用いられています。ワイヤロープにコーティングが施される理由は様々ですが、目的は耐環境性能の向上、電気の絶縁、表面の平滑化や着色、摩擦抵抗の低減などです。
耐環境性能の向上では、酸やアルカリ、海水などによる金属の腐食を防ぐことができます。自動車や医療、航空産業の機械においては、絶縁性の確保としてコーティングが役割を果たします。
私たちの身近な生活においての一例は、スポーツ用自転車の変速機を動かすシフトワイヤと呼ばれるものです。ワイヤを利用した自転車の変速機では、変速レバーを操作をワイヤで引っ張りデュレーラーと呼ばれる変速機を動かします。ワイヤは同じくワイヤロープで作られたチューブの中で動きますが、ワイヤ同士の摩擦が発生します。そこでナイロンのコーティングを施すことによって、変速操作時の抵抗力を低減させることが可能です。他にはインテリア用に用いられているものもあります。
コーティングワイヤの原理
コーティングワイヤは、金属製のワイヤロープに合成樹脂などの皮膜を染み込ませたものです。被覆工程は溶かした樹脂を押出機と呼ばれる装置の中で、ワイヤを巻き取りながら樹脂を塗布し、その後水槽を通して冷却します。
また樹脂の被覆にはストランドというある程度の本数の金属ワイヤを撚り合わせた状態で被覆した後に、複数の被覆されたストランドを撚り合わせたものと、ストランドを撚り合わせてから最後に被覆したものがあります。
コーティングワイヤのその他情報
樹脂の種類と特性
コーティングワイヤは目的に応じてコーティングする樹脂を選ぶことが大切です。
1. 軟質塩化ビニル (PVC)
軟質塩化ビニルは可塑剤によって柔らかさが確保された樹脂です。透明性が高いため着色性にも優れています。耐環境や耐薬品性にも優れ、高い電気絶縁性も誇ります。
2. ポリエチレン (PE)
ポリエチレンは電気絶縁性、耐薬品性、耐水性に優れた樹脂です。コーティングワイヤでは電線や光ファイバーなどを吊り下げて保持するためのテンションメンバーや、アウターケーシングの外層やライナー、インナーケーブルの被覆材としても用いられます。
3. ポリプロピレン (PP)
ポリプロピレンは私たちの日用品に多く使われるプラスチックです。コーティングワイヤの被覆としては、プッシュプルケーブルと呼ばれる、引っ張りと押しの両方で使われるケーブルを覆うアウターケーシングの外層などがあります。
4. ポリアラミド (PA)
ポリアラミドは樹脂の中でも機能が優れたエンジニアリングプラスチックの一つで、特に機械的性質に優れた樹脂です。一般的にはナイロンという名前で広く知られています。ポリアラミドは耐摩耗性、対疲労性、自己潤滑性に加えて耐環境性能にも優れていることから、自動車部品や産業用機械の用途にも用いられます。
5. フッ素樹脂 (ETFE、FEP、PFA)
フッ素樹脂は特に耐熱性が高い樹脂として知られています。他にも耐化学薬品性や耐候性があり電気特性が良好、摩擦、摩耗特性にも優れているのが特徴です。フッ素樹脂の種類は主に耐最高使用温度に応じて選択されますが、PFAなら200℃以上でも使えます。