海水ろ過装置とは
海水ろ過装置とは、海水中に含まれる塩化ナトリウムをろ過によって脱塩処理し、淡水化する装置です。
古くから海水の淡水化は行われてきましたが、海水を蒸発させて処理することが多く、莫大なエネルギーとコストを必要としていました。しかし、海水ろ過装置が開発されたことにより、状況が一変します。
海水ろ過装置では、浸透圧の原理を応用したシステムで逆浸透膜を使用して脱塩処理を行います。中東やアフリカなど水資源に乏しい国ではすでに導入がされている状況です。
海水ろ過装置の使用用途
海水ろ過装置の主な用途は、海水の淡水化です。水資源に乏しい国や地域で導入されています。日本は水資源が豊富なため導入例はほとんどありません。
しかし、日本企業の技術は世界トップレベルであり、海外で多くの導入実績を持ちます。特に乾燥地帯では深刻な水不足に悩まされており、生活用水の確保は緊急課題となっています。また、人口増加による水資源の不足が懸念されており、今後は乾燥地帯だけでなく世界各国で需要が拡大していくと予想されています。
海水ろ過装置の原理
海水は世界中で豊富に存在しますが、生活用水として使用することはできません。その要因は塩分、すなわち塩化ナトリウムが含まれているからです。海水ろ過装置には逆浸透膜が備えられており、浸透圧を応用したろ過によって塩化ナトリウムを除去します。
濃度の異なる溶液を浸透膜で仕切ると、濃度を一定にしようと濃度の低い溶液から高い溶液に水が移動していきます。この際に生じる圧力が浸透圧であり、この現象と逆の手順を行うのが海水ろ過装置です。濃度の高い溶液、すなわち海水を逆浸透膜で仕切り浸透圧以上の圧力を加えると、塩化ナトリウムは膜に阻止され、純水のみが透過していきます。これにより海水が淡水化され、生活用水として利用できるようになります。
海水ろ過装置のその他情報
1. 船舶における海水ろ過装置 (淡水化) の重要性
船舶にたくさんの淡水を積み込むことは、重量の観点から実施できない場合が多いです。その際に、海水ろ過装置が活躍します。この装置があるだけで、必要なときに必要な分だけの淡水を精製することができるようになります。
例えば、小型の海水ろ過装置 (幅 1,200mm × 奥行き600mm × 高さ600mm、重量約120kg程度の規模) で、1時間に250リットルの海水を淡水へとろ過することが可能です。ろ過された淡水は、日本の飲料水としての基準をクリアしているため、安心して飲むことができます。この装置を船舶に積載しておくことで、周りに海水しかないような環境でも、生活水や飲料水の心配をせずに航海が行えます。
従来は、航海する際に大量の水を積載したり、途中の港で水を仕入れたりする必要がありました。しかし、船舶に積載できるような小型の海水ろ過装置が開発されたことによってその必要がなくなり、より効率的な航海が可能となりました。
2. 水槽内の海水ろ過装置
海水を海水としてろ過する場合もあります。その具体例として最も身近なものは、アクアリウムです。アクアリウムで用いる水槽内での海水ろ過の具体的な仕組み・流れは以下の通りです。
目視できるくらいのゴミを取り除く
物理ろ過 魚のフンやエサの食べ残し、海水中に漂う目視できるくらいのゴミを取り除くのが目的の工程です。網やスポンジ、ウール素材のマットなどを用いてろ過するのが一般的です。
目視できないゴミを取り除く
化学ろ過 活性炭やアルミナ、海養石などの資材を用いて海水中の目に見えないゴミを取り除きます。これら資材にゴミを吸着させたり、イオン交換を行ったりすることで水中から取り除きます。
ゴミの吸着やイオン交換によって資材は、徐々に劣化していきます。そのため、資材は定期的に交換する必要があります。
ろ過を行う
生物ろ過 バクテリアなどの微生物の働きによって海水中の有機・有害物質を分解してろ過を行います。上記2つの方法ではろ過できないような、有機物質を取り除くことができるため、アクアリウムでは最も重要なろ過です。
海水ろ過装置のその他情報
海水ろ過の課題
海水ろ過の課題は残されており、日々改善が進められています。その中の1つが排水問題です。逆浸透膜でのろ過後に残るのは、塩分と銅の濃度が高いブラインと呼ばれている残液です。基本的には海中へ放流されますが、環境への影響が懸念されています。
海中の塩分濃度の上昇は溶存酸素の低下を招き、海洋生物が適用できない環境が海中に生まれる可能性があるためです。国によっては放流前に希釈処理で塩分濃度を低下させることを推奨しています。希釈処理にもコストが発生するため、よりリサイクルを意識した有効利用が求められます。
現在は、ブラインを水酸化ナトリウムへ再生する研究が進められており、実用化に向け試験が行われている状況です。その他、脱塩処理前に海水を薄めてから使用するろ過装置も登場しています。