サイクロトロン

サイクロトロンとは

サイクロトロン

サイクロトロンとは、荷電粒子 (負電荷の電子や正電荷の陽子・イオンなど) の加速器の1つで、荷電粒子の旋回を繰り返して高速化させる装置です。

その中でも、アルファベットのDの形の電極 (ディー電極) 2つの直線部を貼り合わせた形の円盤構造を持ち、ディー電極の間の隙間に高速で切り替わる電位差をかけることで粒子を加速するタイプを指します。

サイクロトロンの使用用途

サイクロトロンは、高速化した荷電粒子をターゲットに衝突させることで起こる作用 (天然に存在しない同位体の製造や半導体の改質など) を利用して、いろいろな分野で活用されています。使用例の1つが、PET (英: Positron Emission Tomography, ポジトロン放出断層撮影法) に用いる短寿命の放射性標識化合物の製造です。

PETに用いられる放射性標識化合物は寿命が短いため、使用に合わせてサイクロトロンで製造する必要があります。最近ではPETのために、医療施設に小型のサイクロトロンを備えることが多くなっています。

また、半導体照射による半導体の高性能化も用途として挙げられます。半導体に荷電粒子を照射し、改質することによって電気特性を向上させることが可能です。

そのほか、SPECT (Single Photon Emission Computed Tomography) に用いる放射性同位元素の製造、研究用放射性同位元素の製造、放射性医薬品の製造、核物理学研究のためにも使われています。

サイクロトロンの原理

サイクロトロンは、荷電粒子が磁場の中を通過する際に受ける力 (ローレンツ力) を利用しています。サイクロトロンの基幹は、アルファベットのDの形のディー電極を2つ組み合わせた円盤の形状をしている部分です。Dと裏返しのDの縦棒同士を貼り合わせることで、円形になるイメージです。

ディー電極は、電磁石で作られた磁場の中に置かれています。これは、ローレンツ力を利用してイオンを運動させるためです。サイクロトロンの磁場に荷電粒子を導入すると、粒子はローレンツ力により曲がり、円軌道の運動を行います。このときに、ディー電極2つで形成された円盤の形に沿った円軌道で周回するようになります。

円盤を半周すると別のディー電極に到達しますが、このとき電極間に電位差を設けて粒子を加速します。粒子が半周まわり、元の電極に戻るときに電位差を逆転するとまた加速させることが可能です。この繰り返しで、荷電粒子を加速させていきます。

荷電粒子の速度が上がると旋回半径が増していき、円盤の周縁部から粒子を取り出すことができます。

サイクロトロンのその他情報

1. 加速の限界

荷電粒子の速度が光速に近づくにつれ、相対性効果によって質量が増大し曲がりにくくなってきます。そのため、当初計算よりも半径が増大し、当初設計通りの加速が出来なくなってくるのです。そのため、サイクロトロンを用いた加速には限界があります。

そこで考えられたのが、シンクロサイクロトロンやシンクロトロンです。シンクロサイクロトロンは、イオンの速度に応じて電場の切り替えを遅くすることで、高速までの加速をできるようにしたサイクロトロンです。

一方、シンクロトロンは、サイクロトロンとは異なる考え方で構築されています。徐々に軌道半径を増大させるサイクロトロンと異なり、シンクロトロンでは常に一定の円形軌道を通るようにしながら、磁場の強さと電場切り替えの周期を変えて加速させます。

2. サイクロトロンの長所

加速に限界があるサイクロトロンですが、シンクロトロンにはない長所は、粒子を次々に注ぎ足しながら連続して加速できることです。

また、大強度の粒子ビームを得ることができます。これらの特長は、同位体の製造や半導体の改質には適したものであり、特長が用途に上手く活用されています。

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