シンクロトロンとは
シンクロトロンとは、荷電粒子 (負電荷の電子や正電荷の陽子・正イオン) のスピードを加速させる高周波電場と進路を偏向する磁場をコントロールして、旋回を一定の円周上に維持できるようにした加速器のことです。
サイクロトロンが旋回半径が増大していくのに対し、シンクロトロンは一定に保つようにすることで、最終的に取り出される荷電粒子の運動エネルギーを制御できます。これにより、相対性理論の効果にともなう不具合も解消しました。
シンクロトロンの使用用途
シンクロトロンは、極めて高いエネルギーの粒子線が得られるため、物理学実験に使用されることが多いです。具体的には、高エネルギー衝突実験や放射光を用いる実験などが挙げられます。
また、放射光として得られる高輝度X線は、蛍光X線分析やX線回折による結晶構造解析に応用可能で、通常のX線では得られない情報を得られます。そのため、素材の微細な欠点を観察する、試料中の同位元素を識別する、タンパク質の詳細な立体構造を調べるなど、従来できなかった化学・生物学研究に貢献しています。
そのほか、粒子線 (重粒子線・陽子線) 治療でも使用されることがあります。粒子線とは、現在がん治療で行われている放射線治療の1つです。粒子線治療は、従来行われていたX線 (治療現場では電磁波とみなされています) を使った放射線治療と比較して、治療上のメリットがあるため注目されています。
シンクロトロンの原理
電磁石をリング状に並べて荷電粒子の通り道とし、軌道の途中に高周波電圧をかける箇所 (電場) を設けています。電磁石は、荷電粒子を円形軌道に曲げるのが役割です。磁力を用い、ローレンツ力で荷電粒子の軌道を曲げています。粒子の速度に応じて磁場の強さを調節することで、一定の軌道を維持します。
高周波電圧をかける箇所は、ちょうどよい周波の高周波電圧を空間にかけることで、荷電粒子が静電力により引っ張られ加速できるようにします。すなわち、荷電粒子が来た時に前方に反対電荷があれば、粒子は前方に引っ張られるということです。
通り過ぎたら電圧を逆転することで、通過した荷電粒子を電荷の反発で後押しするようにします。これを周期的に行うことで粒子を加速させられ、電圧の切り替え周期を調節することで、狙った速度に制御することも可能です。一定の半径の円形軌道上で荷電粒子を加速し、最後に円周の接線に飛び出させることで取り出します。
シンクロトロンのその他情報
重粒子線治療の特徴
シンクロトロンの重要な活用分野の1つに重粒子線治療があり、これまでのがん治療では得られなかったメリットが知られています。重粒子線治療は、重粒子という電子や陽子よりも質量の大きな粒子を照射する治療法です。現在実用化されている重粒子線治療は、すべて炭素イオンを用いるものです。
粒子線の特長は、粒子の性質を強く持つため、体内で粒子が止まることにあります (波動の性質を強く持つX線と対照的で ) 。粒子は止まるときに周囲に残存運動エネルギーを与えるため、適切に粒子線エネルギーを制御すれば狙った深さのがんを集中的に叩くことができ、からだの深部のがんに効果的です。
がんに対する放射線治療にはX線が使われてきましたが、X線は波動の性質が強いために生体を透過していきます。そこで、X線をがん治療に用いる場合は、複数方向から照射することでがんを集中的に攻撃する方法が工夫されており、放射線の性質が上手く利用されています。
なお、X線より粒子線の方が生体に与える影響が大きいため、がん細胞に対する殺傷能力自体も高いです。粒子線の中では粒子が重いほど殺傷能力が高く、陽子線より重粒子線の方が強力です。重粒子線治療では、これまでの放射線治療では難しかった肉腫などのがんに効果があることなど優れた点が確認され、今後の治療が期待されています。