DNAシーケンサとは
DNAシーケンサとは、生物の遺伝情報を構成するDNA (デオキシリボ核酸) の塩基配列を解析する装置または技術のことです。
DNAはアデニン (A) 、チミン (T) 、グアニン (G) 、シトシン (C) という4種類の塩基から成り、その配列が生物の遺伝的特徴や機能を規定します。DNAシーケンサは、この塩基配列を高精度かつ効率的に読み取るために用いられます。
従来の「サンガー法」は1本のDNA分子を対象としたシーケンシング法で、優れた正確性を持ちますが処理速度が限られていました。一方、次世代シーケンサ (NGS: Next-Generation Sequencer) は、大量のDNA断片を並列処理し短時間で膨大なデータを取得可能とした技術革新です。さらに近年では、シングルモレキュールリアルタイム (SMRT) やナノポア技術など第3世代シーケンサが登場し、長鎖のDNA配列をより直接的に読み取る手法が発展しています。DNAシーケンサの進化は、ゲノム解析、医療診断、進化研究、個別化医療など多様な分野において科学の進展を促しています。
DNAシーケンサの使用用途
DNAシーケンサは、遺伝情報を高精度かつ迅速に解析できる装置として多様な分野で活用されています。以下にその主な使用用途を幾つかのカテゴリーに分類して記載します。
1. 医療・疾患研究
DNAシーケンサは疾患の原因となる遺伝的変異の特定や診断に用いられます。がんでは腫瘍細胞のゲノムを解析することでドライバー変異や薬剤耐性の原因を特定し、治療方針を個別化する「がんゲノム医療」に応用されています。また遺伝性疾患の診断や、新生児スクリーニング、感染症の病原体同定にも役立っています。
2. 基礎研究
ゲノム解析は生物学の基礎研究において不可欠なツールとなっています。種の進化や系統解析におけるゲノム比較、遺伝子機能の解析、エピジェネティクス研究など多くの分野でDNAシーケンサが利用されています。また非モデル生物の全ゲノムシーケンシングや遺伝子発現解析 (RNAシーケンシング) を通じて、生物学的知見が拡大しています。
3. 農業・環境
DNAシーケンサは作物や家畜の育種においても重要な役割を果たしています。有用な遺伝子マーカーの特定や品種改良の効率化、病害抵抗性やストレス耐性の向上に活用されています。また環境分野では、微生物叢 (マイクロバイオーム) の解析を通じて生態系の理解や環境修復の研究が進められています。
4. 法医学・個人認証
DNAシーケンサは法医学における犯罪捜査や身元確認に利用されます。微量のDNAから個人を特定する技術は、犯罪現場での証拠解析や災害時の身元確認に欠かせないものとなっています。また消費者向けサービスとしての遺伝子検査も普及しており、祖先解析や個人の健康リスク評価が行われています。
5. 感染症対策
パンデミックや新興感染症への対応において、DNAシーケンサは病原体のゲノム解析に使用されます。これにより病原体の特定、進化の追跡、ワクチンや治療薬の開発が迅速に行われています。特にCOVID-19ではウイルスの変異株の監視に重要な役割を果たしました。
参考文献
https://azscience.jp/column/category/top06-sub09/
https://foodmicrob.com/dna-sequencers-princiiple/