薄膜コーティング

薄膜コーティングとは

薄膜コーティングとは、ベースとなる基材・基板の上に薄膜層を作り、様々な機能を付与する技術・サービスです。

一般的には、10μm以下の膜が薄膜と呼ばれますが、100μmでも薄膜と呼ぶ場合もあり、厳密な定義はありません。薄膜は、基材表面の保護、意匠性の付与、反射防止、絶縁など様々な機能性向上のために使用されます。CPU、HDDの記録面、液晶ディスプレイや、レンズ、電子部品の電極、工具の耐久性向上など、さまざまな製品に使用されているテクノロジーです。

薄膜コーティングの使用用途

1. 概要

薄膜コーティングは、主に下記のような用途で使用されています。

  • 物体の表面の強化や保護
  • 光学的性質の付与 (反射防止膜・反射膜・蛍光・光学フィルタ)
  • 低摩擦化
  • 導電性付与・絶縁性付与
  • 意匠性の付与
  • 撥水・撥油

薄膜コーティングによって付与されるこれらの表面効果は、様々な産業分野で活用されています。

2. 電子工業

電子工業産業において、薄膜コーティング技術は、電子機器・ディスプレイ機器の高性能化、小型・薄型化、耐久性向上などに貢献しています。成膜される薄膜の種類は、絶縁膜、保護膜、磁性膜などです。主な用途には下記のようなものがあります。

  • 集積回路・半導体素子の電極や配線
  • 表示素子の透明導電膜、絶縁膜、保護膜、蛍光体
  • 磁気素子の軟磁性膜、硬磁性膜、ギャップ材、絶縁膜
  • オプトエレクトロニクス素子

2. エネルギー関連分野

薄膜コーティングはエネルギー分野においても活用されている技術です。特に、太陽電池にアモルファスシリコン膜が使用されています。アモルファスシリコン膜とは、シランガスという物質をプラズマ化学蒸着して得られる薄膜です。エネルギー分野における主な用途には下記のようなものがあります。

  • 太陽電池用薄膜
  • 透明導電膜
  • 電極
  • 反射防止膜
  • 光熱変換素子用薄膜 (選択吸収膜、反射膜、選択透過膜など)

3. 工業

各種工業製品では、ガラス表面などの反射膜、反射防止膜、保護膜などに薄膜コーティングが施されます。これらの薄膜コーティングが施されたガラスは、

  • 電車・鉄道車両の窓
  • 鉄道の信号機・表示灯
  • 航空機の計器類・ディスプレイ
  • 車載ディスプレイ機器

などに使用されます。また、各種切削工具や金型の表面に施される薄膜コーティングは、耐摩耗、耐食、耐熱、潤滑などの機能を付与することなどが目的です。その他、レーザー加工機、医療機器、分析装置、プロジェクターなどにも薄膜コーティングは使用されます。

薄膜コーティングの原理

1. 概要

薄膜を形成する方法で一般的なものは、真空成膜です。
真空成膜では、真空中で膜の材料を基板の表面に堆積させます。真空成膜には、物理蒸着 (PVD) 、化学気相成長 (CVD) などがあります。

真空成膜以外には、メッキ、溶射、塗装、スプレー法なども薄膜コーティングの一種として含まれることがあります。ただし、これらは真空成膜よりも膜が厚くなることが多いので、塗膜や皮膜と呼ばれることのほうが一般的には多いです。

2. PVD

PVD (英: Physical Vapor Deposition) とは、真空容器内で発生させた原料の蒸気を工具や部品などの成膜対象物に付着させることで薄膜を形成する方法です。最も一般的な PVD法にはアーク放電とスパッタリングがあります。処理温度は 70 ~ 600℃程度で、原料や条件を変えることで様々な薄膜を作製することが可能です。

構造は単層膜、多層膜、グラデーションをつけたもの
など多種にわたり、TiN、AlTiN、TiAlN、CrNなどがあります。膜の種類や構造,組成などを変えることで、膜の硬さや弾性、密着性などの特性を変化させることが可能です。

3. CVD

CVD (英: Chemical Vapor Deposition) は、原料の蒸気を気相中もしくは成膜対象物の表面において分解及び化学反応させ,薄膜をコーティングする方法です。主には熱CVDとプラズマCVDがあります。

熱CVDとは減圧下において原料ガスを熱のエネルギーによって分解・反応させる方法です。700~1050℃の処理温度で、TiC、TiCN、TiN、Al2O3 (アルミナ) などの単層膜や多層膜を形成します。ガスが触れるすべての表面にコーティングが可能であるため、複雑な形状や内側への均一なコーティングも可能です。

プラズマ CVDとは、原料ガスをプラズマ放電のエネルギーによって分解・反応させる方法です。成膜温度は 200℃程度と、熱CVDに比べて低くなります。プラズマ CVD で形成される DLC 膜 (Diamond-Like Carbon) 膜はアモルファス構造をしており、これによって潤滑不足の条件でも硬さや耐摩耗
性、低摩擦特性に優れているという特徴があります。

薄膜コーティングの種類

薄膜コーティングの成膜材料には、金属 (Zn、Au、Al、In、Ag、Cr、Tiなど) 、誘電体 (Al2O3、Nb2O5、SiO2、TiO2) など様々な種類が使用されます。平面、曲面、ドーム、フィルムロール、円筒、ワイヤーや繊維、特殊立体物などの様々な形状に適用可能です。

機能別の種類では、主に下記のようなものがあります。

  • 反射防止膜: 光の反射を抑えて透過率を向上させる薄膜
  • フィルタ膜: 光を弱めたり、特定の波長範囲の光だけを透過させたりする目的で使われる光学薄膜
  • 透明導電膜: 導電性と可視光を透過する性質の両方を持った材料で作られた薄膜
  • 耐摩耗性膜: 耐摩耗性を向上させる機能を持ち、工作機械やドリルビットなど、さまざまな工具・金型の表面に施される薄膜
  • 固体潤滑膜: 潤滑油やグリースなどを使用できない部品や機械などに使用される薄膜