化学品の受託製造とは
化学品の受託製造とは、主に低分子化合物の有機合成を中心として、顧客の希望する化合物を合成、提供するサービスです。
新規化合物の合成や、誘導体化などの反応開発、および、ラボスケールの合成をプロセススケールへスケールアップするなど、様々なニーズに応えることができます。また、ばあいによっては、化合物提案・合成経路提案などの研究開発提案を依頼することが可能な場合です。反応開発化合物持ち込みによる分析のみの受託も可能な場合もあります。
顧客依頼での製造となるため、製造に当たって、化合物・合成方法・分子設計をはじめとする一切の情報は機密事項として秘密保持により守られます。
化学品の受託製造の使用用途
1. 概要
化学品の受託製造は、医薬、電子・半導体、樹脂、機能性材料、溶剤など、化合物を扱う様々な分野で活用されています。低分子化合物だけでなく、高分子ポリマーの製造を委託することが可能な企業もあります。化学品の製造委託が行われる場合の主なニーズとしては、
- 自社生産のための生産設備や、人員が不足しているため外部委託を行いたい
- 化学品開発や既製品改良を専門の化成品メーカーに依頼したい
- 生産品のロット数やコスト面で不満があるため、合成方法の改良を依頼したい
- ラボスケールの合成方法を改良してプロセススケールへスケールアップしたい
- 危険物の取り扱い・充填などを外部委託することでリスク分散を行いたい
などのニーズがあります。
2. 製造物の例
化学品の受託製造で製造される主な物質として、下記のようなものが挙げられます。
- 各種合成中間体 (医薬、農薬、香料、写真薬など)
- 歯科用材料
- 半導体、液晶パネル、電子部品などの材料
- 機能性樹脂、感光性樹脂、添加剤
- 洗浄剤、剥離液、エッチング液、表面処理剤
- 探傷剤 (染色浸透探傷剤、蛍光浸透探傷剤)
- 漏洩検査剤、発泡漏れ検査剤
- 加工油、切削油、研削油、プレス油、熱処理油
- 防錆剤
- 離型剤
- 染料、顔料、プライマー
水系、炭化水素系、アルコール系、ハロゲン系 (塩素、フッ素、臭素) などを問わず、幅広い化合物が合成対象として取り扱われています。
化学品の受託製造の原理
1. 委託フロー
化学品の受託製造では、一般的に下記のようなフローで受託製造が行われます。
- 顧客からの相談
- 合成可否の机上検討及び秘密保持契約 (NDA ) の締結
- 見積もり提示
- ラボトレース試作試験
- 実機試作
- 受託生産
- 納品
製造にあたって、分子構造や合成方法などほぼすべての情報が機密事項となるため、秘密保持契約は早い段階での締結です。また、見積もりについては、正式見積もりが実機試作後になる場合もあります。ラボトレース試作試験では、実機での製造を念頭に置いて、工程管理手法の確立、実機プロセス・設備の提案などが行われます。
2. 製造の流れ・装置
化学品の受託製造における、具体的な製造の流れは下記の通りです。
- 製造準備 (必要に応じて原料の溶解・乾燥)
- 撹拌機での合成 (混合・撹拌)
- 充填 (丸缶、石油缶、ドラム、その他)
- 製品品質の分析
プロセススケールの合成となるため、合成に先立っては、温水槽、温蔵庫などを用いながら、加温して原料を必要に応じて溶解させます。窒素発生装置や、イオン交換水発生装置も適宜使用されます。撹拌機は通常、様々な大きさが用意されており、様々なバッチサイズに対応可能です。分析にあたって用いられる主な分析装置は下記の通りです。
- ガスクロマトグラフ (GC) ・ガスクロマトグラフ質量分析計 (GC-MS)
- イオンクロマトグラフ
- 高速液体クロマトグラフ (HPLC) ・液体クロマトグラフ質量分析計 (LC-MS)
- 核磁気共鳴装置 (NMR)
- X線回析装置
- キャピラリー電気泳動
- 電位差自動滴定装置
- 紫外可視分光光度計 (UV-Vis)
- カールフッシャー水分計
化学品の受託製造の種類
化学品の受託製造は、様々な企業より提供されているサービスです。基本的にどの企業でも酸化還元などの一般的な反応に対応していますが、企業によって得意としている反応・分野は少しずつ異なります。例えば、変性シリコーン合成技術やスルホン化、エステル化、高圧反応などを特に得意としている企業や、低分子よりも高分子ポリマーなどを得意としている企業などがあります。
企業によっては、顧客から提示された合成ルートに自社経験を踏まえた条件を提案し、収率アップ・生産時間短縮・コストダウンを図るなど研究開発的なサービスの提供も可能です。アウトソーシングやリスク分散のニーズに応えて、危険物・劇物などの充填作業を行っている場合もあります。製造規模はメーカーによって異なり、小〜中規模を中心としているメーカーや、大規模スケールを得意とするメーカーなど、様々です。目的・用途・分野に合わせて吟味し、選定することが必要です。