水銀分析とは
水銀分析は、環境試料や人体試料などから水銀の含有量もしくは蓄積量を検出する方法です。水銀分析が行われるようになった経緯は、以下の通りです。
1956年に国内で水俣病の発生が確認され、大量の水銀が工場から排出されていたことが判明しました。水銀は、許容量以上を摂取すると、人体にとって有害となります。通常は、体内に蓄積することはありません。
このことから水銀は、2003年の第22回国際連合環境計画(UNEP)管理理事会で報告されたGlobal Mercury Assessmentにより、国際的に水銀の排出抑制を行うべきだという決議が採択されました。
日本がホストを務めた国連環境計画の外交会議では「水銀に関する水俣条約:Minamata Convention On Mercury」が約140か国で採択され、EUを含む92か国が条約への署名を行っています。
また、日本国内では、水銀による環境汚染の防止などに関する水銀汚染防止法も施行されています。
水銀分析の使用用途
水銀分析は、日本からEU圏内へ電子機器を輸出する際に活用されています。EUでは、RoHS指令によって有害物質の制限が取り決められており、カドミウム(Cd)や水銀(Hg)などが規制の対象となっています。
水銀は、かつて多くの産業で取り扱われていました。しかし、現在は、許可を得た製品以外での使用は禁止されており、部品としての使用も制限されています。水俣条約の採択もあり、世界中で水銀対策が主導的に行われています。
水銀の世界と日本における需要は、下記の通りです。
世界の水銀需要は、2008年のUNEPから公表された「Global Atmospheric Mercury Assessment」によると、小規模金採掘が21%、塩ビモノマー製造工程が20%、塩素アルカリ工業が13%、電池が10%、歯科用アマルガムが10%、計測機器が9%、照明が4%、電気機器が5%、残りの内訳は、そのほかとなっています。
日本における水銀需要は、2013年度に更新された「我が国におけるマテリアルフロー」によると、照明が37%、医療用の計測機器が21%、無機薬品が12.9%、ボタン形電池が11%、工業用の計測機器・スイッチリレーが10.3%、医薬品が0.6%、歯科用アマルガムが0.2%です。
水銀分析の原理
水銀分析において信頼性のある分析データを得るためには、適切な試料採取や前処理、試料に合わせた測定方法、試験溶液の調整法が必要です。そして、適切な分析を行うには、実験室の清掃や器具・用具の洗浄など、外部からの汚染の防止に努めなければなりません。
また、水銀の影響評価や生体内・環境中における動態を解明するためには、総水銀やメチル水銀を無機水銀と差別化して定量分析を行わなければなりません。これらの分析法は、2004年3月に環境省が「水銀分析マニュアル」として公表しています。なお、魚介類や大気などの水銀分析は、公定法として「魚介類の水銀の暫定的規制値について」および「有害大気汚染物質測定方法マニュアル」で取り決められています。
環境試料や人体試料などの分析値を品質的に管理または保証するための標準試料がいくつかの機関から市販されています。例としてNISTやIAEA、NRCC、NIESなどがあります。
サンプリングで必要となる環境試料や人体試料には、以下のような試料があります。
環境試料では、生物試料(魚介類)や水試料、底質・土壌試料、植物試料、大気・空気試料があります。
人体試料では、毛髪試料や血液試料、尿試料、臍帯試料があります。