PVAフィルム

監修:株式会社アイセロ

PVAフィルムとは

PVAフィルムとは、ポリビニルアルコール (英:Polyvinyl Alcohol) という合成樹脂から作られる薄膜です。

PVAは1924年にドイツのヘルマン博士らによって発見された水溶性でありながら結晶性であるユニークな熱可塑性樹脂であり、PVA水溶液を乾かすことでフィルム状の膜が得られます。

一般的には透明なフィルムであり、添加剤処方により柔軟性をコントロールすることができます。また、水に溶けやすい一方で、様々な有機溶媒に対して耐性が高いという性質を持っています。フィルムにした場合、透明性および光沢性が高く、また気体等のバリア性の高い材料です。これらの特性から、様々な産業や用途に使用されます。

PVAフィルムは気体の透過性が低く、食品などの製品を酸化や汚染から保護するのに効果的です。生分解性もあるため、環境への負荷を低減するために有用です。また、透明なフィルムのため、製品の見た目を損なわずに包装することができます。PVAフィルムは、これらの特徴を利用して繊維製品の包装材としても使用されてきました。

PVAフィルムの使用用途

PVAフィルムは様々な用途で使用されます。以下はその一例です。

1. 洗剤

PVAフィルムは水に溶けやすい一方で、薬品への耐性が高い性質を持っているため、家庭用の食器洗浄機やランドリー用洗剤、工業用洗浄剤などの一回性の包装に適しています。例えばランドリー用洗剤の場合、製品を包装したまま、直接洗剤に手を触れることなく計量レスで洗濯機に入れることができます。製品を使用した後、PVAフィルムは水に溶けるため包装材の廃棄物量を減らすことが可能です。

2. 農薬・肥料

農業ではPVAフィルムを農薬や肥料の包装に使用します。高いバリア性を持つため、農薬や肥料の品質を保ちながら長期間保存することが可能です。また、PVAフィルムは生分解性があり、土壌中に分解されるため、環境への影響を最小限に抑えることができます。

3. プラスチック表面加飾

プラスチック筐体への印刷柄の転写用にPVAフィルムが使用されています。グラビア印刷等でデザイン柄を印刷したPVAフィルムを水面に浮かべ、膨潤した後にプラスチック筐体を押し当てることでPVAフィルムと共にデザイン柄が三次元状の筐体に付きまわり転写が可能です。雑貨や家電、自動車内装等で利用されています。

4. 電子材料

PVAフィルムは透明度が高く、g線(436nm)、i線(365nm)の波長における光透過性も高い材料であり、電子材料や光学材料分野への応用も可能です。ヨウ素をドーピングした延伸PVAフィルムは液晶パネルの偏光フィルムとして利用されています。

5. 医薬品

医薬品や医療機器の包装にもPVAフィルムが利用されます。高いバリア性が保証されるため、製品の品質や安全性を維持しつつ、外部からの汚染を防ぐことが可能です。また、PVAフィルムは非毒性であり、医療品に対して安全であるという特性も重要です。医薬品には医薬用グレードのPVA樹脂が販売されております。

6. 食品

PVAフィルムは食品包装業界で広く使用されています。バリア性能と透明性が高いことから、食品の鮮度を保ちながら消費者に製品を提供することができます。さらに、生分解性のPVAフィルムを使用することで、環境への負荷を低減することが可能です。

PVAフィルムの特徴

PVAは、酢酸ビニルから重合されたポリ酢酸ビニル (PVAc) を鹸化によりアセトキシ基 (-O-CO-CH3) を水酸基(-OH)に加水分解することで得られる熱可塑性樹脂です。鹸化度が高い程、ポリマー鎖中の水酸基の数が多くなります。

鹸化度により冷水や熱水への水溶性のコントロールが可能です。例えば、鹸化度が99mol%以上と高くなると、分子間の水酸基同士の水素結合性が強くなり、バリア性が高くなる一方で、冷水への溶解性が低下します。

各種反応によってもPVAの性質をコントロールでき、分子間の水酸基をジアルデヒド、ジイソシアネート、金属錯体等により架橋反応することで耐水性の向上が可能です。また、他のモノマーを共重合することにより水溶性、機械物性、化学反応性等を改善することができます。

このような化学的性質よりPVAフィルムには以下のような主な特徴があります。

  • 水溶性
  • 耐有機溶剤性が高い
  • 熱可塑性であるため熱溶着シールが可能
  • 透明性が高い
  • 透湿性が高い
  • 気体等のバリア性が高い
  • グラビア、フレキソ、スクリーン等の印刷が可能
  • 環境の湿度の影響を受けやすく機械物性に影響し易い

PVAフィルムの選び方

PVAフィルムを選ぶ際は、以下の選定要素を考慮することが重要です。

1. 用途

使用する用途に応じて、PVAフィルムの特性を選択することが重要です。一例として、食品包装には食品安全基準に適合し、高いバリア性を持つフィルムが適しています。洗剤包装には、水溶性と洗剤成分との相性、製袋適性が求められます。

2. 厚さ

PVAフィルムの厚さは、使用時のハンドリング性や製品の保護性、耐久性に影響する指標です。一般的に厚いフィルムはハンドリング性の観点で扱いやすく、耐久性が高く、製品をより強固に保護しますが、水に溶解する速度は遅くなる傾向があります。一方、薄いフィルムは包装対象物等の形状に適応しやすく、水に溶解する速度は速くなる傾向にありますが、環境中の湿度の影響により柔らかくなり、扱いにくくなる場合があります。

また、厚いフィルムほど高価となることが多いです。使用用途や使用環境を考慮し、適切な厚さを選ぶことで、製品保護性と柔軟性のバランスを取る必要があります。

3. 寸法

使用する製品のサイズに合わせて、適切なPVAフィルムの寸法を選択する必要があります。PVAフィルムは、環境の湿度の影響を受けやすいため、使用環境を考慮し、使用用途や製品に適した大きさのフィルムを選ぶことが重要です。

4. 溶解温度

PVAフィルムは水溶性ですが、溶解温度が製品によって異なる場合があります。製品の使用環境や加工プロセスに応じて、適切な溶解温度のPVAフィルムを選択する必要があります。

本記事はPVAフィルムを製造・販売する株式会社アイセロ様に監修を頂きました。

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