バッテリーシミュレータとは
バッテリーシミュレータとは、バッテリーの動作を模擬して動作する電源です。
あらかじめ設定した電池特性に基づいて充電や放電を疑似的に動作させることができ、各種機器の動作試験に使用されます。任意の電池状況を設定することができるため、仮想のバッテリーをシミュレーションすることは勿論、 敢えて低充電状態のバッテリーや異常なバッテリー使用下の機器動作の確認もすることが可能です。実バッテリーでは再現が困難な状況を繰り返して再現することにも使用されます。
また、後述するマイクログリッドの様なバッテリーを利用したBESS(バッテリーエネルーギーストレージシステム)の試験においては、電力系統の模擬に用いられるグリッドシミュレータと呼ばれる回生型交流電源と併用してバッテリ-シミュレータが使用されます。その他にも、グリッドシミュレータはパワーコンディショナ、インバータ給電、UPSなどのグリッド特性を試験することが可能です。
バッテリーシミュレータの使用用途
バッテリーシミュレータの主な使用用途は、
- バッテリーが使用されている機器一般において各種バッテリーの実際の動作の電流・電圧を模擬的に再現します。
※アプリケーションによってバッテリーパックの使用エリアが定義されており、例えばEVが定義するバッテリーSOC使用エリアは0〜90%、HEVは20〜70%と定義されています。リチウムバッテリーは事故による危険度が高いため、BMSで過電圧、低電圧(OVP, UVP)を監視、管理しており、通常のバッテリー使用エリア管理では過充電圧、過放電圧、上限動作電圧、下限動作電圧、100%-0%充放電圧の6つの重要電圧ポイントがあります。
- 電圧の歪みや周波数の変動などが想定される電源系統の模擬動作をするグリッドシミュレーターがあり、バッテリーシミュレーターと併用してBESSなどの動作試験に用いられます。
1. バッテリーのシミュレーション
バッテリーシミュレータは、実際のバッテリーの電圧・電流の挙動をシミュレートし、家電製品や産業用電子機器の開発などに生かされています。シミュレーションできるバッテリーの種類はバッテリーシミュレータによりますが、リチウムイオン電池、 ニッケル水素電池、 ニッケル・カドミウム電池、 鉛蓄電池、 NiMh-12V組電池など、多岐に渡ります。主な試験・検証項目は下記の通りです。
- 各種電池の出力模擬
- 低充電状態によるシャットオフ電圧の検証
- 電池の出力模擬
- モバイル機器の開発における試験
- バッテリー寿命の推定
- 異常状態のバッテリーの模擬動作
- インバータやコンバータなどの、電力を効率的に使う機器の開発や評価
2. 自動車分野分野
バッテリーシミュレータは、自動車バッテリーの模擬動作に特化して使用されることもあります。電圧・電流の立ち上がりをシミュレートし、
- バッテリーパックやモジュールの充放電試験、寿命の推定 (ライフサイクル試験)
- 燃料電池試験
- EV/HEV用モータやインバータの試験
- パワートレインの耐久試験
- NVH試験
- 高電圧バッテリーパックのエミュレート
- eモータ、インバータ、e-Axle試験
- スーパーキャパシタ試験
などの試験に用いられます。モータシミュレータや高速モータベンチと組み合わせて使用することも可能です。
3. エネルギー・マイクログリッド分野
バッテリーシミュレータの中には、マイクログリッド試験における電力供給や、その他、パワーコンディショナ、インバータ給電、UPSなど、様々な電力供給のシミュレーションに用いられるものがあります。この電力系統を模擬する多くの製品は、グリッドシミュレータと呼ばれています。
マイクログリッドとは、特定の限定エリア内でエネルギー供給施設 (発電・蓄電) と消費施設とをネットワーク化し、エネルギーを地産地消する仕組みです。マイクログリッド試験は、マイクログリッドを実装する前に行われる試験であり、バッテリーシミュレータ (グリッドシミュレータ) は、マイクログリッド試験における電力供給に使用されます。
マイクログリッドは、太陽光発電・風力発電・コージェネレーション・燃料電池などの発電設備および蓄電設備を複数組み合わせ複数組み合わせた電力予測が難しい仕組みであることから、複雑で信頼性の高い制御システムが必要です。
バッテリーシミュレータ (グリッドシミュレータ) は、これらの発電装置の模擬動作を行い、マイクログリッド試験に要求される電圧歪みと周波数変動などの様々な試験条件に対応して電力供給を行います。その他にも電力をグリッドに送る機能を持つ製品 (V2G 電気自動車の充電スタンド、蓄電システム) などの模擬動作にも使用されています。
バッテリーシミュレータの原理
バッテリーは、残容量によって出力される電圧や電流が変化する性質があります。バッテリー シミュレータは、このようなバッテリーの動作を模倣させることができます。
バッテリーシミュレータの多くは、充電と放電の両方を模擬することが出来るように、直流電源と電子負荷が一体になった装置になっています (回生型直流電源) 。 バッテリーシミュレーションでは、バッテリーの基本特性であるI-Vカーブ特性を元に動作を行います。
充電モードのシミュレーション (電子負荷モード) 時は、バッテリーシミュレータ機能付きの回生電源を利用して、消費電力をACラインに戻すことが可能です。直流電源と直流電子負荷の両方の機能を合わせもっているため、インバータやパワーコンディショナ、双方向のDC-DCコンバータなどの評価の際にも接続を切り替えることなく動作させることができます。
バッテリーシミュレータの種類
前述の通り、バッテリーシミュレータは、製品によって用途・機能が異なります。また、バッテリーシミュレータだけでなくバッテリーテスターとしても使える製品もあります。製品によってはAC入力を単相入力または3相入力に切り替えることも可能です。
計測機能を備えた製品では、出力電圧、電流、ピーク電圧及び電流、有効電力などの計測を行うことができる場合があります。また、製品によってGUIは大きく異なっています。用途に合わせて適切なものを選定することが必要です。
バッテリーシミュレータのその他情報
1. マイクログリッドと環境
近年の自然災害の激甚化によって、既存の系統電源供給では大規模かつ長期にわたる停電が懸念されています。小規模電力グリッドであるマイクログリッドはこのような問題を解決するシステムとして期待されています。
例えば、地震や台風で既存の系統電源が停電した場合もエリアごとのグリッドで電力供給を行うことができる他、夏期における電力不足に対して、太陽光パネル+蓄電システムの分散式グリッドを用いてエリアの電力不足を解消することが可能です。災害対応力強化として、マイクログリッドを構築する流れが自治体などを中心として進められています。
また、エリア内でエネルギー供給側とエネルギー消費側をネットワーク化し、エネルギー消費量に合わせて電力の供給を最適化されるよう制御することが可能です。また、発電時に発生するコージェネレーションの排熱を冷暖房や給湯に利用することで、熱エネルギーを有効利用することも可能であると考えられています。