インサートナットとは
インサートナットは、樹脂部材の締結部の強度を上げるために使う部材です。締付ボルトに比べ樹脂は強度が低いので、樹脂の中に主として金属製のインサートナットを埋め込み、接合部を強化するために使います。
インサートナットの外面は樹脂に固着できるように、ローレットなどが刻まれ、内面がナットねじ仕様になった部材です。インサートナットの材料は、切削性や展延性に優れた快削黄銅や鉛レス黄銅などが一般的に使われます。アルミニウムやステンレス鋼の場合もあります。樹脂製もあり、自動車用などに使われています。
樹脂部材に対して、インサートナットを樹脂の成形時にインサートする方法と樹脂の成形後にインサートする2種類の挿入方法があります。
インサートナットの使用用途
インサートナットは、樹脂部品の締結部を補強するために広範囲の用途があります。主な使用用途は、自動車・バイク・電車、航空機などの輸送機、スマートフォン、家電製品、産業機械などで、樹脂部品の締結部に使用されます。
特に自動車業界では、燃費向上のため樹脂部品を用いた軽量化が進んでいます。また、環境に優しいバイオプラスチックの採用が増えています。これらの樹脂部品の締結が増加しており、インサートナットが広く使われています。インサートナット自体も強度が高い樹脂製が開発され、軽量化に寄与しています。
工作機械では、マシニングセンタ、NC工作機器、サーボモーター、インバーター等の制御盤筐体などに使用されることが多いです。アミューズメントの分野でも、パチンコ、スロットマシンの本体を始め内部機構部品、周辺機器、ゲーム機の本体シャーシ、周辺機器など、インサートナットの利用が広まっています。
インサートナットの自動車業界での使用例
インサートナットの種類
インサートナットには形状、材料、挿入方式などの組み合わせにより多くの種類があります。インサートナットの形状は、スタンダードタイプとフランジタイプの2種類です。スタンダードタイプは最も一般的なタイプであり、一番安価です。さらに、スタンダードタイプは、片面型と両面型の2種類に分けられます。
片面型は圧入時の取付け方向が決まっていますが、両面型は両側が面取りされているので、圧入時にどちらからでも挿入できる様になっています。フランジタイプは、片側にツバが付いたもので、一方向にのみ挿入が可能なタイプです。インサートナットを樹脂部材に挿入する方法にも種類があります。
インサートナットのその他情報
インサートナットの挿入方法
インサートナットを樹脂に埋め込む方法には、成形時インサートと成形後インサートの2つの方法があります。熱を加えると柔らかくなる熱可塑性樹脂には、主に成形後インサートが使われます。また、熱を加えると固くなる熱硬化性樹脂には、成形時インサートが多いですが、成形後インサートも使用できます。
1. 成形時インサート
樹脂素材を成形加工する時に、金型にインサートナットを取り付けて樹脂を流し込み、成形します。金型にインサートナットを組み付ける必要がありますが、樹脂が溶けた状態でインサートナットのまわりに入り込むため、冷却後の強度が優れています。
2. 成形後インサート
樹脂成形後に挿入する方法には、拡張方式、圧入方式、熱圧入方式の3つの方式があります。
拡張方式
インサートナットを樹脂部材の下穴に圧入して、ナットの先端部分を拡張することで樹脂部材に固定する方法です。インサートナットを樹脂部材にハンマーで打ち込んでから、専用ポンチなどのツールを使って拡張板と呼ばれる部分を下へ押して、インサートナットの先端部分を拡張します。
この方式は、素材側のナットをはめ込むボス形状にあまり影響を受けないことと、熱源が不要である特徴があります。
圧入方式
最も一般的な方法です。熱源を使用せずに、プレスやハンマーなどを使って樹脂部材へ圧入します。ボス径を太くすることでボス割れを防ぐことができますが、樹脂部材によっては熱圧入方式に変更する必要があります。
熱圧入方式
樹脂部材にインサートナットを圧入する際に熱源を使用する方法です。部材の下穴にインサートナットをセットして、ハンダごて、超音波溶着機や熱圧入機などでナットを加熱しながら圧入します。
インサートナットに熱を加えることで樹脂部材に熱が伝わり柔らかくなるので、インサートナットを所定の位置まで楽に圧入することができます。また、樹脂が溶けながら圧入されるため、溶けた樹脂がナットに回り込んで強度が高くなります。樹脂部材側のボス形状にはあまり影響を受けない方法です。
参考文献
https://www.monotaro.com/s/pages/productinfo/insatonato_type/
https://newswitch.jp/p/7525