カダベリンとは
カダベリン (英: Cadaverine) とは、タンパク質の腐敗によって生じるプトマインと呼ばれる有毒性物質を構成する成分の1つであり、ジアミンの1種です。
IUPAC名は、ペンタン-1,5-ジアミン (英: Pentane-1,5-diamine) です。別名として、1,5-ジアミノペンタン (英: 1,5-Diaminopentane) や1,5-ペンタジアミン (英: 1,5-Diaminopentane) 、ペンタメチレンジアミン (英: Pentamethylenediamine) とも呼ばれます。
カダベリンという名称は、「死体のような (英: cadaverous) 」という英単語に由来します。カダベリンは腐敗臭の元となる化合物ですが、腐敗そのものには関与していません。また、精液の特有のにおいをなす成分の1つであり、口臭の原因物質としても知られています。
カダベリンの使用用途
1. 生体内物質
カダベリンは、生体内で様々な働きをします。生理作用は他のポリアミンに類似していると考えられており、カダベリンは細胞分裂に必須な増殖因子です。また、RNAを含む核酸やタンパク質の合成を促進する作用があるとされ、新陳代謝を活発にする効果や老化を防ぐ効果、動脈硬化を予防する効果があります。
また、腐敗によって生じるカダベリンやヒスタミンを含む不揮発性アミン類は、ヒスタミン食中毒の原因物質です。体内でヒスタミンの解毒酵素の働きを阻害したり、ヒスタミンの腸管吸収を促進したりする作用があるため、ヒスタミンの作用を増強させます。
リジン代謝異常のある患者の尿からは、カダベリン濃度が上昇していることが確認されています。さらに、カダベリンは細菌性膣炎における悪臭の原因物質の1つです。
2. 高分子材料原料
工業用途として、ナイロンなどのポリアミド合成におけるモノマーに使用されます。
カダベリンの性質
化学式はC5H14N2で表され、分子量は102.18です。CAS番号は462-94-2で登録されています。カダベリンは融点9°C、沸点は179°C、引火点は62℃で、常温で密度0.873 g/ml (25℃) の特異臭を持つ無色透明の液体です。
水やエタノールに溶け、ジエチルエーテルにも若干溶けます。水溶液は強塩基性で、酸解離定数 (pKa) は10.25と9.15です。酸解離定数とは、酸の強さを定量的に表すための指標の1つです。pKa が小さいほど強い酸であることを示します。
カダベリンの塩酸塩 (カダベリン二塩酸塩) を乾留すると容易に閉環し、ピペリジン (ヘキサヒドロピリジン) を生じます。
カダベリンのその他情報
1. カダベリンの製造法
カダベリンは、リシンの脱炭酸によって生成できます。また、1,5-ジクロロペンタンやグルタルジニトリル、またはグルタルアルデヒドを出発原料として用いても合成可能です。
天然では、リシンデカルボキシラーゼの作用によりアミノ酸の1つであるリシンが脱炭酸することによって生じます。また、リシンの乾留やリシンデカルボキシラーゼによる発酵でも得られます。
2. 法規情報
カダベリンは、以下の国内法令に指定されています。
- 消防法
危険物第四類 第二石油類 危険等級Ⅲ - 労働安全衛生法
危険物・引火性の物 (施行令別表第1第4号) - 危険物船舶運送及び貯蔵規則
腐食性物質 (危規則第3条危険物告示別表第1) - 航空法
腐食性物質 (施行規則第194条危険物告示別表第1)
3. 取り扱い及び保管上の注意
取り扱い時の対策
強酸化剤は、カダベリンの混触危険物質です。取り扱い時および保管時に接触させないよう気を付けます。また、カダベリンは可燃性液体なので、高温や直射日光、熱、炎、火花、静電気、スパークを避けてください。
取り扱う際は、適切な保護具を着用し、飛沫などが皮膚に付着しないよう気を付けます。局所排気装置内で取り扱い、使用後は手や顔などを洗います。
火災の場合
燃焼による分解で、窒素酸化物や一酸化炭素、二酸化炭素が生成する可能性があります。消火には、水スプレー (水噴霧) や二酸化炭素 (CO2) 、泡、粉末消火剤、砂を用いてください。消火活動を行う際は、個人用保護具を着用します。
保管する場合
カダベリンは、光によって変質する恐れがあります。遮光性のガラス容器に密閉し、よく換気された冷所に保管してください。保管場所は施錠します。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0235-4496JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Cadaverine