硫酸アンモニウムとは
硫酸アンモニウムとは、化学式(NH4)2SO4で表される硫酸のアンモニウム塩です。
硫安とも呼ばれ、常温においては白色無臭の結晶状の固体として存在します。pHは4.5~5.0で酸性を示します。空気中で加熱すると120℃から分解し始め、357℃でアンモニアを放って融解します。
工業的な製造方法としては、硫酸にアンモニアを吸収させることで大規模に製造する方法が一般的です。国内において消防法や、毒物及び劇物取締法などの指定に該当しない物質です。
硫酸アンモニウムの使用用途
硫酸アンモニウムは、主に農業分野において肥料として使用されています。植物の生育に欠かせない重要な物質の1つに窒素がありますが、硫酸アンモニウムは窒素を含むため窒素肥料として使用されます。
また、アンモニア態窒素は、植物の根から吸収されやすい性質があるため、速効性もあります。安価なため大量に散布することも可能です。そのため、硫酸アンモニウムは窒素肥料として重用されています。
その他スキー場で雪を固める用途や、生化学分野においてタンパク質を沈殿させる用途にも使用されます。
硫酸アンモニウムの性質
硫酸アンモニウムの分子量は132.14です。水に溶けやすく、エタノールにはほとんど溶けません。密度は1.769です。熱分解により、硫酸水素アンモニウム (NH4HSO4) 、二硫酸水素三アンモニウム ((NH4)3H(SO4)2) 、二硫酸アンモニウム ((NH4)2S2O7) と変化し、アンモニアと二酸化硫黄、窒素に分解します。
硫酸アンモニウムの構造
硫酸アンモニウムは、イオン化合物であり、イオン結合によって構成されます。
硫酸アンモニウムの分子式を分解すると、2つのアンモニウムイオン (NH4+) と1つの硫酸イオン (SO42-) が結合していることがわかります。アンモニウムイオンは、1つの窒素原子が4つの水素原子によって囲まれた陽イオンであり、硫酸イオンは、硫黄原子と4つの酸素原子によって構成される陰イオンです。
硫酸アンモニウムのその他情報
硫酸アンモニウムの製造方法
1. 硫酸とアンモニアを原料とする合成法
硫酸とアンモニアの中和反応で硫酸アンモニウムを得ます。原料コストが高いですが、設備や操作の面でメリットがあります。医薬品や試薬向けではこの合成法が用いられます。バッチ式合成法と連続式合成法の製造工程が知られています。
2. コークス製造の副生成物として回収する方法
石炭から乾留してコークスを製造する過程で、アンモニアが排出されます。アンモニアと濃硫酸を接触させて、硫酸アンモニウムを生成し、回収します。バルブ式吸収設備とシャワー式吸収設備の製造工程が知られています。
3. カプロラクタムの合成工程から副生成物として回収する方法
ナイロン原料のカプロラクタム (NH(CH2)5CO) の合成工程は以下の通りです。2と3の過程はいずれも大量の硫酸アンモニウムを副生します。
- シクロヘキサンの酸化によりシクロヘキサノンを得る
- ヒドロキシルアミン (NH2OH) 硫酸塩を用いて、シクロヘキサノンオキシムに変換する
- 発煙硫酸によってベックマン転移させてカプロラクラムを合成する
4. アクリルアミドの合成工程から副生成物として回収する方法
アクリロニトリルの加水分解に、触媒として硫酸を用いる場合、硫酸アンモニウムを副生成します。現在主流の方法である、アクリロニトリルを微生物の出す酵素で水和する方法では硫酸アンモニウムが生成しません。それゆえ、アクリルアミドの合成過程から回収する方法から得られる硫酸アンモニウムの生産量は急減しました。
5. 石炭ボイラーから出た二酸化硫黄ガスをアンモニアを用いて回収する方法
石炭の燃焼による二酸化硫黄ガスをアンモニアと反応させ、硫酸アンモニウムを得ます。直接法と間接法の製造工程が知られています。
参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nikkashi1972/1980/5/1980_5_706/_pdf