乳酸エチル

乳酸エチルとは

乳酸エチルの構造式

図1. 乳酸エチルの構造式

乳酸エチルとは、乳酸エタノールのエステルで特異臭をもった無色透明の液体です。

別名エチルラクテートとも呼ばれます。天然では、鶏肉や果実類、味噌などにも微量ながら含まれています。乳酸エチルは、その乳酸構造内に不正炭素原子をもつため、「L-体」「D-体」という光学異性体が存在します。分子中に水酸基とエステル基を有しており、水やほとんどの溶剤と自由に混ざりあいます。また、天然及び合成樹脂、合成繊維類等に対して、極めて大きな溶解力を有しています。

消防法で「危険物第4類」に、労働安全衛生法で「危険物・引火性の物」にそれぞれ指定されており、取り扱いには注意が必要です。 

乳酸エチルの使用用途

乳酸エチルには生分解性があり、作業環境や漏出時の環境負荷が極めて少ないため、有機溶剤として広く使用されています。また、乳酸エチルには、沸点が高く、揮発性が低いといった特徴があることから、インキやポリマー溶剤としても用いられています。

その他にも「半導体製造用のレジスト溶剤」「液晶パネル製造工程時の洗浄用」「香料としての添加物」「香水の原料」「殺虫剤・農薬等の原料」「土壌改良剤」など、幅広い分野で利用されています。D-乳酸エチルは、医薬・農薬の原料として使用される他、光学活性でD−体の骨格が必要な化合物の原料としても使用されています。 

乳酸エチルの性質

1. 溶解性

乳酸エチルは水にも有機溶媒にもよく溶けます。エステル結合には極性があり、親水基として働きます。また、乳酸由来の水酸基も水とよくなじむ性質があります。油となじみやすいエチル基を含むため、有機溶媒にもよく溶けます。

2. 沸点が高い

乳酸エチルの水素結合

図2. 乳酸エチルの水素結合

一般に、物質の沸点は分子量が大きいほど高くなります。これは、分子量が大きいほど分子間に働く分子間力が大きくなるからです。大きな分子間力を振り切って気化させるには大きなエネルギーを与える必要があります。

乳酸エチルは乳酸よりも分子量が大きく、沸点が高くなっています。しかし、他のカルボン酸がメタノールやエタノールとエステルを作った場合、分子量が増えているのにもかかわらず、元のカルボン酸よりも沸点が高くなる傾向があります。これは乳酸エチルはカルボン酸と同じように分子間で強い水素結合をつくるのに対して、他のエステルは水素結合を作らないためです。

名称 化学式 分子量 沸点
乳酸 CH3CH(OH)COOH 90 122℃
乳酸メチル CH3CH(OH)COOCH3 104 144℃
乳酸エチル CH3CH(OH)COOC2H5 118 154℃
酢酸 CH3COOH 60 118℃
酢酸メチル CH3COOCH3 74 56℃
酢酸エチル CH3COOC2H 88 77℃

 

3. 特有の芳香がある

乳酸エチルには特有の芳香があり、果実や乳製品あるいはナッツのような香りがします。気化した乳酸エチルの分子は空気中を拡散して鼻の粘膜にある嗅細胞に到達します。分子の形と大きさによって嗅受容体との相互作用の仕方が異なるので、特有の香りを感じるのです。

清酒や焼酎などの酒類の中にも乳酸エチルが含まれていることが知られており、香気の指標として使われています。醸造の際に使用される酵母の中に乳酸菌が含まれているため、乳酸菌が排出する乳酸とアルコール発酵でできるエタノールが反応して乳酸エチルが生成されます。

4. 有機溶媒として安全性が高い

石油を原料とする有機溶媒には人体や環境に有害な有機化合物が多く含まれています。これらに比べて乳酸エチルは毒性が小さく、微生物によって分解されて最終的には二酸化炭素と水になって自然に還ります。このように乳酸エチルは環境負荷の小さい「グリーンソルベント」として注目されています。

乳酸エチルのその他情報

1. 乳酸エチルの製造方法

乳酸エチルの製造

図3. 乳酸エチルの製造

乳酸とエタノールを混合し、触媒を加えるとエステル化によって乳酸エチルが生成します。触媒としては濃硫酸などの強酸が用いられます。この反応では硫酸からのH+が触媒として働くと同時に、生成する水が濃硫酸と水和して反応系から排除されるので、下の図の平衡がより右に移動します。

2. 乳酸エチルの安全性情報

乳酸エチルは、有機溶媒の中では比較的毒性が小さいですが、液体や蒸気には引火性があります。また、目や呼吸器に刺激を与える恐れがあります。消防法で「危険物第4類」に、労働安全衛生法で「危険物・引火性の物」にそれぞれ指定されており、取り扱いには注意が必要です。 

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0105-0380JGHEJP.pdf

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