黒錆加工とは
黒錆加工とは、金属表面に緻密で安定した酸化鉄被膜を生成させる表面加工法です。この酸化鉄被膜は、四酸化三鉄(組成式 Fe3O4)被膜であって、黒色をしているため黒錆加工と呼ばれています。(工業的には一般的に黒染加工と呼ばれることが多いです)
黒錆加工で形成された被膜は、金属の耐食性を高めます。また、皮膜自体の厚さも薄いことから加工物の寸法がほとんど変わりません。クロムメッキのような通常のめっき処理や防錆塗装処理が施された加工物では、経年劣化などによってめっきや塗装が剥離することがあります。その点、黒錆加工は、表面を酸化させる化学的処理ですから剥離の心配がありません。
黒錆加工の使用用途
黒錆加工は、低コストで耐食性、耐摩耗性、耐熱性を付与することができ、さらに長期使用による皮膜の剥離もありません。よって、身のまわりの生活用品から鉄構造物、産業機械にいたるまで大小さまざまな金属部材・製品に用いられています。
黒錆加工で形成された皮膜は、1~3㎛と薄く、加工寸法の変化がほとんどありません。よって、精密部品や繊細な模様の製品を加工するのにも向いています。さらに、黒錆は独特の風合いを持った黒色をしていますので、製品の意匠性を高めるといった効果も付与します。
黒錆加工の原理
私たちがイメージする錆として、鉄につく赤錆があります。赤錆は、表面から徐々に内部へ浸食していき金属を劣化させる性質を持っています。これに対し黒錆は、一部の金属を除いて、赤錆のように自然に発生することがなく、浸食性もありません。そこで、あらかじめ人工的に酸化皮膜(黒錆)を形成することで赤錆の発生を抑制しようというのが黒錆加工処理の目的の一つです。
黒錆を生成する酸化皮膜処理法として最も一般的なものにアルカリ黒色酸化法があります。アルカリ黒色酸化法は、酸化材を添加した苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)溶液などのアルカリ溶液に加工物を浸し、140~150℃で熱処理することによって黒錆を生成する工法です。この工法は、熱処理温度が比較的低く、化学反応もゆっくり進行するため、形状や寸法をほとんど変化させずに加工物を処理することができます。
黒錆の工法として他に水蒸気法があります。水蒸気法では、金属の焼戻し過程に水蒸気を入れることで金属と水蒸気が酸化還元反応を起こし加工物表面に黒錆が生成されます。この工法で生成された酸化皮膜(黒錆)は、アルカリ黒色酸化法より強固なものになります。